第5話 エレナとハンス


 スラム街・広場ではポポロに殴られるハンス。

「何をしてるハンス。取材が来てる今がチャンスだ。奴らの機械は高く売れるテレビ局の何でもいいから持ってこい。」

「無理だよポポロ。みんなが盗まれないように警戒してる」

「やっぱりカメラがだな。カメラを持ってこい。高いものだから、すぐに売れる、かっぱらって来い」

「無理だって。みんな見つかって叩きのめされているじゃないか」

 傷だらけで倒れている子供たち数人いる。

ジュリアたちのクルーが増員されたのも、こういう対策のために増員された。

「ハンス、分かってないな。持って来ないなら俺がこうしてやるぞ」

 ハンスの頭をまた叩き、髪を持って揺さぶる。

「わかったよ・・・」

 不貞腐れて出て行くハンス。


 ハンス、ゴミ島に入っていくと、エレナの取材陣のテレビ数社が、生ごみ谷の上に集まっている。カメラマン以外、他のスタッフは、谷上で待機しているので、機材が谷の上に集まっている。

 クルーたちの引っ張る台車の上に予備カメラ、バッテリー、パソコン鞄などが乗っている。

 ハンス取材陣を見ながら、機材を物色している。そしてその中のカバンをターゲットにして近づく。

そして今、捕ろうとした時、谷から上がってきたエレナに止められる。

「ハンス、ストップ」

「・・・・」

 エレナが来て、ハンスの手を握る。

「なんだよ?何がストップだ?」

「後ろ」

 エレナに言われて後ろを見るとスタッフの一人がピッタリとハンスの後ろにいて、何するか見ていた。もしハンスが鞄を掴んだ瞬間に叩きのめされていただろう。

「・・・」

 じっと見ているクルースタッフ。

エレナ、そのハンスの手を引き、歩き出す。

「殺されちゃうよ。行こう」

 クルーや荷物から離れるエレナとハンス。

「エレナいいのか?みんなお前を撮影に来ているんだろ」

「いいの。私の約束じゃない。お父さんお母さんがやっている約束。お腹すいたね。何か食べよう」

 ゴミ島からスラム街に向かっていくエレナとハンス。

エレナが去り、テレビクルーもやることなく、片づけを始める。


 町に出て、ハンスを従えて、エレナが街灯売店を見て回る。

いつもは手が届かなくて、見もしなかった店の数々だが、今日はどれでも買えるお金をジュリアにもらい持っているから、楽しく見て歩ける。

 街頭スタンドで売っているパンやジュースを見つけ、余裕で買い始めるエレナ。

「今日はリッチなんだ。何でも食べよう」

 暖かい買ったばかりのハンバーガーをハンスに渡し、二人で食べながら歩く。

ハンス、食べながら、コーラを見つける。

「コーラ・・・」

「ハンス、コーラ欲しいの?おばさん。コーラ頂戴。大きいやつ」

 ハンスに渡されるコーラ。

憧れのコーラ。思いっきり飲む。そしてゲップをする。

笑うエレナ。笑うハンス。

「幸せ。ほら願いがかなったでしょ」

「エレナ、どうしたんだ、いったい」

「お星様のおかげ。願いは叶うものなの」

 そう言って食べて歩くエレナ。なおも「油であげた砂糖のまぶしたパン」や、「ヤクルト」を買って食べ歩く二人。


 服装は汚いので店には入れないが、街で洋服を見たりして街を歩く。

夢がひろがる気がして笑いあう二人。

 そして夕方になり、スラムに戻るのだが、家に行かずまたゴミ島に入っていくエレナ。

「どこに行くんだエレナ」

「いいから着いてきて」

 そのままエレナについて行くと生ゴミの場所につくハンス。

なんか訳が分からないが、エレナがハンスの手を引き、生ゴミの奥に進む。

段々と臭気が強くなり、苦しくなって来るハンス。

しかしエレナは慣れているようで平気で進んでいく。

 日も暮れ始めて、悪臭漂う生ごみ捨て場の奥には誰もいない。

「なんだよ。何処に行くんだ?」

 あまりの臭さにハンス苦しむ。

「こっち」

「なんだよ。・・・・もう戻ろうぜ・・・・でもコーラ奢ってもらったしな」

