第14話 ハンスの心
スタジオ脇の水道で、ハンスからタオルをもらい、顔を拭くエレナ。
「ねえ、どうしてハンスは、ここにいるの?」
「俺も色々とビジネスで、こういう所に出入りしているんだ」
エレナは腕の洗剤も足の洗剤も落とし、
「すごいね。頑張っているんだ」
ハンスを見て微笑む。
「・・・エレナ、大丈夫か?こんなことさせられて辛くないのか?あいつらパレモやヨナの所がキツイなら・・・もしなんだったら・・・俺の所にこないか?俺も少々なら金もあるし・・・」
エレナ、ちょっと考えて
「うん。でも大丈夫。星に願いをかけているから、そのうちこれも変わる気がする」
笑顔のままのエレナに、ハンス、少しがっかりする。
「・・・もう子供じみた願いはよせよ。自分で生きていけよ。大人になるんだエレナ」
「うん。そうかもしれない。でもまだ私、頑張れる」
「そうじゃなくて、エレナに俺の所に来て・・・」
スタジオ裏にいないエレナを探しに水道口まで来たパレモとヨナは、話しているハンスとエレナを見つけ、怒鳴り込んでくる。
「誰だお前は。何してる出て行け」
エレナを腕を掴み、隠すように後ろにやるパレモ。
舌打ちするハンス。
「こいつハンスだよ。何しにきた?エレナに近づくな」
相変わらすギャンギャンうるさいパレモとヨナに、ハンスはイラついてきて
「いいかげんにしろ。てめえ、ぶっ殺すぞ」
銃を出し威嚇するハンス。
「ハンスやめて。お願い」
前に出て来て、銃を向けるハンスの手を握り締めるエレナ。
「・・・」
ハンス、目を伏せると、頷くエレナ。
「・・・分かったよ」
ハンス、銃をしまい、立ち去る。
「なんだあいつは。スラムのガキが。ああいう馬鹿は殺さなきゃだめだ。エレナには今度、ボディガードを雇わなきゃだめだな」
銃にビビっていたパレモが、ハンスがいなくなった途端、大口をたたく。
「・・・」
エレナ、ハンスが寂しそうに去っていったのが気になっている。
しかしそこへヨナがエレナに、薄ら笑いを浮かべて聞いてくる。
「エレナ、お前に聞きたいことがあるのよ。・・・おまえ男としたことある?」
「したことって?」
ヨナ、エレナの股間を叩く。
「・・・」
エレナ理解して首を横にふる。
「処女なんだね?」
うなずくエレナ。
「そうかい、良かったよ。今日はパーティだ。綺麗なドレスを買いに行こう」
エレナを引っ張ってスタジオに戻っていくパレモとヨナ。
パレモたちの態度にイライラが止まらないハンスは、街中を荒い運転でバイクを走らせる。
そんなハンスの運転に他の車がクラクションを鳴らし、ハンスを追い抜こうとするので、ハンス、ムッとして銃を抜き、道路に発砲。
そしてそのまま銃を運転席に向けバイクを並走させる。
目の前で銃が撃たれ、その銃口が自分に向けられいるのに気が付き、怯えてパニックになった運転手は、フルブレーキで車のスピードを落とす。
遠ざかっていく車。
「どいつも、こいつもよー・・・・ふざけんじゃねえぜ。ぶっ殺すぞ」
銃をしまい、スピードを上げるハンス。
「ちくしょう。すべてが気に入らね」
もっと荒い運転になり、前にいる車を次から次へと抜いていく。
「死ね、死ね、全て死ね。バカヤローが」
ハンス、わめきながら、走っているとポケットのスマホが鳴って振動する。
「誰だ?何の用だ?」
走りながら震えているスマホを出し、画面を見るとさっきのプロデューサー・。フランツからの電話。
一瞬、無視しようかと思ったが、バイクのスピードを緩め、道端に寄せて止める。
スマホに出るハンス。
「急に悪いんだけど、ハイになる薬か睡眠薬。今、持ってるかい?」
お客からの注文である。
そこでハンス、冷静を取りもどし、
「ありますよ。スピードとか、数種類あります」
「今日は突然パーティになったんだ。持ってきてほしいんだ。場所は海岸ホテル。時間は1時間後で・・・」
ハンス、腕時計を見てバイクを海の方に向ける。
海の方は夜なのに、明るい歓楽街。
ハーバーの脇にある高級レストランや高級ブランド店やブティックが並ぶ海岸地帯の一角にある海岸ホテルに、ハンスは向かっていく。
