第194話 新年はダンジョンで 2
お雑煮はお昼ご飯に食べた。
東西の味も具材も違った雑煮は、どちらも美味しく食べ比べを楽しんだ。
突き立てのお餅を調理したので、いつもより美味しく感じる。
「お節料理もおいしいです。鮎の甘露煮、ぶりの照り焼きが贅沢な味で幸せ……」
「鮑のステーキとローストポークも絶品ですよ、ミサさん」
「ちゃんと黒豆や昆布巻きも食べなさいな、貴方たち」
ご馳走にばかり箸を伸ばしていると、奏多ママに注意されてしまう。
ちょうど数の子を頬張っていた美沙は慌てて筑前煮を小皿に取り分けた。晶も涼しい表情で伊達巻きや田作りを口にしている。
「ん、筑前煮も味がしみしみ」
「ふふ。いい出来栄えでしょう?」
「おいしいです」
レンコン、ゴボウなどの根菜も煮崩れせずにシャキシャキとした食感が楽しめる。コッコ鳥の肉もやわらかくて、うっとりと噛み締めた。
伊達巻きも甘くておいしい。
栗きんとんなんて、最高のデザートだ。
三人でお節料理を摘んでいる傍らでは、お供の三匹もご馳走を楽しんでいる。
ノアさんにはお気に入りの高級猫缶に奏多特製の海鮮スープを添えて。
ブランには何と、犬用レシピで作ったペット用のお節料理を用意してあった。素材の味を生かした、ヘルシーなご馳走を重箱に詰めてある。小型化したブランにはちょうど良い大きさのご馳走だ。
スライムのシアンには鹿肉ジャーキーとラムチョップの香草焼きを。
三匹とも気に入ってくれたようで、お皿がピカピカになるまで綺麗に舐め取ってくれた。
昼食後は各自、好きに過ごすことになっている。
晶はさっそく島で採取した
奏多は砂浜にパラソルを立て、チェアベッドに横たわって読書の体勢だ。
傍らにはしっかりと南国風のカラフルなフルーツカクテルを準備しているあたり、さすがすぎる。
「私は海外ドラマ視聴!」
せっかくなので、水上コテージ内で動画鑑賞を楽しむことにした。
ラタン製の籐チェアにゆったりと腰掛けて、ダウンロードしておいたドラマを視聴する。
奏多と違って、傍らに置くのはコーラとポテチです。キャラメルポップコーンも食べたい。
コテージの窓は開け放っておくと、意外と過ごしやすかった。
ハンギングソファで揺れるノアさんも海外ドラマが気になるのか、タブレットを横目で見ている。
ちなみにスライムのシアンは、すぐ目の前の海にぷかぷかと浮いていた。
「ブランはダンジョンを駆け回っているのかな。元気ねー」
お正月休みの概念がない
「ポテチおいしー」
汗をよくかくので、体が塩分を欲している気がする。スライスしたレモンを浮かべたコーラもおいしい。
タブレット画面の中ではゾンビが大暴れしている。
青い空に白い雲。オーシャンビューを背景に、のんびりとドラマを視聴する。
「最高すぎる」
バカンスは始まったばかりだ。
◇◆◇
ドラマに飽きたら、海で泳ぐ。
セーフティエリア内なら、安全だ。
水魔法を使えるようなってから、何となく泳ぎも上達した気がする。
とぷん、と海に潜って岩の隙間に隠れているタコやエビを獲るのが楽しい。
魚を締めるためのフィッシュピックを持参しているので、捕まえた獲物は【アイテムボックス】に収納できる。
水魔法の網で底引きをするのも楽しいけれど、岩の隙間に隠れた美味しい獲物を見つけて獲るのは、また別の喜びがある。
「しかも、結構大きなエビが隠れていたりするのよねー」
水流を操り、奥に隠れていたエビを引きずりだす。片手で持ちきれないほどに大きなエビに歓声を上げた。
これはいいものだ。三人分獲らなければ。
張り切って海に潜る。
岩の隙間にはウツボが隠れていることがあるので、無造作に手を突っ込むのは危険だ。
ヘビっぽいし、噛み付かれそうで怖い。
獲るのは嫌だが、奏多が唐揚げにしたら美味しいと言っていたので頑張って捕まえてみた。
ぬるぬるしていて、あまり素手で触りたくはないので、軍手をして引っ張り出した。
美味しい唐揚げ、とつぶやいてどうにか己を鼓舞する。
