第201話 フロアボスとの戦い
晶が作った二種の爆弾と奏多の毒矢の威力は凄まじく、十二階層での狩りは順調だった。
小型化したブランが『釣って』きたシルバーウルフの群れをセーフティエリア内からひたすら攻撃して倒していく。
このレベリング作戦のおかげで、四人ともレベルアップが捗った。
倒したシルバーウルフたちの魔石を半分ほど食べたブランもかなり強くなったように思う。
そうなると、ついつい欲が出てくるもので。
「今日はフロアボスに挑んでみないか?」
ぬくぬくのゲルテント内でのランチを楽しんでいる際に、甲斐がそう提案してきた。
ちなみに本日の昼食メニューはクマ鍋だ。
七階層で倒したキラーベアの肉を使った味噌味の鍋はピリ辛に仕上げたので、お腹の底から温まる美味しいランチだった。
締めのうどんを飲み込むと、美沙は眉を顰めて甲斐を見やる。
「さすがに、まだ早すぎない? 楽に倒せているのはセーフティエリアのおかげだと思う」
「それはそうかもだけど、かなりレベルも上がったし、シルバーウルフの対処法も分かってきただろ? この勢いのまま先に進んだ方がいいって、絶対」
交戦的なブランとノアさんは甲斐の意見に賛成のようで、そわそわと落ち着きがない。
「私は中立です。多数決で決まったら、それに従います」
晶は冷静にそう宣言する。
反対票は今のところ、美沙だけだ。スライムのシアンはノアさんに絶対服従しているので、甲斐の意見に賛成なのだろう。
三人からじっと見据えられて、奏多はやれやれと嘆息する。
「責任重大じゃないの、これ。……私もどちらかといえば中立かしら? フロアボスに対峙するのはまだ早い気はするけれど、セーフティエリア外で戦ってみたい気はするわね」
自分たちの実力を試してみたいのだと説明されて、それもそうかと皆は納得した。
「なら、午後からはセーフティエリア外でウルフ狩り?」
「試してみて、行けそうなら挑戦してみるのも悪くはないかもしれないわね」
「いいな、それ! それでいこう」
「そうですね。勢いに乗るのも大事ですよね」
そんなわけで、午後からはセーフティエリア外での実戦に挑むことになった。
◇◆◇
結果的に、その日の内にフロアボスを倒すことに成功した。
道中に遭遇したシルバーウルフたちは晶が【錬金】スキルで作成した爆弾と三人と二匹の魔法でさくさくと倒していき──気が付いたら、北の端。
フロアボスのいる転移扉前にまで辿り着いていたのだ。
当初は様子見をするだけだったが、ここまで接敵してしまえばもう戦うしかない。
フロアボスであるアルファのシルバーウルフは三匹ほどの配下を従えており、ブランと同じく【咆哮】スキルを使った。
気を失うことはなかったが、怯んだ身は石のように硬直して動かない。
これはヤバいかも──焦る三人をよそに、晶だけは冷静に「
状態異常を元に戻す効果のある回復魔法の発動だ。
おかげで、すぐに動けるようになった。
続けて彼女は【閃光】を放ち、四匹の一時的な目潰しに成功する。
「今です!」
晶が投げたのは爆弾だ。
いちばん大きな的──フロアボスに向けて投げつけた爆弾は見事に爆発する。
そこへ甲斐の火魔法、奏多の風魔法が襲い掛かる。ウルフたちを包む炎が風で勢いを増す。
「ニャッ!」
ノアさんが鳴くと、シルバーウルフたちの足元に大穴が開く。
爆弾と炎の攻撃で弱っていた彼らに逃れる術はなく、そのまま落とし穴に落とされた。
ここぞとばかりにブランの雷がその頭上に落とされる。
この段階で、フロアボス以外のウルフたちは既に息絶えており、ドロップアイテムに変化していた。
が、さすがフロアボス。
ズタボロになりながらも、その
穴から這い出してこられたら、たまらない。
美沙はとっておきの攻撃を仕掛けることにした。
晶から預かっていたガラスの小瓶の蓋を開けて、中身の毒を水球で包み込む。
「毒入りのウォーターボールをプレゼントしてあげる!」
美沙は晶のようにボールを的に当てるのは苦手だが、自在に操れる水魔法なら得意だ。
モンスターは即死する毒をたっぷりと孕んだ水の球を傷だらけのその全身にぶつけてやった。
「ギャオオオウッ!」
苦鳴の声を上げると、やがてフロアボスは地面に倒れ伏してドロップアイテムに姿を変えた。
「……やっつけた?」
「おう。どうにかなったな」
「肝が冷えちゃったわよ、もう」
おそるおそる穴の中を覗き込む。
暗くてよく見えない。
「にゃあ」
可愛らしくノアさんが鳴くと、穴の底から土が盛り上がってきた。
ドロップアイテムを土魔法で運んでくれたらしい。つくづく、ノアさんは賢いネコさんだ。
「ドロップアイテムがたくさんあります!」
きらきらと瞳を輝かせて覗き込むのは、晶だ。
彼女のお眼鏡にかなう素材があるといいのだが──美沙も好奇心のまま、ドロップアイテムを見下ろした。
フロアボスの配下のシルバーウルフたちは魔石と毛皮、そして牙が爪を残している。
いつもと同じ素材だ。
だが、特殊個体らしきフロアボスのドロップは段違いだった。
まず、魔石の大きさと輝きがまったく違う。ダイヤそっくりのカッティングされた魔石だ。てのひら大の大きさで、とても美しい。
毛皮はいつもの二倍の大きさで、しかも微かに冷気を纏っている。
これには晶が大喜びで、夏用のシーツを作りましょう、と張り切っていた。
「この毛皮、いいね。十一階層の水上コテージで使いたいかも」
真夏のフィールドなので、これがあれば快適にぐっすりと熟睡ができそうだ。
「床に敷いて、四人でごろ寝かしら」
「ふふ。それ楽しそうですね。夏の合宿みたい」
奏多とこっそり耳打ちしながら、くすくすと笑い合う。
大物を倒したことで、少しだけ気が抜けていたのかもしれない。
「すごく綺麗なティアラがドロップしていますよ! これは……プラチナ?」
晶が拾ったのは、白銀色の王冠だ。
繊細な装飾が施されており、とても美しい。
これはそのまま売った方がお金になりそうだが、入手経路を説明しにくそう。
「カナさん、あれ魔道具です?」
「残念ながら、単に綺麗な装飾品ね」
ならば、気兼ねなく手放せる。
最後に残ったのは、宝玉のようなもの。水晶の玉のようだが、色は透明でなく、
(……まさか、これシルバーウルフの目玉じゃないよね? 色がそっくり……)
そっと触れてみたが、ひんやりとした宝玉だ。安心する。
「これは……」
鑑定した奏多が驚いている。
そんなに良い物なのだろうか?
と、ブランが寄ってきて、奏多の目前にお座りする。キュンキュンと鳴いて何事かを訴えている気がした。
「……カナさん?」
ふぅ、と奏多が嘆息する。
「これはスキルオーブという代物らしいわ。触れて魔力を流すと、スキルや魔法を覚えることができる。すごいものをドロップしたわね」
「新しくスキルか魔法を覚えられるの?」
それは素晴らしいオーブだが──三人は無言でブランを見る。
ものすごい勢いで尻尾を振り、それが欲しいと切々と訴えているブランを。
「……どうする?」
「こんなに欲しがっているんだから、私はあげてもいいかなーとは思いますね」
自分も欲しいが、今回のフィールドでいちばん働いたのは間違いなく彼だった。
「俺もブランに譲るぜ。囮役頑張ってくれたもんな?」
「そうですね。彼なら上手に使いこなしてくれそうです」
「全員の意見が一致したわね。じゃあ、ブラン。これは貴方にあげる」
「ワフッ!」
目の前に置かれたスキルオーブに、ブランはそっと前足をかざした。
「消えちゃった……」
「ブラン、どんな魔法が使えるようになったんだ? それとも、スキルか?」
好奇心いっぱいの甲斐に尋ねられたブランは少しだけ首を傾げていたが、ワンッと元気よく吠えた。
その瞬間、ひやりとした冷気に包まれて、美沙は体を震わせた。
「さむ……! 雪……?」
いつの間にか、自分たちの周辺にだけ、氷雪が舞っていた。
「これはもしかしなくても……」
「氷雪の魔法?」
自在に雪や氷を作り出すブランを呆然と眺めた。
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