第49話 ダンジョンキャンプ 5
食後のお茶を堪能しながら、特殊個体らしきワイルドディアが落としたマジックバッグを甲斐と晶さんに披露する。
鹿革の小さな巾着だ。奏多さんの鑑定によると、容量は二十平米ほど。十二畳くらいの部屋の広さを思い浮かべたら分かりやすいだろうか。
「結構、詰め込めそうだな?」
「ですね。三時間ダンジョンでこつこつ狩ったモンスター素材も余裕で収納できそうです」
「スライムもドロップ品を集めて持って来てくれるけど、収納力はそんなに無いから、便利そうだよね?」
スライムオンリーの一階層は魔石とポーションしかドロップしないので、テイムしたシアンの分裂体スライムに任せておけば大丈夫だろう。
二階層はアルミラージ。ドロップするのは魔石と肉、毛皮と稀にラビットフット。
ここもそれほど大物のアイテムはないので、スライム収納に任せたいところ。
「三階層のワイルドディアのドロップは大物が多いのよねぇ。鹿皮は折り畳めるけれど、あの大きな角は厄介だわ。お肉のブロックもありがたいことにビッグサイズだし」
「魔石はビー玉サイズで可愛いんですけどねー。それに三階層ではラズベリー狩りも大事なお仕事だから、収納スキル持ちかマジックバッグは必須ですよね」
「それを言うなら、四階層のワイルドボアだろ! 何せ、肉がデカい。ドロップする牙もかなり重いし、荷物持ちかマジックバッグは欲しいぞ」
結局、五階層へ本格的に挑戦するまでは、四階層でボア狩りに集中したい甲斐が、マジックバッグの巾着を使うことになった。腰のベルト部分に吊るせば、収納するにも便利そうだ。
巾着袋は口も小さいし、どうやって大きな品を収納するのかと疑問に思っていたが、収納したい物を近付けるだけで、するんと飲み込んでしまった。
「え、ちょっと怖い……? 間違って、誰かが吸い込まれちゃったりしない?」
「鑑定では、植物以外の生物は収納できないらしいから大丈夫よ」
「あ、そうだった。そこらへんは私の【アイテムボックス】と変わらないんですね」
結局、午後からも同じ組み合わせで、それぞれがモンスターを狩ったり、採取を頑張ることになった。
一階層の、シアンの分裂体のスライムたちは胎内の収納量が限界になると、テレパシーのような能力で連絡してくれる。それを受信したスライムが器用に触手の先で突いて教えてくれるのだ。
ラズベリーの採取を手伝ってくれていた分裂体の内の一匹が、そうやって教えてくれたので、一階層へ回収に向かった。
「カナさん一人で大丈夫です?」
「平気よ。私は安全第一の遠距離攻撃タイプだし?」
最近では弓の腕前もかなり上がったらしいし、元々の風魔法もかなり強力な奏多さんに笑顔で送り出されてしまった。
行きで目指すのが「北」なら、帰りは「南」だ。方位磁針で方向を確認すると、小走りで三階層を駆け抜けて行く。
遠くの気配は無視し、向こうから襲いかかってくる相手だけ、水魔法でさくっと倒しては【アイテムボックス】にドロップ品を収納した。
上層への階段を見つけ、スポーツドリンクを飲みながら休憩し、一息ついたら二階層へ。
「あ、いた。晶さんとノアさん、シアンも!」
草原だから、晶さんの姿も見付けやすい。
アルミラージの巣でもあったのか。珍しく群れでいるアルミラージたちを、晶さんと二匹のチームが対峙している。先に動いたのは、ノアさんだ。
土魔法でアルミラージを攻撃する。土で作られた槍は三匹のアルミラージを串刺しにした。
跳ねて攻撃を逃れた二匹が晶さん目掛けて突進していくが、短槍でどちらも軽々と貫かれて、消えていった。ドロップした品をシアンが意気揚々と回収を始めたところで、声を掛けた。
「晶さん! ドロップ品、預かりますよー?」
「あ、ミサさん? ありがとうございます。ちょうど、かなりの量になっていたので、助かります」