「うん、ブラックサーペントだって美味しかったもの。カナさんを信じる……!」
岩場にはウニや牡蠣などの高級食材もいるので、そちらは積極的に確保した。
二時間ほど頑張ったおかげで、エビは人数分手に入れることができたので満足です。
大量の戦利品を手土産に、タープ下でシェーカーを振っている奏多を訪ねた。
「クール便でーす! 新鮮な食材を運んできました」
「まぁ、ご苦労さま。一杯、いかが?」
「いただきます!」
海から上がった際に、水魔法のシャワーで洗い流しているので、そのままスツールに腰掛けた。
カウンターテーブルとスツールは美沙が【アイテムボックス】で持ち運んだものだ。
せっかくのリゾート風バカンスを楽しめるのだ。奏多のカクテルを存分に味わいたい。
「ピニャコラーダよ」
「わぁ…! ヒマワリみたいなカクテル!」
「パイナップルジュースとココナッツミルクの色ね。リゾートっぽいでしょう?」
「はい! パイナップルとチェリーの飾りがかわいいです。味もおいしいー!」
今日の奏多はさすがに暑さには勝てないようで、いつものバーテンダースタイルでさなく、アロハシャツとハーフパンツ姿だ。
サングラスをカチューシャ代わりにしていて、いつもと違う雰囲気に見える。
「ウニと牡蠣は生で食べたいわね。まぁ、大きなエビ! 立派ねぇ」
「エビもお刺身で食べちゃいます?」
「これだけ大きなエビだと、お刺身より揚げ物がいいかも。……いっそのこと、天丼にしちゃう?」
「天丼!」
この伊勢エビサイズのエビ天丼!
想像するだけで、喉が鳴ってしまう。
「すばらしいです。しましょう、天丼。丼からはみ出しちゃうくらい大きなエビの天ぷらとか興奮します」
「落ち着きましょうね、ミサちゃん。揚げ物ついでに、このウツボも唐揚げにしちゃいましょうか」
「うっ……イイトオモイマス……」
平気な顔で、頭を切り落としたウツボを持ち上げる奏多。すごすぎる。
そっと視線を逸らしながら、ピニャコラーダをストローで吸い上げた。
◇◆◇
午前中の涼しい時間にドラマ鑑賞、飽きたら海で泳ぎ、夕方はバスタブに冷水を満たしてプール代わりにした。
夜は水上コテージの壁にシーツを吊るして、プロジェクターで映画鑑賞。
ダラダラしすぎて体重が気になってきたら、セーフティエリア外に出て、ビッグクラブを狩る。
物足りない場合は、九階層か十階層まで遠征した。おかげで魚料理だけでなく、肉料理も楽しめている。
南国の海を背景にリゾートスタイルで調理する奏多の動画もたくさん撮り溜めることができた。
晶はこの二日間、集中して籐カゴを編みまくっていたため、その作品は既に芸術の域だ。
「カゴバッグかわいすぎる……。アキラさん、これ絶対に売れると思う。私も欲しいもん」
「本当ですか? 嬉しいです」
手提げタイプの四角いカゴバッグは内側に巾着が縫い付けてある。ナナシキカの藍色に染められており、涼しげだ。
ダンジョン産素材で一度作ったクラフト作品は、同じ素材されあれば複製できる。
「多分、鹿革カバンに続いてのヒット商品になると思う」
売り出すなら、冬よりも春になってからが良いかもしれない。
オーク肉カレーの夕食に舌鼓を打っていると、地面に伏せていたブランがふと顔を上げた。
「ブラン?」
声を掛けると、振り返って尻尾を一振りすると、森の奥に目掛けて駆け出した。
「えっ、どうしたのかな、ブラン」
「ああ……もうそんな時間だったのね」
奏多がくすりと笑う。
何のことか聞き出そうとした、その直前。
「来たぞ! 俺もカレー食いたい!」
ブランに連れられて、甲斐が帰ってきた。
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ギフトいつもありがとうございます。
カナさんを追っかけてくださって感謝ですー! 嬉しい…!😊
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