 と、渋々着いていくハンス。

「今ね、ハンスに星を探してあげる」

 しかしハンスはもう限界で、戻ってしまおうと思った時、

「・・・あった。来て」

 エレナ走っていって、ゴミの中に半分埋もれた手のひらサイズの箱を掘り出す。

「何を・・・・」

 ハンス、近寄っていくとエレナが箱を持っている。ダークグレーのビロード地の指輪ケース。

 エレナ、ハンスに向けて蓋を開けると、そこにはダイヤとエメラルドの指輪が二つ入っている。

「あ、これ・・・」

「お星様。誰にも内緒よ。ハンスに一つあげるからこれに願い事して。叶うまで絶対隠しておくの」

 渡されたダイヤの指輪を見て驚いている。

空に翳すとキラキラ輝くダイヤモンド。かすかに残る夕日の赤がダイヤを通して鮮やかに見える。

「すげえ。夕日が太陽のように輝いているぜ」

 ハンス、目をかがやせてダイヤを見つめる。



 翌日、週末のスラム街広場にポポロの車が来ている。

そしてそこでポポロが、ダイヤの指輪を見てる。

「凄いでしょ。これで一生、遊んで暮らせる」

 車の脇にいるハンスは得意になってポポロに見せている。

品定めをしているポポロ。

「いくらになる?凄い高いものなんだよな」

 喜んでいるハンスの後ろにいるエレナ、無言でハンスを見つめている。

「・・・」

 ポポロ、何度も頷き、本物だと理解して

「ハンス。これは何処で見つけた?」

「何処ってゴミ山だぜ」

「何処だ。連れて行け」

 ポポロ、ハンスをじっと見つめる。

「いやだめだ。まだあるかもしれないんだ。内緒だよ」

 ポポロ、車からおり、ダイヤの指輪をポケットしまうので、

「ポポロ。何すんだ。だめだ。俺んだ」

 ポケットにしまう腕に縋りつくハンス。しかしその腕を取り、ねじ上げるように引き剥がすポポロ。

「どこだ?ハンス。案内しろ」

 腕を持ち、ゆするポポロ。

「返してくれ俺のだ」

 ハンスがなおもポケットに手を伸ばすが、大人のポポロは簡単に引き剥がし殴る。

「俺んだ。返せ」

 蹴られるハンス。何度も立ち上がって掴みかかるが、簡単にポポロに殴られるハンス。

「なんだ?俺のだと?ふざけんな。いままで、助けた恩を忘れやがって殺すぞ」

 容赦なく何発も殴るポポロ。

「やめて」

 エレナ、そんなポポロの手を掴みやめさせようとするが、体の軽いエレナは、叩かれて蹴られて吹っ飛ぶ。そして金属ごみの上に落ち、肩から腕に向かって、金属が刺さり、キレて血が流れる。

「さあ案内しろハンス。もっと見つけるんだ」

 ポポロ、ハンスの腕を捻じ曲げて、連れて行く。


 ハンス、渋々エレナに連れてきてもらった生ゴミの場所に、ポポロを案内する。

そして谷の底を指さす。

「ここか?・・・くせえ」

 あまりの臭さにめげてしまうポポロ。

「ハンスおまえ、降りて探してこい」

 ハンスを蹴って谷底に落とし、上から指示を出す。

ハンス、渋々と谷底で、新しいゴミをどかし、探す。

「もっと、右に行け。その下はどうだ?」

 谷の上から指示を出すが、ハンス、ダラダラと動く。

「もっと右を探せ。その足もとのものは、なんだ?箱じゃないのか?開けてみろ。違うのか?・・・もっと降りろ。奥にある赤いのはなんだ?」

 ポポロ、谷の上で叫んでいると、ラットの連中が次々と谷に降りていく。

「な、なんだおまえら?」

 広場でハンスを殴ってダイヤを奪っているのを見て、宝石がある場所に向かうことを知ったラットの連中が後をつけていた。

そしてハンスが探し出したので、ここだと分かり、ハンスの周りで、宝を探し始める。

「おまえ達。どっからきた。やめろ出ていけ」

 なおも続くラットたち、どんどん集まって谷底に降りていく。

「泥棒ども来るな。ここには何もない。どこかへ行け」

 人が集まって探しまくる生ゴミの谷底。

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