第23話 春の収穫 2

「いっぱい採れたわねぇ。今夜は山菜を使った料理にも挑戦しましょう!」


 奏多さんが楽しそうに宣言する。

 最近、奏多さんは趣味を生かして調理をしながら動画を撮影し、配信をしていた。

 まだ始めたばかりだが、人気は徐々に上がってきており、登録者数も万単位になっているらしい。

 基本的に料理をする手元だけを映しているが、出来上がった完成品を試食する際に顔出しをしているので、ファンが増えたのだろう。 


 何せ奏多さんは滅多にいない、正統派の美男子だ。イケメンというよりは、美しい人。

 優雅で繊細で、理想の紳士姿。それでいて喋り言葉はお姉さまなのだ。

 個性の塊の彼はあっという間に人の目を集めた。彼が発表したレシピも素晴らしいものが多く、簡単なのに美味しいと評判だ。


 甲斐は牧場バイト、晶さんは衣装やアクセサリー販売、私は野菜のネット販売とそれぞれが収入の道をつけていたので、奏多さんがやりたいことを見つけられたのは嬉しい。


 この調子で登録者数が増えれば、動画収入も上がり、以前の『宵月』で働いていた月収を余裕で越えられそうだと笑っていた。


 最初はどうなることかと不安だったけれど、このダンジョン付きシェアハウス生活も順調に過ごせている。


 ノアさんは毎日欠かさず与えていたポーションの効果か、問題のあった内臓の損傷も完治した。

 近くの動物病院で検査してもらったところ、シニア猫なのに、十才以上若く見られて先生も驚いていた。


 ダンジョンのうさぎ肉を欲しがっていたので、少しだけ与えた効果なのか。体も筋肉質に変化してとても健康な猫さまだとお墨付きを頂いた。


「じゃあ、帰ったら次はダンジョン潜ろうぜ!」

「アンタは本当に元気よね……」


 呆れる私たちの様子に、甲斐はきょとんと首を傾げた。



 さすがに大量の山菜類をそのままにするのはしのびなかったので、ご近所にお裾分け担当を甲斐に任せ、残りの三人で下処理を頑張った。


 調理は夕方からすることにして、アク抜き作業をようやく終わらせたところで、甲斐がたくさんのお土産を腕に抱えて帰ってきた。


「米農家の田村のおっちゃんからは米20キロ貰ってきた。あと、山田のおばちゃんは手作りの漬物で、田中のじいちゃんからは潰した鶏肉と味玉!」

「うわ、また大量ね。ありがたいけど」


 戦利品を預かりながら、歓声を上げる。

 お米はとてもとてもありがたい。何せ欠食成人が我が家には四人もいる。腹に溜まって美味しいお米は最高の主食だ。


 おばちゃんの手作り漬物も嬉しい。

 二十センチ四方の大きなタッパーに詰められた特製自家キムチはお米泥棒と称されるほどに美味しい。

 糠漬けもよく浸かっていて、これとおにぎりがあれば延々と食べられる! と甲斐が絶賛するほどの出来栄えだ。

 奏多さんはおばちゃんに交渉し、この素晴らしい糠を分けてもらっている。美味しく育つまで、もうしばらくはかかりそうだ。


 養鶏場産の鶏肉はうさぎ肉がメインの我が食卓には歓声をもって受け入れられた。

 今は卵をメインに採取しているため、鶏を潰す予定はないし、解体できる自信もないので、綺麗に切り分けられた鶏肉はとてもありがたかった。

 おばあちゃんが作った味玉も半熟の茹で加減が流石のプロで、夜食のラーメンに投入するのが何よりの楽しみで。


「あと、ついでに牧場にも差し入れたら乳製品大量にもらった。賞味期限が近いから早めに食べろって」

「ありがとう。じゃあ、それは私が預かるね!」


 時間停止の【アイテムボックス】に感謝。

 チーズにヨーグルト、バター。生クリームまである!


「タケノコや山菜がこんなに沢山のご馳走に化けるのねぇ……」


 戦利品の山を前に、奏多さんがしみじみと呟く。


「田舎だから山菜自体はいっぱい採れるんですよ。ただ、お年寄りばかりだから、体力的な問題でなかなか行けないみたいで……」


 張り切って山菜採りに山に登って怪我をする老人も何人かいる。

 山によっては猪や熊に襲われた人もいた。


「そっか。じゃあ、力仕事は俺の役目だな!」


 にかりと笑うのは甲斐だ。

 何のてらいもなく、笑顔で宣言するあたりが、彼らしい。だから弟たちに慕われ、ご近所さんたちに可愛がられるのだろう。


 ご近所さんに配ったのでタケノコは半分まで減ったが、それでも十五本もある。

 五本は本日の夕食にして、残りの十本は野菜セットとは別に五箱に分けて売り出すことにしてみた。

 新鮮さを謳うため、販売分は段ボールに詰めた状態で『収納』している。


 写真を撮って販売画面にアップする。

 ありがたいことに、うちのアカウントをフォローしてくれている人はそれなりにいるので、販売するとすぐに反応があった。

 順調に売れていく様子に甲斐が大喜びだ。

 良いお小遣い稼ぎにもなるので、タケノコ採りは甲斐に任せることにした。



 昼過ぎから三時間ほどダンジョンに潜り、うさぎ肉とポーションをゲット。

 最近ではノアさんと自分たちだけじゃくて、ご近所のご老人さんたちにもポーションを飲ませてあげている。

 奏多さんが作ったハーブティーや果実酒に混ぜての提供だが、腰痛や肩凝り、膝の痛みによく効くと好評だ。

 

 ダンジョンから戻ると、甲斐は鶏を庭で散歩させたり、薪割りにと率先して働いた。

 晶さんは新しく身につけた【浄化魔法】のスキルあげのため、鶏小屋をせっせと清掃してくれている。


 その間に私と奏多さんとで夕食作りだ。

 今日は山菜がたくさんあるのでメインは天ぷらにすることにした。

 それとは別にタケノコ祭りもする。

 タケノコの炊き込みご飯とタケノコの煮込み、タケノコとうさぎ肉の中華風炒め物、タケノコ入りのお吸い物には三つ葉も浮かべた。

 もちろん、タケノコの天ぷらもある。

 何より楽しみなのは、新鮮なタケノコでしか味わえない、タケノコのお刺身だ。

 

 鶏小屋の掃除を終えて帰ってきた晶さんも戦力に加えて、大量のご馳走を作り上げた。


 新鮮なタケノコや山菜の魅力にとりつかれた三人はこれ以後、積極的に山の恵みを採りに行くようになった。


 もちろん私に否やもなく、ついでにこっそりと魔法スキルを使い、邪魔な枝を払ったり、陽を遮る木を倒したりと山の手入れも捗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る