第43話 近衛部隊

 ダンジョン第1階層のゴブリンを相手に、駿助とガイアは、第7騎士団との特訓の成果を実感していました。


 そして、第7騎士団は、駿助とガイアを先頭にゴブリン共を殲滅しながら、ダンジョン出口へと向かいます。




 - ダンジョン出入口付近 -


 駿助は、幅の広い洞窟の壁際に、きれいに並んだ銀色の甲冑の姿を遠目に見つけました。まだ距離はありますが、まるで置き物のように動く気配のない甲冑に駿助は眉を顰めます。


「綾姫様、壁際に甲冑が並んでいるんですけど、あれって魔物じゃないですよね」

「ああ、あれは我が国の近衛部隊だな」


 駿助の問いに、綾姫様は眉間に皺を寄せて答えました。


「近衛部隊っていうと・・・」

「王を守るため、屈強な騎士で構成された部隊でござるな」


 ガイアの呟きに、デビットが先んじて言いました。

 デビットも浮かない顔をしています。


「えっと、まさか、王様が来ているってパターンですか?」

「それは無いな。たぶん、王の使いだろう」


 駿助の推測を、綾姫様が正します。


 こちらに気付いた近衛部隊が、綺麗に2列に並んで近づいてました。

 近衛部隊の隊長らしき人が、綾姫様へ恭しく声を掛けてきました。


「綾姫様、お待ちしておりました」

「うむ、近衛部隊が来たということは、王命か?」


「左様でございます」

「そうか。まずは詳しい話を聞かせてもらおうか」


 綾姫様はニーナへ目くばせすると、デビットと近衛部隊隊長と洞窟の壁際へ向かいました。どうやら3人だけで話をするようです。


 近衛部隊の面々は事前に打ち合わせでもしてあったのか、反対側の壁際できれいに並んで直立不動の姿勢で待機しています。


 第7騎士団にはニーナが少し離れたところで休憩を取るよう指示を出していました。駿助とガイアも騎士団と共に移動しましたが、やはり気になるようで綾姫様達の方へ視線を向けていました。



 しばらくすると、綾姫様達が第7騎士団の下へと戻ってきました。

 誰に言われるまでもなく騎士達は整列し、背筋を伸ばして綾姫様に傾注します。

 騎士達の注目を浴びる中、綾姫様は落ち着いた面持ちで口を開きました。


「諸君、王命が下った。我々第7騎士団は、これより魔王軍討伐任務へと移行する。それに伴い、現在遂行中の勇者護衛任務は、近衛部隊へ引き継ぐこととする。

 行先は、これより北西方面だ。出発は1時間後とする。それまでに、各自、食事を済ませ、準備を整えるように。以上だ」


 綾姫様の指令により、第7騎士団は食事と討伐準備を始めました。

 魔王軍と聞いても、誰一人怯える様子がありません。


 パンと干し肉を手に、綾姫様が駿助とガイアのところへやってきました。


「駿助、ガイア、お前達には悪いが、この先は近衛部隊と共にメイグル経由で首都マレオへと向かってくれ」


「分かりました。それより魔王軍討伐って言ってましたけど大丈夫ですか?」

「問題ない。軽く捻って来るだけだ」


 駿助が心配そうに聞くと、綾姫様は、まるで雑務の処理でもするかのように軽く言ってのけました。


「それより、駿助、当面の間、変身スキルを使うでないぞ」

「えっ?何で?」


「あんなおかしな格好に変身すれば、新手の魔物か魔王軍と間違われるぞ。問答無用で討伐されかねないな」

「あはは、そう言えば、綾姫様にも最初怪しまれましたよね」


 駿助は、苦笑しながら鼻の頭を掻きました。


「少なくとも、王を始め、各騎士団にお披露目するまで、人前で変身はするな」

「いや、お披露目したくないです。恥ずかしいんで・・・」


 真顔でお披露目を拒絶する駿助に、綾姫様はやれやれとダメな弟でも見るような目を向けるのでした。



 食事を終え、準備が完了すると、綾姫様率いる第7騎士団は魔王軍討伐へ向けて出立して行きました。


 駿助達は第7騎士団を見送ってから、近衛部隊に率いられ、ダンジョンを後にしました。まずはメイグルの街を目指します。


 前後に4人ずつの近衛騎士、その間に、駿助とガイア、そしてデビットが入る形で隊列を組み、森の中を進みます。


「デビットさんが一緒に来てくれて心強いじゃん」


 やはり見知った仲間がいると安心するのでしょう、ガイアは自然と笑みを浮かべていました。


「はっはっは、某もメイグルの街へ向かわねばならんのでござるからな」


 デビットは、メイグルの街で第7騎士団本部と連絡を取り、増援部隊を編成せよとの綾姫様直々の任を受けて、駿助達と同行しているのです。


 時折、トカゲ系の魔物が襲ってきましたが、近衛部隊が危なげなく討伐して、どんどん先へと進みます。夕暮れまでには、メイグルの街へ到着する予定です。


 しばらく進むと、左手に湖が見えました。


「綺麗な湖じゃん」

「サマロ湖でござるな。この湖の向こう側には畑が広がっているでござる。我が国の穀倉地帯でござるな」


「へぇ、でも、魔物に畑を荒らされないの?」

「森の中と違って魔物も弱く、数が少ないでござるよ。だから、大した被害は出ないでござる」


 ガイアの素朴な疑問に、デビットは丁寧に答えてくれました。


「湖にも魔物っているんですか?」

「この湖には、ズズリという面倒な魔物がいるでござるな。湖に近づく者を湖の底へと引きずり込んでしまう魔物でござる。だから湖のそばには近づかない方がよいでござるぞ」


 駿助の質問にも、デビットは嫌な顔一つせずにしっかりと答えてくれました。

 まるで学校の先生のようです。


「何それ、怖いじゃん」

「近づかなければ大丈夫でござるよ」


 デビットは微笑みながら、怖がるガイアの背中をポンポンと叩くのでした。


 いろいろ話をしながら、順調にメイグルへ向かって森の中を進んでいると、駿助達は、すっと霧に包まれてしまいました。まるで雲が押し寄せて来たかのようです。


「こ、この霧は、まさか魔王軍か!?」


 突然、視界が霧に遮られ、近衛部隊の面々が騒めき立つ中、近衛部隊隊長の声が聞こえてきました。


 そして、霧の中から法螺貝の音色が怪しく鳴り響いてきました。


 プァオ~、プァオ、プァオ~~・・・。


「あそこでござる」


 身構えたデビットが指し示す先には、ローブを纏ったカエル頭が法螺貝を片手に立っていました。


「ゲロゲロッ、我が名はボケイ・ダ・ゲーロ、魔王軍のエリート工作員だゲロ」


 カエル頭は、ローブを翻し、そう名乗るのでした。


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