第48話 ダンジョンキャンプ 4


「調理台、もう少し増やしますね?」

「了解。こっちに木材を出しておくよー」


 炊事スペースが狭いことに気付いた晶さんが、さくさくと木製テーブルを錬金する。

 錬金ってDIYも含まれるとは思いもしなかった。

 木材や布類、合金属類を素材化し合成し直して、晶さんは様々な物を作ってくれる。

 テーブルや収納棚はもちろん、男子組が住んでいる母家の和室を洋室にリフォームしてくれたのも、彼女だったりした。


 古びた畳を外して、フローリングの床に張り替えてくれたおかげで、奏多さんは大喜びだ。

 自分でDIYをするつもりだったけれど、なかなか時間が取れなくて、諦めかけていたらしい。


 古民家の壁を補強し、ノアさんお散歩用のキャットウォークも取り付けてくれた。

 屋根裏部屋も綺麗にリフォームしてくれたおかげで、立派な書斎になっている。

 すっかりDIYにハマった彼女の次の狙いは、蔵のリフォーム。

 大量に押し込められていた荷物は既に【アイテムボックス】に移動したり、処分しているので、今はダンジョンの入り口の扉がぽつんと置かれているだけなのだ。

 扉が下手に目立つのもどうかと思うので、蔵の中をもう一つの隠れ家として改装しようと考えている。作業部屋にリフォームしても良い。


 最近の彼女の一番の大作は庭に作ってくれたウッドデッキだ。母家の廊下、昔は縁側があったのだが、木が腐って撤去したのだ。

 それと同じ場所に、晶さんが新しく立派なウッドデッキを作ってくれた。根腐れしにくいよう処置をして、さらに屋根付きの豪華なウッドデッキ。

 椅子とテーブルセットもあるので、畑仕事に疲れた際にのんびり休めて最高です。

 日向ぼっこにもベストな場所らしく、ノアさんもよくお昼寝スペースにしている。


「こんなにたくさん作ってくれて、私たちはすごくありがたいけど、晶さんは無理してない?」

「錬金スキルのレベルが上がったから、一度作った物はすぐに合成できるようになったんです」


 照れくさそうに、でもどこか誇らしげに胸を張りながら、晶さんが笑う。

 

「だから、全然。むしろ、すぐに作り終えてしまうから、創作欲が有り余っているみたいで」


 ぺろりと舌を出してチャーミングに笑う。

 クールな美女なのに仕草や表情が可愛いとか、そりゃあお兄ちゃんカナさんも妹に甘くなるよねと納得してしまう。


「鹿革リュックやバッグ類も、材料さえあれば五分もかからずに作れるようになったんですよね。ラビットファーの小物やクッションなんか一瞬で完成です」

「晶さんがいつの間にか制作系チートに……?」

「いえ、さすがにそれは。一度、ちゃんと作ったことのある物に限られますし。そこそこ制限はありますよ?」


 それでも初見の物でも制作スピードはかなり上がったらしい。スキルレベルが上がると、そんなに違うものなのかと感心する。


「私の【アイテムボックス】スキルもたくさん使っているんだけど、いつレベルアップするんだろう……」

「え、ミサさん、だいぶ収納量が増えていませんでした?」

「収納量は増えたけど、こう、他にも便利な機能が付いたら嬉しいなーって」


 もだもだとおしゃべりしながら、テーブルに食器類を並べていると、奏多さんに叱られてしまった。


「ほーら、いつまでおしゃべりしているの? 暇ならこっちを手伝ってね」

「はーい」

「ごめんなさい」


 業務用のバーベキューグリルの上では、ワイルドボアの串焼きが炙られている。

 せっせと串打ちをしているのは甲斐だ。

 奏多さんは卓上コンロを使い、ホットサンドメーカーで調理中。


「適当にあと二品くらい作ってくれるかしら? ……ああ、アキラちゃんはサラダをお願いするわね」

「サラダなら……?」

「了解です! 晶さん、サラダ手伝うよ。あと一品は主食系がいいかな」


 午前中に奏多さんが仕込んでいた、ミネストローネは【アイテムボックス】に収納しているので、食事の直前に配膳しよう。

 我が家自慢の野菜をたっぷり使った、ミネストローネは絶品なのだ。スープもちゃんとうちの温室で作ったトマトを使っている。

 トマトジュースやホール缶で作った物より、濃厚なトマトの味が楽しめる逸品だ。


「晶さん、コールスローサラダにしましょう。キャベツにキュウリ、ロースハムの代わりにアルミラージ肉のハムを使って」

「あ、鶏ハムならぬ、兎ハムですね。いいかもです!」


 アルミラージ肉は定期的にご近所さんに配っているが、まだまだ大量に在庫がある。

 山盛りの唐揚げを作り置きしたりと皆で一斉に調理していたが、最近はサラダハム作りで消費している。

 塩と砂糖と胡椒などを肉にすりこんで寝かせ、くるくると巻いた物をラップとアルミホイルに包んでお湯を通すだけなので、とても簡単なのだ。

 鶏の胸肉を使ったサラダチキンと変わらぬヘルシーさで、しかも鶏肉よりしっとり柔らかくて美味しいと、ご近所さんでも大好評の兎ハムの出来上がりだ。


「コールスローサラダのキャベツは千切りですか……?」

「あ、ざく切りでいいよ! 食感を楽しもう。キュウリは私が切るねー」


 ザクザクと気持ちの良い音を立てながら、晶さんが慎重にキャベツを刻んでいく。

 ボウルに入れたキャベツにはほんの少し塩をまぶして寝かせ、その隙にキュウリを細切れにする。

 兎ハムは指でほぐして、そのままボウルに入れて、あとはマヨネーズとお酢と黒胡椒で味を整えるだけ。

 簡単だけど美味しくて、もりもりキャベツを食べられるので、我が家では大人気なサラダメニューだ。


「あとは焼きおにぎりとか、どうかな? 串焼き肉の隣で焼けるし」

「いいですね。具は何にします?」

「えーと、収納にはそぼろ肉と、あ、肉味噌があった。これにしよう」

「肉味噌! いいですね。鹿ディア肉と味噌味って合うんですよね……」


 二人して、うっとりとしてしまう。

 奏多さんが考えたレシピで作った、鹿の肉味噌はとても美味しい。

 長ネギにニンニク、生姜、大葉のみじん切りも入っており、味噌は出汁入りの合わせ味噌。他にも豆板醤やごま油など、色々とブレンドされていて、お米泥棒さんだ。

 こちらも大量に作り置きしているので、心置きなく使うことにした。


「お米は炊き立てがいつでも食べられるように、収納しているから」


 艶々の炊き立てご飯が詰められたお櫃おひつを取り出して、二人並んでおにぎりを握っていく。具はもちろん鹿肉味噌で。

 握ったおにぎりはごま油を塗りつけて、串焼き肉の隣に並べていく。網焼きはフライパンで焼いた物より断然美味しい。


「カイ、こっちの焼き加減も見ておいてね」

「おーう、了解。任せとけ」


 火の番は甲斐が適任だ。もともとキャンプ好きで焚き火が趣味なのだ。火魔法も使えるので、加減を任せるにはちょうど良い。

 焼き上がった肉やおにぎりは大皿に盛り、冷えないように【アイテムボックス】に収納しておく。


「こっちも調理は終わったわ。昼食にしましょう」

 

 奏多さんの一言で腹を空かせた三人はわっとテーブルに集まった。

 張り切った晶さんが大きめに作ったので、木製のテーブルには大量の料理が載せられる。

 収納から取り出した大皿を並べ、ミネストローネ入りの大鍋はテーブル中央に置いた。

 スープ皿は各自の席の前に並べてあるので、セルフでお願いする。


「いい匂い。カナさん、何を作ったんですか?」

「んっふふ。ホットサンドメーカーを使ったおかずばっかりよ。鹿肉ソーセージを大葉とチーズで巻いて、春巻きの皮で包んで焼いたのとか。猪の薄切り肉でアスパラとチーズを巻いたのとか」

「なにそれすごく美味しそう……」

「カナさん、いただきますしましょう!」

「はいはい忙しないわねぇ」

「この状況で「待て」は拷問だぜ……」


 お腹を減らした子猫のような上目遣いで切々と訴えられた奏多さんが、苦笑まじりに「召し上がれ」を言ってくれた。

 いただきますの唱和は、ダンジョンのセーフティエリア中に響き渡った。



「これ! これ、すげぇ旨い! チーズと肉が絡み合って絶妙」

「ほんと、ソーセージの春巻きなんて初めて食べたけど、皮がパリッとしていてすごく美味しい」

「アスパラと猪肉もすごく合いますね。ビールが欲しくなる……」

「晶さん、それは禁句! 今はまだ昼間だし、せめて夜ご飯の時に飲もう!」

「飲むのは確定なのね。まぁ、良いけど」

「だって、こんなに美味しいキャンプ飯にビールなしとか拷問ですよーカナさん」

「まぁ、それもそうね。酔っ払っても、ポーションでお酒は抜けるし」


 ミネストローネにサラダ、焼きおにぎり、ボア肉の串焼き、どれも美味しい。

 奏多さんは思い付いたキャンプ飯をたくさん作っていたようで、皆で感想を言いながら、賑やかに昼食を楽しんだ。

 甘辛く煮付けた厚揚げにボア肉の薄切りを巻いて、ごま油を塗りつけたホットサンドメーカーでじっくり焼いた料理は特に気に入って、黙々と食べすすめてしまった。


 晶さんはアルミラージ肉を鶏皮風に使った、兎皮餃子が気に入ったようだ。

 分かる。それも美味しかった。具にも兎肉の挽肉を使っており、ニンニクとニラがたっぷり入っているので食欲を掻き立てられた。兎皮餃子やばい。


「どれも美味いけど、俺はこのピザが気に入ったかな。生地が薄くてパリパリしていてすげー旨い!」

「それは餃子の皮をピザの生地代わりにしたのよ。鹿肉の生ハムとキノコ、アスパラにチーズたっぷり。うちの畑産のトマトソースにうちの鶏の新鮮玉子入り」


 これもホットサンドメーカーで作ったらしい。ピザの真ん中で割り入れられた玉子はちょうど良い半熟目玉焼きサニーサイドアップ状態で、かぶりつくと、チーズと玉子の黄身がとろりと溢れてくる。行儀悪く手づかみで食べると、最高に美味しいご馳走だ。


「んー、キャンプ飯最高!」


 午後からもダンジョンアタックに集中するはずだったのに、お腹いっぱい食べてしまい、しばらく食休みするはめになったのは反省している。

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