第13話 エレナの生活


 数ヶ月後のエレナ。あんな辛い悲しい事件があっても、エレナはそのままテレビに出演していた。

 前から続いている『びっくり人間登場』では、「一瞬で13桁記憶」が、よりハードになり、「限界に挑戦」というコーナーに変わった。

 エレナに挑戦させる桁数を際限なく増やしていくというものになり、しかもただ増すのではなく、バラエティ番組特有の盛り上げるための色々な細工も施した。

 例えばエレナが記憶する瞬間に物が目の前を通過したり、数字が動くものに書かれていて、それをチラ見させて覚えさせられたり、ヘッドフォンを付けて騒音で邪魔したりと色々と趣向を凝らして番組は進められていたのだった。


「おっとここで断念か。しかし新記録です。誰も成し遂げられなかった35桁の記憶には成功しました。次週は更なる36桁以上の記録更新を目指して30桁から始めます。乞うご期待」

 と、番組を司会の人間がしめて、そして観覧客の拍手喝采で、番組収録が終わる。


『びっくり人間登場』自体は60分の番組であって、エレナのコーナーの他にもコーナーもあって、実質エレナの出演時間は20分程度なのだが、普通じゃない状況の中での進行される暗記は、やはりエレナも疲れ果ててしまう。

 やはり収録が終わると疲れ果てて、座り込んでしまった。

「大丈夫?エレナちゃん?」

 司会が心配して聞いてくるが、エレナは立ち上がると、

「大丈夫です。お疲れ様です」

 と楽屋に引っ込む。


 楽屋につくと、やはり疲れていて、ソファに座りこむが、

「次に移動する。車、回して。エレナ、移動だ。車に行きな」

それを妨げる者がいる。楽屋にいて指図するパレモとヨナ。エレナの両親だった。

派手な服装をしたパレモはテレビ局のスタッフに慇懃に命令する。

そしてこれまた派手な服をきたヨナが、エレナをムリヤリ立たせ、廊下に引っ張り、車のある駐車場に連れていく。

「ちゃんと歩きな。次はコマーシャル撮影だよ。やれるね?」

うなづくエレナ。ハードなスケジュールをやらされている


 ジュリアが死んでいなくなったあと、これ幸いとパレモとヨナの両親が、保護管理を代行すると言い張り、エレナの保護者と主張して乗り込んできた。

 当然、未成年者エレナは、保護者が必要なので認められたが、エレナの養育者として来たパレモとヨナなのだが養育などせず、エレナを管理することによって、エレナを目一杯、働かせている。


 駐車場に止まっている大きいRV車、そこにエレナを乗せて、乗りこむ両親と付き人の女の子。

 座席に座ると疲れて横になるエレナ。

 車に乗りながら、助手席の父親パレモが電話でテレビ番組のスタッフと交渉している。

「なんでもいいです。金が高いほうが優先します」

パレモ、卑屈に作り笑いしながら電話している。

 ヨナ、後部座席の付き人らしき女の子に衣装を渡し。そして車の中に積まれているエレナ宛のプレゼントを勝手に開き、中身を確認する。

「手作りのぬいぐるみと人形とか、ろくなものがないね。金になるものを送りな」

丸めてゴミとして後ろの座席に放り投げる。一番、後ろ座席の女の子はそれを、袋に詰めて捨てる準備をする。

 エレナ、無残に扱われるプレゼントを見つめ、

「・・・学校にはいつ、いけるの?」

 仕事の電話している助手席のパレモに聞く。

「ああ、そのうちな。そのうち行ける」

「そうよ。エレナちゃん。今は稼げるんだから、お金いっぱい稼いで頂戴。学校なんていつでもいけるから。あとで行けばいいのよ」

プレゼントと格闘していたヨナ、鞄からお菓子を出し、エレナに渡す。機嫌取りのつもりだろう。しかしそれは、全て、テレビ局の楽屋にあったものばかり。

 いらないと首を振り、再び目を閉じるエレナ。




 車は山側にある撮影所の敷地に入っていく。

いくつかの撮影スタジオを通り越し、奥のスタジオの横に停車する。

到着と同時にエレナの手を引き、スタジオ内にあるメークルームに入るヨナ。そしてその後に続くパレモと衣装を持った付き人。


 白いホリゾントのコマーシャルスタジオ。スタジオ内に白い壁を背景にしてステージが組んである。

 人が一人歩けるように、白く細く長いステージで、それはベルトコンベアーを思わせる作りになっており、歩いて進むと色々上から落ちてくるようにされている。

 商品は家庭用の洗濯洗剤で、そのコマーシャルの撮影の準備である。


 衣装に着せ替えられ、一人歩けるステージに真っ白な服を着たエレナが、洗剤を持って立たされる。

スタジオブースにいるディレクターからの声が飛び、指示が出され、撮影が始まる。「じゃまず商品カット。エレナちゃん、微笑んでください。そう商品を胸の所で持って。斜めにしないで。まっすぐ正面向けて。いいよ。それで」

