第7話 訓練開始

 今日から勇者達はグループに分かれて訓練を始める予定です。

 グループ毎に指定された訓練場に集まった勇者達が雑談しながら訓練を待っています。


「うう、眠い」


 結局朝方まで体内の魔力を探してしまった。


 おへその下あたりに魔力の源があると思って探していたのだが、見つからず。

 なんと、胸のど真ん中らへんに魔力を感じられた・・・気がする。



「おはよう、勇者諸君。私はマーロン、短い間だが君達の訓練指導を行う教官職を拝命した。よろしく頼む。


 まず、いきなりだが厳しいことを言っておこう。

 この第4グループは勇者スキルの攻撃力が最も低いグループだ。


 つまり、現時点では弱小勇者達が集まっているといえよう。

 いわば君達はクズ勇者だ」


 うわぁ、クズ勇者発言だよ。

 そんなこと言っちゃっていいのか?

 周りのみんなもざわついてるぞ。


 ざわつく勇者達をゆっくりと一望してから、マーロン教官は言葉をつなぎます。


「だが、君たちは召喚されたばかりの勇者だ。まだまだ成長の余地がある。

 特に魔力の使い方には慣れていないだろうから。そのあたりのコツを掴むだけでも見違えるように強くなれるだろう。


 ここでは魔力の使い方を学び、勇者スキルの強化訓練を中心としていくつもりだ。

 すぐに魔物と実戦形式の訓練へと移行するから勇者スキルの使いどころもしっかりと身に着けてもらいたい。そして上のクラスの者を見返してやるといい」


 やっぱり魔力がポイントか。

 ふふふ、睨んだ通りだな。

 早速昨夜の努力が実を結ぶ時が来たぞ。


「それでは訓練を始める。

 君たちは魔力の無い世界から来たと聞いている。

 だが、君たちは既に魔力を使って勇者スキルを発動しているのだ。


 勇者スキルを使う際に、体の中に流れる熱いエネルギーがあるはずだ。

 それが魔力だ。まずはそれを意識して欲しい」


 マーロン教官の言葉を聞いて、勇者達は勇者スキルを使ってみます。


 もちろん、誰もいない空間へ目掛けてスキルを放っています。

 勇者スキルは危険なので、人に向けて放ってはいけないと、勇者召喚機構の方から厳重に注意されているのです。


「おおっ、これが魔力か」

「なるほど、この体の中を流れるような力が魔力なんだな」


「お腹の辺りがらふつふつと湧いてくるような感じだな」

「私は胸の中心から漲ってるわ」


 皆、次々と魔力を感じ取っては、嬉しそうにその感想を漏らします。


 えっと、みんなそんな簡単に魔力を感じちゃってるの?

 俺、ほぼ徹夜したんだけど・・・。

 朝まで頑張って寝不足なんですけどぉ!?

 なんか、思ってたのと違うんですけどぉ!?


 ってか、俺の感じた魔力は魔力なのか?

 勇者スキルを発動する時に感じるとか言ってたな。

 確認してみたいけど・・・、俺のスキルってあれだしなぁ・・・。



「どうした?君も勇者スキルを使ってみたらいい。スキルを使うときに流れる自身の魔力を意識するんだぞ」

「あーっと、そうですねぇ・・・」


 マーロン教官、俺は勇者スキルを使いたくないんですよ。

 あの恥ずかしい格好はあまり人前で見せたくない。

 だから放っておいて欲しいんだけど・・・。


「さぁ、勇者スキルを使ってみなさい」

「ええと、心の準備がですねぇ・・・」


「どうした?勇者スキルを使うだけだ。そうすれば魔力を感じられるはずだ。

 簡単だろう? さぁ、スキルを使ってみなさい」


「あの、近い、近いです。顔が」

「さぁ、さぁ!」


 駿助の内心とは裏腹に、マーロン教官はぐいぐいと迫ってきます。


「変身勇者はいるかー!!」


 そこへ、突然駿助を呼ぶ大きな声が響き渡りました。

 見れば、白衣を着た男がキョロキョロと誰かを探しています。


 マーロン教官は慌てた様子で白衣の男の下へと向かい、話しかけます。


「おおっ、プロトン博士! こんなところへいらっしゃるとは思いませんでした。第1グループの視察の方は良いのですか?」


「ん? 君がこのグループの担当か? 変身勇者はどこだ?」

「えっと・・・、変身勇者、ですか?」


 プロトン博士に変身勇者の存在を尋ねられるが、マーロン教官にはピンと来ていないようです。


「博士、森山駿助という名の勇者です」

「おお、そうそう、そんな名前の変身勇者がここにいると聞いたのだが、どこだ?どこにいる?」


 プロトン博士と共にやってきた眼鏡を掛けた女性が駿助の名前を出しますが、プロトン博士はそうそうと言いながら、名前なんてどうでもいいといった感じで、マーロン教官へと雑に尋ねます。


「おーい、森山駿助はどこだ? すぐに返事をしろー」

「えっと、私ですが・・・」


 マーロン教官が大声で駿助を呼ぶと、駿助が申し訳なさそうに手を上げました。

 すると、プロトン博士が目を輝かせて駿助の下へと駆け寄ります。


「おお!! 君が変身勇者か! 変身すると真っ白になると聞いたが本当か? いや、見ればわかるか、そうだろう、そのとおりだ。さぁ、変身だ、変身するところを見せてくれ!」


「いや、あの・・・」


 ちょっと、落ち着いて!

 そんなに肩を揺すらないでくれ!


 何この人、顔が近い、近すぎるよ!

 そして鼻息荒い!!

 ちょっと怖いんですけど!!


「博士、落ち着いてください」


 その言葉と共に、眼鏡の女性のもつハリセンがプロトン博士の後頭部をバシン打ち鳴らしました。


「痛いじゃないか、ミランダくん」

「博士、まずは、私を紹介するのが先かと」

「いや、君を紹介ってどういう流れ? あー、自己紹介がまだだったね。私はプロトン。勇者の研究をしている者だ」


 突然やってきたプロトン博士に駿助は戸惑いを隠せないようです。

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