第18話 二階層へ

 

 金策はどうにかなりそうなので、しばらくはダンジョン攻略に集中することにした。

 とは言え、せっかくのスローライフ生活を手放すつもりはなく、きちんと自分たちの時間は確保して命大事にをモットーにした上での攻略だ。


「一階層のスライムはとりあえず道すがらに殲滅することにして、今日は地下を目指そうか」

「おう、賛成! スライム狩りも悪くはないけど、ちょっと飽きかけていたからちょうど良い」

「カイはそうやって油断するタイプだよね」


 瞳を眇めて指摘すると、目を逸らされた。


「調子に乗ってポーションでも治せない怪我をする羽目になったらどうするの?」

「……悪い、気を付ける」


 素直に頭を下げれるのは甲斐のいいところだ。 

 あんたに何かあったら、おばさんや弟さんたちが泣くよ、の伝家の宝刀を出さずに済んで良かった。


「でも、下に降りるなら貴方たちの武器はもっとマシなものにしなきゃね?」


 冷静に指摘するのは奏多さん。


「ですよね…。カイの木刀は折れちゃったし、私の熊手はスライムくらいにしか通用しなさそうだし」

「私のピッケルもリーチが短い分、少し不安かも。錬金術レベルが上がったら、武器を錬成出来るかもしれないけど……」


 今はまだアクセサリー程度の金属を弄ることしか出来ないようだ。

 相談の結果、奏多さんはそのまま破壊力抜群のバールのまま、甲斐は蔵の奥に放置されていた金属バットを。私と晶さんはこれまた放置されていた鉄パイプを使うことにした。

 ちなみに鉄パイプは先端を晶さんの錬金術で鋭く尖らせた、なかなかに凶悪な武器へと進化している。


 一階層は二メートルの幅がある洞窟道が数百メートル続き、突き当たりにテニスコート二面分ほどの広場があった。

 主にこの広場でモグラ叩きよろしく、スライム叩きに励んだものだ。

 この広場のさらに奥に、岩肌をくり抜いたような大きさの出口があり、下に降りる階段が続いている。


 最初にダンジョンに足を踏み入れた際に与えられた知識に、これが下層へと続く道であることは分かっていた。


 階段を降りた先にはドアがある。

 ノブはなく、てのひらを押し当てると開かれる第二階層への入り口だ。

 ドアの手前は六畳ほどの広さの小部屋になっており、ここは所謂セーフティゾーンらしい。

 魔力を回復するための食事や休憩はここでしよう。あいにくトイレはないので、なるべく水分は取らないようにしなければ。


「下層に降りるごとに魔物の強さが上がるんだったよな」


 金属バットを構えて、甲斐が云う。


「うん。少なくともスライムよりは強い相手が出てくるから、気を付けなきゃね」


 鉄パイプを握りしめる。

 レベルアップの恩恵で腕力が上がったおかげで、重い鉄パイプも余裕で持ち上げられた。


「じゃあ、覚悟はいーい? 開けるわよ?」


 不敵に笑う奏多さんはいつもより更にカッコいい。

 挑戦的に前を見据える晶さんも凛々しい。


「いざ、二階層へ!」




 開かれたドアの向こう側の光景に。

 闘争心たっぷりで挑んだ私たちは呆然とした。

 

 目の前に広がるのは、足首を覆うほどの長さの草が広がる、草原の階層が広がっていたのである。

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