海岸ホテルは高さ30階あり、ライトアップされてヨットハーバー脇に輝くようにそびえたっている高級ホテル。
ホテルの目の前はハーバーのオーシャンビューで、裏側は繁華街を見渡せるネオンの海が広がっている。
今日もホテルのホールで発表会か、パーティでもあるのか、玄関には高級外車が列を作って並び、ドレスを着た入場客がで入りしている。
ハンス、バイクをホテル脇に止めて、エントランスから入る。
玄関入り口で、タキシードを着た厳つい体格のセキュリティに止められるが、プロデューサー・フランツの名前を出し、「待ち合わせ」を伝えると、中に入れる。
馬鹿馬鹿しいほどの豪華ルネッサンス調のエントランスっを抜け、ハンスはロビーで待っていると、フランツからのメールが来る。
「18階の1807号室」
ハンス、それを確認すると、エレベーターで上に登っていく。
ここのエレベーターは透明で外が見えるタイプ。港側を見下ろせるエレベータービューで玄関口の到着客も見下ろせる。
初めて乗るエレベーターに楽しくなり、外を見つめるハンス。
登れば登るほど、視界が広がり、船の明かりが見える。船上でパーティーしているクルーザーもいる。
あまりにもいつもの自分の生活と違う異世界の物に乗っている気がしたハンス、ふと独り言を漏らす。
「一泊、いくらするんだろ。高いんだろうな」
ここは高級な地帯にいることを実感するハンス。
ハンスにも泊まれるだけの金はあるが、馬鹿馬鹿しいことに思える。自分には関係ない世界だなとも思う。
ホテルの1807、ノックをするとドアが開き、気取った服装なプロデューサーフランツがでる。
「パーティーですか?」
部屋に冷えたワインとかテーブルがセッティングされている。
ハンス、ハンカチに包んだタブレットのパッケージをフランツに渡す。
「参ったよ。処女買わされたよ。まあ、泣かれると最悪なんで、もしものために保険を用意しておかないとね」
また、金をモロで渡してくる。まあいつものことなので、それを受け取り、
「忙しくて結構なことです。それじゃ」
あっさりと出ていくハンス。
そしてまた外が見える透明エレベーターに楽しく乗っていると、ホテルの外の道で、ドレスを着たエレナが車から、降りてくるのが目に入る。
「あ・・・」
着飾ったエレナを入り口に引っ張っていくパレモとヨナ。
「・・・パーティーは『エレナ』か」
一階につき、エレベーターを降りるハンス、
「・・・・」
足取りが重くなっている。。
エレナ、ホテルのエントランスにつくとセキュリティに止められる。
フランツの名前を出すと、入り口のセキュリティはフランツの部屋に連絡を取り、エレナのみの入場を許可して「ロビーで待つように」と伝言して中に入れる。
入り口で、食ってかかり叫んでいるパレモとヨナから引き離されて、ロビーに進んでいくエレナ。
見舞わすエレナ。自分とは異質な豪華なロビーを見回す。
「綺麗な世界」
急に着せられたドレスは、これに合わせたものなのだろうとわかった。
そしてロビーについて立ったまま待っていると、プロデューサー・フランツが手を振って近づいてくる。
「あ、エレナ。綺麗な服だね。似合っているよ」
「ありがとうございます。お食事は、ここでするんですか?」
「あ、食事ね。そういわれて来たんだ。部屋で食べよう。ルームサービス呼ぶから」
フランツにエスコートされて、ホテルのエレベーターに乗っていく。
ホテルのエレベーターに乗ると、外が見える珍しいエレベーターで、エレナも楽しくなり外を見まわす。
すると外でエレベーターの前に立ち、昇るエレベーターを見つめているハンスが居るのを見つける。
「あれ?ハンス」
目が合うハンスとエレナ。
エレベーターは上がっていくと、どんどんとハンスが小さくなっていき、見えなくなってしまう。
そして見上げていたハンスは、エレベーターを見送り、バイクにまたがる。
エンジンをかけると、静かに走り出す。
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