第24話 三階層へ
「そろそろ三階層へ降りてみる?」
レベル10を越えた頃、皆にそう提案してみた。
スライムとアルミラージ狩りでは、もうあまりレベルが上がらなくなっている。
ダンジョンに潜るのは、一日のうち三時間から四時間ほど。集中して狩るため、無駄なくアイテムも拾えていた。
ポーションは三桁数は溜まっているし、うさぎ肉の在庫も四人で一ヶ月はもつ程に余裕がある。
レベルが上がったことで、晶さんの【錬金】スキルが成長し、装備を強化出来たことも三階層を目指すキッカケとしては大きい。
野菜の売り上げからボーナス代わりに、皆のダンジョン用装備を整えることにした。
アルミラージの鋭い角を目にしてから、さすがにジャージはどうかと危機感を抱いた結果でもある。
作業服販売で有名なショップで丈夫な繋ぎ服でも買おうと考えていたところ、晶さんからストップが入った。
『あの、装備類は私に任せてくれませんか? 【錬金】スキルのレベルが上がったので、服や武器に素材を錬成させることが出来るようになったんです』
真剣な表情で訴えられて、断れるはずもない。
そんなわけで、衣装は全員分を晶さんが作ってくれることになった。
私は材料費と作業代を負担しただけだったが、それは想像以上の出来だった。
服のデザインは甲斐の主張で「迷彩服かSW◯Tぽいやつ!」という二択。
迷彩柄は恥ずかしいと三人とも拒否し、結局海外の警官の制服風デザインとなった。
色は黒。しっかりとした生地だが、ストレッチも効いていて動きやすい。
シャツにポケットが多めに付いたベスト、ズボンとごつめの革のショートブーツ。
ブーツの底と爪先には薄い鉄板が貼られているらしい。
『シャツとズボン、ベストにはアルミラージの毛皮を合成しています。物理耐性がついています』
おお、と皆で歓声をあげる。
さっそく着替えて動いてみた。
ベストのポケットには怪我を負った時のためにポーションを幾つか入れられるようになっている。
ベルトには皮製の剣帯のような物が付けられており、そこに武器を仕舞えるようになっていた。
各自の武器も実は新しく作って貰っていた。手に入りやすい金属ということで、鉄製の武器だが、農具やバールよりは確実に威力がある。
甲斐は日本刀に似た剣を。奏多さんは得意な弓、私は薙刀を作ってもらった。
ちなみに晶さんは自分用に短槍を作った。
これらの装備のおかげで、ダンジョン内の戦闘は確実に楽になった。
スライムは余裕で瞬殺できたし、アルミラージは今まで角をおそれて遠くから魔法で倒すだけだったのが、積極的に武器で狙えるまでに成長できた。
剣は重すぎて無理、短剣は至近距離で使うのが怖い。
そんな理由で女子二人は離れた場から攻撃できる薙刀と槍を選んだのだった。
「もっと素材系のアイテムが拾えたら、装備や武器の強化に使えます。新しい素材が欲しいから、私は三層に降りるのに賛成です」
いつもは最後にそっと発言する晶さんが、三階層行きを積極的に支持してくれる。
もちろん甲斐も満面の笑みで一票をくれた。
慎重派の奏多さんの意見だけが心配だったが、仕方なさそうに肩を竦めると、無理はしないで最初は偵察重視で、と釘を刺しながらも承諾してくれた。
そんなわけで、三層だ。
二階層は見渡すかぎりの草原だったが、一箇所だけ、ストーンヘンジに似た石柱が立つ場所があった。不自然な遺跡は、いかにも下の階への入り口に見える。
アルミラージを倒しながら、その石柱群を目指して歩いて行った。徒歩十五分くらいの距離だ。
低階層のダンジョンはそれほど広くないのかもしれない。
遺跡に似た場所をぐるりと一周巡ってみた。
三メートルほどの大きさの石柱が地面から生えている様子をしばらく観察する。今のところ、入り口に繋がる階段は見つからなかった。
気になるとすれば、中央のひときわ大きな石柱に扉の絵が刻まれていることくらいか。
「絵に描かれた扉じゃ、出入りできねぇよなー」
笑いながら、甲斐が扉の絵に触れた。途端、ガコンと音がして触れていた石柱の扉が消える。
もたれかかるように手を置いていた甲斐はそのまま向こう側に転がった。
「石柱が扉型に消えて、階段が出てきた」
「相変わらず、よく分からない設定よねぇ」
「カイくん、大丈夫……?」
「アキラさんだけが優しいっ!」
騒ぐ甲斐は放って、慎重に階段を降りていく。
洞窟から草原、次は何だろうと少しだけワクワクした。
「扉を開けるぜ!」
辿り着いた地下層への扉を甲斐が押し開ける。
目の前に広がっていたのは、緑の洪水。遠くで聞こえる、鳥の鳴き声。
濃密な土と木の匂いは良く知っている。実り豊かな山のそれと似ていた。ただ、山と違い、起伏はない。鬱蒼と茂る木々が私たちを出迎えてくれた。
「三階層は森林フィールドか……!」
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