第14話 ヒュージスライム

 楽し気に小躍りしながら、自身の計画を吐露するアホウ・ダ・ゲーロ。

 その計画は、この階層にスライムを大量に呼び出し続けて、溢れたスライムがダンジョンを出て人々を襲うというものです。



「お前達もスライムに食べられないように気を付けるゲ・・・」


 言い終わらないうちに、アホウ・ダ・ゲーロの真上から巨大なスライムが降って来て、彼をトプンと飲み込んでしまいました。


「「「「えっ?」」」」


 予想もしなかった展開に、駿助達は目を点にして、呆けた声を上げてしまいました。


「はっ!? 駿助、駿助、あ、あれが奴の真の姿じゃないのか?」


 いち早く我に返ったガイアが興奮気味に訴えました。


「えーっと、真の姿と言われてもなぁ・・・。でかいスライムが降って来て、カエルを飲み込まれたように見えるのだが・・・」


「いや、あれは、究極のスライム合体じゃん! 見てみろよ、あの落ち着き払った態度、間違いないじゃん、スライム装甲を纏った究極の戦闘形態に違いないじゃん!どうしよう、どうしよう」


 何かが振り切れたように、興奮状態で自身の推論をまき散らすと、ガイアは頭を抱えてジタバタしてしまいます。


 対して、駿助は落ち着いたものです。パニックになっているガイアを間近に見たために逆に落ち着いてしまったのでしょう。


「そ、そうか? 突然の出来事に呆然としているだけにみえるが・・・。あ、動いた」


「うわぁ、駿助、駿助、あれ、目が血走ってるじゃん。全体こっちを攻撃してくる気じゃん。あの動きはきっと大技スキルの発動準備じゃん!どうしよう、どうしよう」


 手足をバタバタと動かすアホウ・ダ・ゲーロの姿を見て、大技スキルが来るぞと、ガイアが血相を変えて喚き散らしています。


「んー、だけど、あれ、息が出来なくて藻掻いているっていうか、溺れてる?」

「何言ってるんだ駿助、奴はカエルじゃんか。カエルが溺れるわけないじゃん」

「そうか?どうみても溺れているように見えるんだが・・・、あ、息を吐きだした」


 アホウ・ダ・ゲーロは、ゴボッと息を吐きだすと、動きが止まってしまいました。


「「「・・・・・」」」

「やっぱ溺れたっぽいな・・・」


 皆が沈黙で見つめる中、駿助がボソッと呟きました。



「はっ!? みんな、逃げるぞ!」


 漸く我に返ったマーロン教官が大きな声で指示を出すと、みんなが一斉に動き出しました。


 アホウ・ダ・ゲーロにぶっ飛ばされた護衛も連れて、マーロン教官の指示の下に逃げ出しました。


「出口とは違う方向へ逃げてるようですけど大丈夫なんですか?」


 来た道とは違うルートに入ったため、駿助が側にいた護衛兵に尋ねました。


「ああ、この階層は迷路状になっているけど、迂回するルートがあるから大丈夫だ。第一層の地図は俺達護衛の頭の中に入っているから逸れないようにしてくれ」


 護衛兵は自信満々に答えてくれました。

 ホッとしたのも束の間、すぐに前を行く兵士の声が響きます。


「前方にヒュージスライムです!」

「くそう、あのカエルの仕業か。ルートを変えるぞ、急げ!」


 すかさずマーロン教官が指示を出し、別のルートへ向かいしました。

 ダンジョンに巣食うゴブリン共は護衛が率先して蹴散らして先を急ぎます。


「ダメです、この先にもヒュージスライムがいます」

「クソっ、戻れ! ほかのルートだ」


 アホウ・ダ・ゲーロの言葉のとおり、ダンジョン第一層にいるはずのないヒュージスライムが多数呼び寄せられているようです。


 なんとかダンジョンからの脱出を試みる駿助達の行く手を遮るように現れてくるため、何度も何度もルートの変更を余儀なくされました。


「ようし、もう少しだ、この先にダンジョンの出口があるはずだ。ようやくダンジョンから出られるぞ!」


 マーロン教官の声に、疲れ果てた勇者達の顔にも安堵の色が浮かび上がりました。自ずと皆の進むスピードも上がっていきます。




 しかし、そんな希望も長くは続きませんでした。


「ヒュ、ヒュージスライムです!」

「くそっ、またか。迂回ルートは・・・」


「少し戻りますが、分岐があるはずです」

「よし、そちらへ向かおう。分岐まで走るぞ!」


 護衛の報告から、またもやルートを変更することになり、来た道をやや戻って分岐へと向かうことになりました。




「ヒュージスライムが・・・」


 分岐の先からじりじりとにじり寄るヒュージスライムを見つけて、護衛の一人が呟きました。


「くそっ、他にルートは・・・」

「ダメです。全てのルートにスライムがいます」

「ぐぬぬ・・・」


 護衛達からの報告に、マーロン教官は苦渋に顔を歪めます。


 スライムに囲まれてしまった現状に、第4グループの勇者達もみな顔を真っ青にしていました。

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