 微笑むエレナ。

「これが一番最後のカットね。先にラストカットを撮ります。エレナちゃんは洗剤で洗って綺麗になったのを喜んでいる感じでお願いします。。洗剤も持って微笑んで。・・・・にこやかに。そうそう。・・・はいオッケー。じゃあ次ね」


「それでは次に行きます」

制作進行の者がエレナが持っている洗剤を回収していき、エレナはステージ上を数歩、前に歩かされる。

 そこからは、カメラが9台配置されているマルチカメラ撮影の区域にはいる。正面ジンバル、俯瞰、あおり、右横、左横、バスト、顔、フルサイズ。クレーン撮影など、どの方向を向いてもカメラがあり、一瞬の行為を逃さない配置にされている。

エレナの動きや表情を、逃すことなく捉えるために同時撮影の同時収録が始まる。


「じゃ、雨から行くよ。エレナちゃん。ゆっくり歩いて」

 エレナ、ステージの上を歩き出すとスタジオに小雨が降りだす。それが歩くほどのに強くなり、びしょ濡れになるエレナ。

「前から風」

 ディレクターの声が飛ぶと、雨が止まり、今度は大型扇風機が回り、風が作られ、前から容赦なく風がエレナにぶち当たる。

 そして一緒に細かい砂や、ゴミが混ぜて飛ばされ、それがエレナに当たると汚れになり、白い衣装は汚れ始める。

「オッケー。次いくよ。今度は本汚し。汚すよ」

 風が止まったので、また歩ける状態になるエレナ。

指示通りに、また歩き出すと、数歩あるいたところで、「汚して」の言葉と同時に、上から泥とか茶色い水とかが、怒涛の如くにエレナの頭を狙って降り注く。

 止まることなく降り続く汚水の水の勢いに耐えきれず、歩けなくなり膝をつくエレナ。

そして汚れた水の勢いが強くなり続け、頭から浴びているエレナは、ついには座り込んでしまう。

「・・・・・・動けない」

 その一連を9台のカメラが非情にも、エレナに向かってパラ廻し。全て収録していく。




 撮影所にハンスがバイクで来る。

入り口の守衛の門番に挨拶して中に入り、奥のスタジオに行く。

ちょうどエレナの撮影しているスタジオの建物の脇に、車内灯がついた高級スポーツカーが止まっている。

ハンスはそこにバイクをつけと、車の中で待っていたプロデューサーのフランツに挨拶する。そしてハンスは背中に背負ったショルダーバックから薬物のパケットを出し、車の中のフランツに差し出す。