「あら、ほんと。シアン、お腹たぷたぷだね……」
二階層のアルミラージは小柄な草食のモンスターだからか、やたら数が多いのだ。その分、ドロップ品は大量にゲット出来るので、ありがたいが。
「なんと今日はラビットフットが二つもゲット出来たんですよ!」
「え、それはすごいね! こつこつ頑張って狩ってきたもんねぇ」
「集中して連続で狩ると、レアアイテムがドロップしやすい気がします。今回みたいなダンジョンキャンプ、また定期的にやりたいです」
「そうだね。結構楽しいから、毎週末にやっちゃう?」
「ぜひ!」
冗談のつもりの提案だったが、食い気味に賛成されてしまった。あとで男子組にも聞いてみよう。
アルミラージのドロップ品を【アイテムボックス】に収納し、晶さんには休憩時の軽食を渡しておいた。
「ラズベリークッキーとローストディアのサンドイッチ! こっちは冷たい麦茶ね。塩飴もおまけで。ノアさんにはカナさん特製のジャーキー、シアンもほしい? じゃあ、これどうぞ」
「わ、美味しそう。ありがとう、ミサさん」
「いえいえ。じゃあ一階層に回収に行って来るねー!」
軽く手を振って、二階層も駆け抜けて行く。
ダンジョンでレベルが上がったからか、基礎体力がかなりついた気がする。疲れにくくなったし、何より走るスピードも腕力も増えている。
行きの半分以下の時間で一階層に到着し、無事にドロップアイテムを回収することが出来た。
「お疲れさま。いつも、ありがとね」
おやつのジャーキーをシアンの分裂体スライムたちにお裾分けしていると、別のスライムが魔石をおねだりしてきた。特に使い道のない魔石なので、欲しがるスライムには与えているのだ。
大量に魔石を食べたシアンは【分裂】スキルを覚えたが、元々分裂体のスライムたちは大きく強く変化した。
「おお。普通の野良スライムの倍くらいになったね。強そう!」
スライムはスライムからドロップされる魔石しか食べない。テイムしたモンスターがアルミラージだったら、やはりアルミラージの魔石を食べて強化されるのだろうか。
「……まぁ、アルミラージはノアさんが嫌いみたいだから、テイムはないかな…?」
ノアさんは今のところ、スライムのシアンとうちで飼っている鶏くらいしかテイムしていない。
二階層でせっせと狩りを楽しんでいるが、肝心のアルミラージには興味がないらしくて、見付けたら瞬殺している。
「目付きが凶悪で可愛げがないからかな? うさぎのくせに毛皮がふわふわなところ以外、可愛くないもんね」
それでいくと巨大な鹿と猪もテイム対象外になりそうだったが。
「五階層に、ノアさんが気に入りそうな、可愛い子がいたら良いんだけど」
できれば、一人でワイルドボア狩りに精を出す甲斐の相棒になれるようなモンスターだと、尚良い。
強くなった彼なら大丈夫だとは思うが、何かあってからでは遅いのだ。
「この低級ポーションが効かないような怪我をしたら大変だもん。中級、上級ポーションが欲しいな。あと、治癒魔法的なもの!」
今のところ、光魔法を持つ晶さんに皆はこっそり期待している。
人間の体内を占める水分量からして、水魔法にも治癒が可能かもと、実は少し試しているが、今のところは効果はない。
お肌がつやつや、張りがでてきたような気はするので、今夜にでも晶さんに試してみようかな。
「……うん、カナさんにも頼まれそう」
ノアさんやシアンにも試してみたい。
血行が良くなるなら、ノアさんには特に必須だ。彼女にも長生きしてほしい。
スライムたちをひと撫ですると、一階層を後にする。
今はちょうど午後三時のオヤツ時。キャンプ地への集合時間は午後五時頃。一人にしている奏多さんも心配だし、急いで帰ろう。
北を目指して、颯爽と駆け出した。
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