第15話 生き残り作戦

 魔王軍の工作員アホウ・ダ・ゲーロが呼び寄せたヒュージスライム達に行く手を遮られ、幾度もルートを変えながらダンジョン脱出を試みる駿助達第4グループ。


 もう少しで出口というところで、すべてのルートをヒュージスライムに阻まれてしまいました。



「出口の方へ向かおう」

「しかしヒュージスライムが・・・」


 マーロン教官の言葉に、護衛兵の一人が困惑気味に答えました。


「ああ、確かにヒュージスライムがいる。だが、何処へ向かってもヒュージスライムがいるこの状況では、出口に向かうのが最善だ。そして、ヒュージスライムの左右を半数ずつに分かれて走り抜ける。そうすればどちらか半分は無事にダンジョンから出られるだろう」


 マーロン教官が苦肉の策を提示すると、しばし沈黙が訪れました。


「の、残りの半分は?」

「ヒュージスライムと戦うことになるだろうな」


 確認するように問いかけた、とある勇者の言葉に、マーロン教官が渋い顔で答えました。ヒュージスライムと戦っても勝てないと分かっているのでしょう、皆の顔が強張っています。


 第4グループは勇者15人とその護衛が15人、加えてマーロン教官と部下2名の33人で構成されています。そのうち、半数というと16人ないし17人が死ぬということになるのです。


 自分が生き残れるかどうかは運次第ということに、納得が出来るはずもなく、しかし、他に良い手も思いつかない、そんな状況に対して皆複雑な思いを抱いているのでしょう。


 そんな暗い沈黙を破るように駿助が口を開きました。


「半分よりか、もう少し助かるんじゃないかな?」

「どういうことだ?」


 駿助の言葉に、マーロン教官ギロリと睨みつけながら問いかけます。


「えっと、一気に駆け抜けるのではなくてですね、じりじりと進むんです。そうすれば、ヒュージスライムの方もどちらかの集団をターゲットにして向かってくるはず。


 そこで、ヒュージスライムに迫られた側は一度引き返すんです。そして再度二手に分かれてヒュージスライムの左右を進む。同じように繰り返せば、最終的には犠牲は1人で済むはずです」


 まぁ、上手くいけばの話だけどな。


 ヒュージスライムがこちらの思惑通りに動くかどうかも怪しいが、ダメもとで試すのもありだろう。突撃して玉砕よりはずっといい。


「なるほど、それはいいかもしれない」

「生き残る確率が増えるのね」


「でも、一人は犠牲になるんだよな」

「ああ、そこは恨みっこなしで」


 ふむ、どうやら、みんな賛成してくれそうだ。


 本当は誰か囮になってヒュージスライムを引き付けてくれるといいんだけど、誰も囮なんて引き受けてくれないだろうな。

 もちろん、俺もごめんこうむる。


「みんな異論は無いようです。マーロン教官、ご決断を!」

「う、うむ、それでは、グループ分けを行おう」


 駿助からの提案だったのが気に入らなかったのでしょう、むすっと黙り込んでいたマーロン教官でしたが、部下に促されて渋々といった顔で指示を出しました。


 グループ分けは、第43班の半数ずつを第41班、第42班に振り分けることになりました。


 更にヒュージスライムにターゲットにされた場合に、どう分かれていくかを具体的に決めた後、作戦決行となりました。


 ヒュージスライムへ程よく近づいたところでマーロン教官が声を上げます。


「皆の者、作戦実施の時だ! 慌てて急に走り出すとヒュージスライムが飛んでくるから気を付けろ!」

「「「はい」」」


 護衛達が大きく返事を返したところで、左右に分かれて壁際をじりじりと進み始めました。


 ポヨポヨ・・・、ズリズリ・・・


「くそったれ、こっちを狙ってきやがったか・・・」


 向かって右側の壁沿いを護衛の陰に隠れるように進んでいたマーロン教官が渋い顔で呟きました。


 その言葉どおり、ヒュージスライムはじりじりとにじり寄ってきます。


 その隙に、左側の壁沿いを進むグループが、足を速めてヒュージスライムの脇をすり抜けていきました。


「おい、一旦引くぞ」


 マーロン教官の声が掛かると、皆無言でヒュージスライムから一度距離を取るため引き返しました。


 ヒュージスライムの方は、慌てる様子もなく、じりじりと向かってきますが、動きが遅いため若干距離を取ることが出来ました。


 この世界において、スライムは急に逃げ出す獲物に対して、すごい勢いで飛び掛かる性質があるため、逃げる時はゆっくり距離を取るのが鉄則と言われています。


「ちくしょうめ、ぐずぐずしていると後ろの奴と挟み撃ちになるかもしれん。作戦第二弾だ、行くぞ!」


 マーロン教官の指揮に従い、再び左右に分かれて壁沿いを歩き始めます。


 後ろからも遠目にヒュージスライムが見えてきているため、それほど時間の猶予はありません。


 こうして作戦は、第二弾、第三弾と進められ、残る5人で第四弾の作戦を行うことになりました。


 その作戦の直前に、マーロン教官が強引に護衛の振り分けを変えてしまいましたが、護衛達は上官の指示には従うしかありません。


 駿助とマーロン教官、ガイアと護衛2人の組み合わせで分かれて作戦を実行します。


 ポヨポヨ・・・、ズリズリ・・・


「ちくしょう、人数が多い方を狙うんじゃないのかよ・・・」


 マーロン教官が顔を真っ青にして、情けない声で呟きました。どうやら、人数の多い方をターゲットにすると思い、強引に組み合わせを変更したものの裏目に出たようです。


 ヒュージスライムがにじり寄る中、反対側を行くガイアと護衛2人は足早にヒュージスライムの脇を抜けて行きました。


 最後にガイアが一度振り向いて顔を歪めながらも、何かを振り切るように駆けて行ったのが印象的でした。



「マーロン教官、一度下がりましょう」

「そ、そうだな」


 駿助がヒュージスライムの動きを警戒しつつ、一度距離を取ろうと動き始めました。


 その直後、マーロン教官が背後から駿助の頭を殴り付けました。


「ぐはっ!」

「がははははっ、悪いが犠牲になってもらうぞ、残念勇者!!」


 マーロン教官は、そう叫びながら、倒れた駿助の足を掴んでジャイアントスイングで振り回し、ヒュージスライムへと投げつけました。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


「お前の犠牲は無駄にはしない! 勇敢にもヒュージスライムへ立ち向かったと報告しておいてやるわ!」


 トプン、とヒュージスライムに飲み込まれる駿助に、そう言い残してマーロン教官はダンジョンの出口へ向かって逃げ出しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る