フランツは受けとると、代金のお金を、生のまま直出しで渡してくる。

むき出しの金を無造作にだして支払うフランツは、まったく周りを警戒してない。「ありがとうございます」

 と、愛想よく受け取るハンスだが、「相変わらず、危ねえ奴だな」と思いながら、背負っているショルダーバックに金を入れる。

「BPSは早いからいいね。電話したらすぐにデリバリーしてくれる」

「これからもよろしくお願いします」

車から降りると機嫌よくハンスの肩を叩き、一粒飲んでスタジオの中に消えていくフランツ。

 ふんと鼻をならし、馬鹿にして見送るハンス。


 ハンス、出口に向かうため、バイクから降りて方向転換で回していると、スタジオの入り口にある掲示板が目に入る。

 そこに現在進行中の撮影スケジュールが載っていて、張り出されたスケジュール表には、スポンサー名や出演者の名前もある。

『GM広告社、R&Hコーポレーション。[ブレイク洗剤・エレナ編]出演・エレナ・バンビーナ』

ハンス、エレナの名前に気が付き、見つめる。

「エレナ、コマーシャルにも出るのか」



 スタジオ内では降り注いだ汚水が止まり、洗剤で洗うために汚されたエレナが立ちあがる。

「大丈夫?エレナちゃん」

「はい。大丈夫です」

 ディレクター、うなづくと、次の指示をだす。

「じゃあ最後の洗剤が行くよ。汚れた姿でそのまま歩いて。5メートルくらい歩くと洗剤が落ちるから。・・・カメラ回して。エレナちゃん、じゃあ歩いて行って」

 エレナ、びょしょびしょの汚れまくったまま歩いていくと、そこに洗剤が頭の上から、バサっと大量にかけられる。

 洗剤で一気に真っ白になるエレナ。

しかし洗剤は粉のため空中に舞い上がり、あたり一面、真っ白になる。

「おい、やりすぎだ。なんもみえねー」

 そして粉は舞い上がり、エレナを包み、肺に入って、エレナは呼吸困難になり、咳をする。

 必死に耐えるエレナだが、これはどうにもならず、せきが止まらない。

エレナ、苦しくて、洗剤の舞い上がる地帯からから脱出して、ステージを下りる。

白い世界から転がり出てくるエレナ。

 せき込んで転がり落ちて来たエレナに気が付き、ディレクターが叫ぶ。

「水。水。エレナちゃんに水を持って行って」

 しかし舞い上がっている洗剤で、みんなも視界が悪くなっているのでよく見えない。

エレナ、たまらなくなって、せき込みながらスタジオから出て逃げる。


 スタジオ裏の外に飛び出しても咳が止まらず、咳き込んで吐くエレナ。

ディレクターや他のスタッフも心配して追いかけて来て、持って来た水やタオルをエレナに渡してくれる。

「大丈夫か。口に入ったか?」

 スタッフが介抱しようとするとパレモとヨナの両親が出てきて、

「大丈夫です。後はやっておきますから気にしないでください」

 と、体裁を繕う。

そういわれると、ディレクターやスタッフは、後を任せてスタジオに戻る。

みんなが戻ったのを確認すると、ヨナがエレナを蹴る。

「こんなことで時間を取ってんじゃないよ。それぐらい我慢しな。そこいらに水道があるだろ。早く洗ってきな」

 エレナを立たせて押し出し、自分たちはさっさとスタジオに戻っていってしまう。

洗剤で目もよく見えずに歩き出すエレナ。しかしその手を掴んで助ける人がいる。

「ありがとうございます」

「大丈夫か?」

 ハンスである。

「あ、ハンス?」

「何やってんだ。なんだこれは?仕事なのか」

「うん。撮影でこんなになっちゃった」

 ハンスにスタジオ脇にある水道蛇口に連れてきてもらったエレナは、水で顔を洗う。

 洗剤の泡がいつまでも消えないが、真っ白洗剤が落ちて、エレナの顔が現れる。

微笑むエレナ。

そんなエレナの顔を見て、ハンス、目を伏せ、

「すまん。ミチルたちのせいでジュリアがあんなことになるなんて・・・・」

「ハンス、知らなかったんでしょ。関係ないんでしょ?」

「ああ・・・」

・・・しかし、俺がエレナの所に行きさえしなければ・・・と言いかかるが、

「だったら仕方ない。これも運命なのよ」

「ごめん」


 人のいないスタジオ内の制作ブース席で、プロデユーサーのフランツが、両親に金を払う。

「なんで現金の手渡しなの?」

「これの方が、エレナが喜びますから」

 そうは言っているが、銀行口座はジュリアのままで、エレナにしか出せない。そのため現金でもらい、すべて自分たちのものにする。

「もう何でもしますから、これからもお願いします」

 パレモ、フランツに媚びるようにいう。

「何でもするの?へえー・・・・じゃあちょっと早いかもしれないけどセクシー路線でもやってみる?」

 さっきのハンスから貰った薬で少し陽気になっているフランツ、冗談のようにいうと、パレモは

「大丈夫です。任せてください。なんでもさせますよ」

 フランツ、薬のせいか、ケラケラ笑って

「なんでもしちゃうのね?なんでもやっちゃうんだ・・・ちなみにあの子、どうなの?処女だったりするの?」

 パレモ、下卑た笑いでフランツを見て小声で言う。

「確かめてみますか?」

 その言葉にフランツ、笑っているが

「おいおい、まだ子供じゃない?いいのかな?・・・・・・でも、いくら、払えばいいの?」

 だんだんと乗り気になってくるフランツ。



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