第6話 奪うもの
再再度、宝探しの取材に来るジュリアたち、生ごみ集積所の谷底に降りて取材を始める。
他のテレビ局も来ているが、匂いで苦しんでいる。
ジュリアは対策済み。顔が見えるように透明なマスクを用意して、そこに酸素を流すようにチューブをつなぎ、臭気が入らないようにしている。
「準備、いいかい?」
映らないカメラマン・ピーターたちクルーは、これも酸素が入る、いかついガスマスクして、撮影を準備する。
昼なのに薄暗い谷底にライトが付き、そこでカメラマンのキュー出しで、喋り出すジュリア。
「こんにちは、ジュリアです。先日、盗まれたヴォレオー財閥の財宝が、ゴミ山に捨てられ、見つからず沸きあがった宝探し騒動でした。何千人も入って散策したのですが、まったく発見されずここしばらくは沈静化していたのでですが、それが昨日、第一発見者が現れ、ここのゴミ島に宝が眠っていることが、本当であると証明されて、再び今、大挙して人が押し寄せて、二度目のゴールドラッシュ起きています。今回は前回と違い、続々発見者が出ている模様で、宝を手にしたものは喜びの声を上げております」
喋るジュリアから、ゴミ捨て場にカメラをパンして周りを映すと、人間同士がひしめき合って、ゴミを掘り返している。ゴミに埋まった宝を探し、密集しているゴールドラッシュ状態を映す。
「あった!」
その中で女が叫ぶ。何かを掴んで抱えている。
その声を聞いてジュリアが叫ぶ。
「こっち来て見せて。見せてくれたらテレビ局からもお金を出すわよ」
女は人の波を押しのけて自分の服に隠した箱を持ち、テレビのカメラ前にくる。
そして服に隠した手をカメラ前にだす。手の中には20センチぐらいの長いビロードの箱を掴んでおり、女はその箱をカメラの前で思いっきり開いて見せる。
箱の中には真珠のネックレスが入っていた。
「キャー、やった」
「本物だ。パールのネックレスだ」
女が、そして周りみんなが、歓喜の声を上げる。
「噂は本当です。ここに宝が放置されて今も埋もれています。みんなに掘り出されるの待っています」
すると野次馬が、それを奪おうとして手が伸ばしてくる。
「私んだよ。離せ」。
カメラ前で争いが起きる。
見ると他の場所でも殴り合い喧嘩をしているところがある。見つけた人間と横取りしようとする者が争奪戦をしている。
テレビを見てからか、なおも続々と人々が入ってくるスラム街。まるで街中の人間すべてが、ゴミ島に向かって進んでいくよう。
そんなスラム広場に金ピカの装飾がほどこされている高級車が止まっており、ゴミ島の総元締めチコが後部座席にいる。
窓が開くと外にいるポポロが、最敬礼してチコにダイヤを渡す。
チコ、ダイヤを太陽にかざし、輝くのを楽しむ。
チコは頷くと、外の窓際にいるボディーガードが、手に持つ厚み20センチぐらいの黒い箱をポポロに渡す。
ポポロ、蓋を開くとお札が満タンに入っている。
それを陰から見ているハンス、飛び出してくると、チコが持っているダイヤを掴もうとする。
しかしハンス、車に近づいたところでボディガードに髪の毛を掴まれて、あっさりと止められる。
「俺のダイヤだ。返せ」
「なんだ?このガキは」
チコ、捕まったハンスに気が付き見る。
「チコ。俺のダイヤなんだ。返してくれ」
するとポポロに首の後ろを掴まれて、引き倒され転がるハンス。
「どういうことだ?ポポロ」
「すみません、チコさん。よく言って聞かせます」
なおもハンス、立ち上がり、チコに行こうとするのをポポロは腹を蹴る。
もろに腹に入り、苦してうずくまるハンス。
窓が閉まりチコの高級車、出ていく。
「本気で死にたいみたいだな」
ポポロ、ハンスを蹴って蹴って、まったく動かなくなるまで蹴り倒してから去る。
もがき苦しむハンス、やっと体を起こす。
「・・・畜生。・・・畜生」
ボロボロになったハンス、何とか立ち上がると、痛む身体を引きづって、スラムに
向かって歩き出す。
そしてたどり着くのはエレナの家。
中では、数日前の金属で斬った肩の傷が膿んで、高熱を発し、その熱でうなされて寝ているエレナ。
入ったハンス、エレナに謝る。
「ゴメン、奪い返せなかった。・・・」
高熱でうなされながらも、微笑むエレナ。
エレナの腕の傷は変色して、黄色い膿を出し化膿している。
「エレナ、大丈夫か?・・・」
ハンス、そこを押してみると、ブチューと膿がなおも出てくる。
「病院に行かないとまずいな」
熱にうなされているエレナだが、目を開けてハンスを見る
「人に見せるから持っていかれちゃう。自分のお星様は隠して守らなきゃ」
そして苦しいながら、身をよじり、あの時ハンスのダイヤと一緒に拾った『自分の分のエメラルドの指輪』をポケットから出す。
「ハンス、願い事を言って」
エレナ、そのエメラルドの指輪をハンスに渡す。
「あげる。願いを言って」
必死に出されたエメラルドを掴むエレナの手を握り、
「わかった。金・・・いや力だな。あんな奴に負けない力があれば、こんなことにならなかった」
と、願いを伝えるハンス。
「隠して。そして願うの。叶うまで隠しておくの」
荒い息で苦しそうなエレナ。
「大丈夫か?」
「少し苦しい。」
すると家の前でゴソゴソと音がしているのに気が付く。
「あ、帰ってきた。もう行って」
頷くハンス、エレナからエメラルドを受け取ると部屋の壁である布を押し上げ、横から出る。
すると入口から代わりに入ってきたのはジュリア。
「居ないの?エレナ」
奥を見るとエレナが寝てるのが分かる。
「寝てるの?エレナ?また取材に来たから寄ったわ。一人?」
近づきエレナを見ると、熱を出して荒い息で苦しんでいることに気がつくジュリア。
「どうしたの?ひどい熱。両親は?」
「みんな宝石探し」
「そんな・・・こんな状態の子供をほっといて。・・・病院には行ったの?」
「お金ない」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
エレナを抱えるジュリア。外に引きずりだす。
ピーターが撮影クルーと一緒に外で待っていると、ジュリアがエレナを抱えて家から出てくる。
「おい、どうした、ジュリア?」
手にべったりとついた、エレナの膿をみせて、
「急病よ。病院に運んで」
運び出し連れて行こうとする。
「ジュリア、待て。関わりすぎだ。やめとけ。家から連れ出したら、これは誘拐になるぞ」
「なにいってんの。このままじゃこの子、死んじゃうわよ」
行こうとしているジュリアを掴み、
「・・・こんな所で生まれたんだ。ここで死ぬのも運命だ」
冷静にいうピーター。
「嫌よ。そんなの。人の命なのよ。そんな運命で片付けられる問題じゃない」
掴まれたピーターの手を払いのけ、エレナを抱きしめて泣きながら走りだすジュリア。
「死なさない。絶対、助ける。貴方は生きるの」
腕の中のエレナ荒い息。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます