第17話 お小遣い稼ぎ 3
強気の値段設定にしていたはずの、お野菜セットが完売してしまった。
驚きつつも、急いで発送の準備をする。
夏野菜セットがひとつ2,000円。アプリ側の手数料一割を引いても五個分で9,000円の売り上げ。
鍋野菜セットはひとつ1,500円。手数料を引いて五個分の売り上げが6,750円。
本日分だけで、あわせて15,750円の売り上げだった。
「ここから箱代を引いても一万円以上の収入……!」
一ヶ月で換算すると、クビになった会社の初任給以上の金額に目眩がした。
アプリは便利だ。
昔のように、ひとつひとつ宛名を手書きで送り状を作らなくても、入力した内容のバーコードをスキャンして貰えば簡単に済む。
面倒なのは野菜の収穫と箱詰め作業だ。
夏野菜セットと鍋野菜セット、各五個ずつの十個の荷物を作り、宅配業者に連絡する。
少しでも新鮮な状態を維持するために、集荷に来るまでは『収納』しておいた。
「おためしで買ってくれたのかな…?」
フリマアプリを開いて、他に出品された野菜を調べてみる。
訳ありのB級品は安い価格で出品されているが、綺麗な状態の野菜はそれなりの値段だ。
強気の値段設定のつもりだったが、そこまで高値ではなかったかもしれない。
新鮮さと味には自信があるので、今回買ってくれた人がリピーターになってくれる可能性に期待した。
「なぁ、ミサ。これだけ売れるなら、倍の量でも大丈夫なんじゃね?」
能天気な甲斐の提案に、なぜか北条兄妹も真剣な表情で頷いている。
「私もいけると思うわ。箱詰めが大変かもしれないけれど、私たちも手伝うし、試しに挑戦してみない?」
「あ、私も手伝います。収穫もがんばります」
「俺はバイト代次第!」
麗しい兄妹の申し出に感動していたところを、甲斐め。まあ、バイト代は元々渡す予定だったし。
「いいよ。じゃあ、収穫と箱詰め作業で三千円でどうかな?」
「マジ?! やるやる!」
「そんなに貰って大丈夫なの? 四人でかかれば、二時間もかからないでしょう?」
「んー、でも結構な重労働ですし。それに元手がほぼかからないから、儲けもかなり出るし、還元しますよ」
定期収入がほしいのは四人とも同じ。
とりあえず明日からは多めに発送することにして、集荷の時間までそれぞれ仕事に励んだ。
午前中に宅配業者が集荷に来てくれたので、十箱分の発送と、今後も毎日朝イチでの集荷を依頼した。
待ち時間に本日分の畑の手入れと収穫を終わらせて、野菜発送用の箱も通販で大量に購入した。
一枚250円。初期費用がちょっぴり痛いが、リターンが大きいのですぐに回収できるだろう。届くまでは納屋に保管していた野菜箱を使うことにした。
そんなわけで本日のダンジョン潜りは昼食後だ。
奏多さん作のお昼ご飯(本日は中華! 具沢山の炒飯と野菜餃子、卵スープは絶品でした)をしっかりとお腹におさめて、いざダンジョンへ!
こつこつとスライムを倒し、ポーションと魔石を集め、レベル上げに注力する。
「あ! レベルが上がった!」
水魔法では倒せないスライムを黙々と熊手アタックで殲滅していたが、しばらくすると脳内でアナウンスが流れた。
レベルアップの音声は何度聞いても気分が上がる良いものだ。
ステータスを確認すると、レベルは4。
スライムの経験値は低いからか、最近はなかなか上がらなかった。
そろそろ次の階層に向かうべきなのだろう。
「ポーションはノアさんとお野菜にも必要だから、一階層は毎日挑戦するけどね!」
その日は三時間スライムを叩き続け、大量の収穫物を手にほくほくと帰宅した。
アプリへのお野菜出品は画像と文章をコピペしたものを各十セット投稿する。
当日の朝に箱詰めするのは大変だったので、空き時間の夕方頃に四人で頑張った。
詰めた箱は『収納』するので、新鮮美味しい野菜を送ることが出来る。
収穫は午前中に終えていたので、作業は一時間かからなかった。
「はい、バイト代!」
にこにこ現金払いをモットーにしている私は笑顔で皆に三千円を配った。
「時給三千円か……」
牧場の肉体労働バイトの時給代千円が脳裏を過ったのか、甲斐は嬉しいような哀しいような、微妙な表情を浮かべている。
多い分には文句はあるまい。
北条兄妹もいいのかな、と小首を傾げているが、出品した途端に購入されていったお野菜セットの売上表を見せると、ありがたくいただきますと受け取って貰えた。
「だよね。ビックリだよね」
強気の各十ずつの出品物が、次々と売れていく様は圧巻だ。
完売した場合、フリマサイトへの手数料と段ボール箱代、お手伝いバイト料金を除いても、一日の儲けは17,000円。
一ヶ月毎日売り切ると、510,000円の収入になる。シェアハウスの光熱費、食費、日用品代などの諸々の経費を十万円としても、月に四十万は残せる計算だ。
「働きに行かなくても良くない……?」
思わず、ポツリとつぶやいてしまった。
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