第22話 春の収穫 1
古民家シェアハウスでの生活に慣れてきた時期、甲斐を先頭に裏山に登った。
目的は今が旬のタケノコ狩りだ。
竹の密集地の場所は伝えてあるので、率先して歩いてくれているから、後から続いていく身にはとてもありがたい。
山の手入れにあまり時間をとれていないので、山道は既に獣道状態だった。
甲斐が鉈で邪魔な木の枝などを払ってくれるのは、正直とても助かっている。
山に入るにあたって、素肌が露わにならないよう長袖長ズボンを着用し、足元は登山用のしっかりしたスニーカーを履いた。首元にはタオルマフラーを巻き、帽子もかぶっている。
万一、道に迷った時のために水や食料など必須な物はあるが、そこは私のチートスキル、【アイテムボックス】が火を噴きます。
無手で動けるのって、すっごい楽よね!
人の手が入っていない裏山には獣が棲んでいる。鹿に猪、猿も見たことがある。さすがに野犬はいないが狸と穴熊はいると祖父から聞いていた。
普通は警戒するものだが、ダンジョンで魔物を倒しまくっている私たちにとって野生動物はあまり脅威に感じなかった。
いざとなれば魔法という便利な武器がある。
【身体強化】スキルを常時発動している甲斐は、気配察知能力も身につけたようで、獣の気配はすぐに分かると豪語したので、安心してリーダー役を任せた。
「あ、カイ! そこの道を右に曲がった先だよ」
「了解! お、竹林が見えてきた!」
今日は牧場のバイトが休みの日だ。
甲斐的には毎日でも働いて稼ぎたいところだが、さすがにそれは牧場で断られたし、叱られていた。
肉体労働の現場なのだから、ちゃんと休養を取りなさい、と。
実際、ダンジョンに潜り始めてから身体能力が格段に上がり、強化スキルを使って働いていた甲斐にとっては何てことのない労働量だが、そこは素直に頷いたようだ。
五人分以上の働きを見せる甲斐に感謝した牧場主さんは時給千円から日給一万円まで昇給してくれた。
一週間に一度の休みを貰っても、月給は25~26万円になる。
野菜セット販売のためのバイト代月に9万円をプラスすると、自身の生活費を除いても余裕をもって仕送りができるようになったと甲斐は喜んでいた。
働き者で家族思いな甲斐の実家へは定期的にうちで育てた野菜を送っていた。もちろん、大量に狩るダンジョンのうさぎ肉も同封して。
これには家事を一手に担っている次男君が大喜びしたらしい。
うちの野菜は美味しいから、好き嫌いの激しかったチビたちも喜んで食べてくれているらしい。
心配だった、たんぱく質不足問題もうさぎ肉が解決してくれたし、ダンジョン様々だ。
ともあれ、今はタケノコ狩り。
美味しいタケノコを食べたい、家族にタケノコを食わしてやりたい、あと余ったタケノコも販売したいな、という様々な思惑もあって、四人とも張り切ってのタケノコ狩りだ。
「こういう時に、土魔法スキルがあったらなーって思う」
「それは確かに」
タケノコ掘りは忍耐との勝負だ。
まず、タケノコを見つけるのにコツがいる。傷がつかないように慎重に掘り出すのも大変なのだ。
とは言え、そこは竹の密集地。四人がかりで何と三十本以上を掘り当てた。
「今日はこのくらいにしよう。また、明日にでも掘りに来たらいいし」
まだまだお宝は土の下に隠れている。
毎年、手が足りずになかなか収穫できなかったタケノコを今年はたくさん掘り出せそうで、嬉しかった。
「よし、ぜんぶ収納したし、そろそろ帰ろうか」
「ついでに山菜を採ってみたいんだけど、いいかしら?」
「お、いいな。山菜採りってしたことない」
「私も食べたことはあるけど、生えているところを見てみたいです」
熱意に負けて、引き続きの山歩き決定。
途中で休憩しつつ、持参したお弁当を食べながら山菜も採取する。
「あんまり詳しくないから、自信をもって教えられるのは、これくらいかな」
裏山での採取成果は、セリ、三つ葉、ふきのとう、タラの芽、わらび、こごみ。
セリは日当たりが良ければ、冬以外は大抵採れる初心者に優しい野草だ。
三つ葉は綺麗な水場でよく見かける。市販品と違い、大きく育っているので食べ応えがある野草だ。ふきのとうは一箇所に大量に発生するので、採取しやすい。
ちなみに私が一番好きなのは、こごみだ。
味にクセがなく、ぬめりがあるが、茹でてマヨネーズにつけて食べると美味しい。
何よりも他の山菜と違い、アク抜きをせずに食べられるのが最高だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。