第42話 訓練の成果

 索敵訓練を前に、駿助とガイアは、綾姫様、デビット、ニーナの3人からそれぞれアドバイスを受けていました。


 綾姫様曰く、

「索敵は直感だ!そこにいる!っと思ったら、だいたいそこに魔物がいるものだ」


 デビット曰く、

「気配を感じるでござる。魔物が放つ殺気を感じられれば、見つけるのは容易でござるぞ」


 ニーナ曰く、

「この世のあらゆるものには魔力が備わっています。特に魔物は大なり小なり体から魔力を放出していますので、それを感知すればいいのです」



 先人からの貴重なアドバイスを受けて、駿助は顎に手を当てブツブツと考え込んでしまいました。


 3人のアドバイスはありがたいけど、言ってることがバラバラじゃね?

 いったい、どれを信じればいいのだろうか。

 いや、あの3人の実力は本物だし、どれも正しいのか?


 綾姫様はさておいて、デビットさんの言ってるのは気配感知だな。

 そして、ニーナさんの言ってるのは、魔力感知。

 俺の異世界ファンタジー知識的にはそうなるな。


 うん、それが出来れば索敵楽勝だよね。

 具体的にどうすれば感知出来るのかを教えて欲しい。


 そう考えると、綾姫様のアドバイスが一番具体的なのか?

 いや、でも直感でいいのか?

 そこにいる! で本当に魔物が見つかるのか?


 う~ん・・・よく、分からん。

 よし、分からんことがよく分かった。


 とにかく、何かを感じろということだな。


 五感、いや、第六感も含めて、感じ取るのだ。

 唸れ、俺の感覚器官!!


 何かもやもやが吹っ切れたかように、駿助は1つ大きく頷くと、索敵訓練へ挑むのでした。



 ダンジョン第5階層から始まった、駿助とガイアの索敵訓練バトルは、はじめこそ五分五分の勝敗でしたが、途中から駿助がややリードする展開となりました。


 翌日、ダンジョン第1階層へと辿りつくころには、駿助のリードが明確となり、綾姫様が『面白くないからやめる』と宣言、駿助の勝利が確定しました。





 - ダンジョン第1階層 -


 第7騎士団は、ダンジョン1階層へとやってきました。


「さて、諸君、第1階層だ。この先、我々の行く手を遮る魔物はすべて、駿助とガイアの2人に倒してもらう」

「ええっ? 俺達がですか?」

「2人だけで!?」


 綾姫様の指令に、駿助とガイアは驚きを隠せません。


「問題ない。これまでの訓練の成果がお前達を助けてくれる、・・・はずだ」


 綾姫様は、つまらない余興でも見ているかのような顔つきで淡々と述べると、ちょっとだけ目を逸らすのでした。



 第1階層は洞窟タイプのエリアです。

 駿助とガイアを先頭に、第7騎士団は行軍を始めました。


「まったく、綾姫様にも困ったものだな」

「木刀一本じゃ、心細いじゃん」


 駿助とガイアは、緊張した面持ちで、けれど愚痴を零す余裕を見せながら、騎士団の先頭を走ります。

 武器は綾姫様の『木刀で十分だろ』の一言で、素振りに使っていた木刀のみです。


「グギャ!」

「グギャギャッ!」


 早速、ゴブリン3体が現れました。


「来たぞ、ガイア」

「ゴ、ゴブリンなら何とかなりそうじゃん」


「とりゃ! 先制投石!」


 駿助が石を投げつけ、ゴブリン1体の顔面に直撃させて転ばせました。


「よっしゃぁ! これで2対2、左は任せたぞ」

「うん!」


 駿助とガイアが左右に分かれると、ゴブリン共もそれぞれ1体ずつに分かれて襲ってきました。


「うおりゃぁ!」


 気合一閃、駿助がゴブリンの頭めがけて木刀を振り降ろしました。

 木刀はゴブリンの頭にめり込み、ゴブリンはそのまま動きを止め、そして砂のように崩れ落ちました。


「うおっ、一撃でやっつけた!?」


 駿助は驚きました。

 これまで、ゴブリンを倒すのに、剣で4~5回攻撃してやっと倒していたのです。

 それが、木刀で、しかも一撃で倒したのですから驚くのも無理はありません。


「グギャ!!」

「くっ、もう一体来たか! このっ!!」


 石をぶつけたゴブリンが起き上がって襲ってきたところを、駿助は袈裟がけに切りつけると、またもや一撃で倒してしまいました。


「これが、訓練の成果か・・・」


 砂のように崩れ落ち、消えてゆくゴブリンを見つめながら、駿助は、そう呟いていました。


「駿助、駿助、なんか凄いじゃん! ゴブリンを簡単に倒せちゃったじゃん」


 同じくゴブリンを倒したガイアも、訓練の成果を実感したようです。

 興奮気味に話しかけてきました。


「俺もだ! 一撃で倒しちまったぜ」

「うん、勇者スキルなしで一撃じゃん! これも訓練の成果じゃん」


「身体強化でパワーが上がったからだろうなぁ」

「それに、ゴブリンの動きが止まって見えるくらいじゃん」


「そうだな。なんか、強くなってるって実感がわくな」


 2人とも、興奮冷めやらぬ状態で、強くなった実感を話し合いました。

 とても嬉しそうで、生き生きとしています。


 その後も、次々とゴブリンが現れ、2人でさくさくと倒して行きます。

 そして、ゴブリンを倒しながら、駿助は思います。



 ここ数日の間に確実に強くなっている。

 訓練の成果だろうな。


 まず、ゴブリンの動きが良く見える。

 肝試し訓練の効果だろうな。

 ゴブリンを前にしても、全く怖さを感じないんだ。


 恐竜共に比べれば、ゴブリンの動きなんて、へでもないからな。

 殺気の度合いも違えば、動きも遅いんだよ。

 これなら、落ち着いて対処できる。


 そして、俺自身、体の動きが軽い。

 身体強化を覚えたことが大きいな。


 加えて、恐竜共を前にして、逃げ回っていたおかげだろうな。

 恐竜共の殺気は半端なかった。

 それを前にして動けたのだから、ゴブリンごときに遅れはとらない。


 結果、ゴブリンを一撃で倒せるようになったんだ。

 身体強化で筋力を上げたおかげだな。

 一撃のパワーが違っているんだ。


 そう思えば、厳しい訓練も懐かしく感じるな。

 あ、でも、俺を魔物へ向かって投げ飛ばすのはやめて欲しい。

 冗談抜きで、あれは心臓に悪い。


 おかげで、空中で姿勢を変えて、上手く着地が出来るようになったがな。

 はっはっは。




 何体ものゴブリンを倒したあと、綾姫様が怪訝な顔で言いました。


「駿助、ゴブリン相手にニマニマするの、気持ち悪いから止めろ」


 えっ!?

 俺、そんな顔してたの?


 「うそ!? みんな、そんな白い目で見ないで!!」


 駿助は、皆の視線を両手で遮りながら、悲痛な叫びを上げるのでした。


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