第2話 地上の星
夕方の便が終わるとラットたちは自分の家に帰っていく。ゴミ運搬道路に沿って家が造られ、それが集まりスラム街を形成している。
無論、電気も水道もないゴミ島なので、できる限り、街に近いところに造られている。
家は捨てられた廃材を集め、柱と壁と天井を作り、一人スペースは1メートルか2メートル四方程度で部屋を作り、その中に寝室、居間と区切って造られている。
家族の多い所は大きいし、長年住んでいる者は金になりそうな物を集めて溜め込んでいるので大きくしている所もある。
しかし貴重品は置いておくと泥棒に盗まれてしまうため、基本、貴重品や金目のものは自分の体につけ、全財産、持ち歩く者もいる。
エレナ、家に帰ると、痩せこけた両親のパレモ(父32)とヨナ(母24)が、待っていた。
「エレナ。今日の収穫は?」
シワがれた声でヨナがエレナに聞いてくる。エレナは、メアリーに貰った飴をヨナに渡す。
「なんだよこれ?こんな金になら無い物、持ってくるな。もっといい物を持ってくるんだよ」
と文句を言いながら、エレナの飴を奪い取るヨナ。
「もうグズで本当に嫌になる。ねえ、まだこの子、売れないかな?」
「まだ幼すぎる。あともう少しだな」
小柄で目の大きくちょび髭を生やしたパレモ、エレナの尻を叩き、奥の部屋に入れる。
奥の部屋と言っても、毛布が敷いてあるエレナが寝ればいっぱいの納戸のような部屋。そこに横たわり寝るエレナ。
寝ながらエレナ、メアリー教師が言ったことを思い出して、壁の一部押す。壁となっているが布なので、開けば外が見える。
高い建物がない平屋のスラム街。空はとても広い。
電気も通じていないので、明かりがなく、星空が綺麗に見える。
「何を願えばいいのかしら?」
メアリー、言ったことを思い出す。
「お腹いっぱいになって寝る?・・・でもお腹いっぱいって、何を食べてお腹をいっぱいにすればいのだろう」
翌日は、週末でスラム街の広場に、この地域のボスがくる。
毎日、拾ってる細かいものは、広場に常時いる「測り業者」が重さを測り、グラムでお金に変えて貰えるのだが、拾ったもので高価そうなものは週初めと週末に、直接、地域のボスに渡して買ってもらえる。
ハンスは先日、揉みくちゃの紙袋の中から、熊のぬいぐるみの付いたスマートフォンを見つけており、それを持って、スラム街・広場に来る。
拾った物を買い取るボス・ポポロが車で来ていて、窓から差し出されるラットの持ってきた品物を吟味して、交渉の末、現金で払ってもらえるのだ。
買取の列に並んでいたハンスは、窓から手を出すポポロの手に、持ってきたスマートフォンを乗せる。
「凄えじゃねえかハンス。新しい機種だ。(みんなに見せ)ほらスマートフォンだぜ。みんなも頑張ってこうのを拾ってくれ」
ポポロ、スマートフォンから、ぬいぐるみを引きちぎって投げ捨て、金をハンスに渡す。
受け取るハンスは満面の笑み。
ハンス、なんとなく捨てられた、汚い熊の縫いぐるみを拾い上げ、手で弄んで歩いていく。
広場から街の方に向かっていくと公園があり、芝生が生えた公園に囲むように売店や屋台が並び、食事や日用品が買えるような市場みたいになっている。
むろんにその中には拾ったものが並べてる店や飛び切り安い食べ物屋台や軽食もあるため、一般市民も公園に来て、買い物や食事を楽しんだりしている。
ハンスは先のほど入った金で、街頭販売のビンのオレンジジュースを買い、飲む。金の入った時のハンスの贅沢、「ジュースを飲む」
本当はコーラが飲みたいが、高いのでオレンジジュースで我慢している。
そのまま飲みながら、公園を回り、ハンスふらついていると、その公園中央の丘の場所でエレナがお祈りをしているのを見つける。
「なにしてんだ?」
「星に願いをしているの」
「馬鹿、昼に星なん出てないぞ」
空を指さして笑うハンス。
「でも夜は外へ出たら、人さらいに連れて行かれるじゃない」
指で遊んでいた熊のぬいぐるみに気が付き、
「これいるか?」
ハンス、持っていたぬいぐるみをエレナに投げる。拾い上げるエレナ、喜ぶ。
「いいの?」
「ああ、今日はリッチなんだ。ぬいぐるみぐらいくれてやる」
「うれしい。もう願いが叶った。今、妹か弟が欲しいって祈ったの。そしたらこれ。妹だわ。名前ピピにしよう」
熊のぬいぐるみの顔を見つめて挨拶。
そして引きちぎられたヒモを再び結び直し輪にする。それから自分の腰にベルトの代わりにつけているヒモに通し、腰にくくりつける。
「汚い妹だな。所詮その程度だよ。おまえの願いなんて」
「ハンスには願いがないの?」
「あるさ。願いは金持ち。金さえあれば、こんな所から出て行ける。好きなもの食って毎日遊んで暮らしたい」
ジュースを飲み干し、名残惜しそうにビンを覗く。
「お金?願えば叶うわ」
「バカだね。そんなもんで叶ったら世の中、金持ちだらけだ」
「願ってみなさいよ」
「嫌なこったい。それは自分の手で掴んでみせる」
飲み終えたジュースのビンを思い切り投げて、去っていくハンス。
サイレンがなった後、夕方の最終便を求めて、みんなゴミが捨てられる場所にくる。
エレナも生ゴミの場所につき、満たされぬ空腹を埋めようと奥へ来たが、さらに奥の谷底から来た老人たちが手を振って止める。そして『やめろやめろ』と諭される。
「今日はやめておきな。朝に食べて痙攣おこして倒れたモーツバル爺さんが死んだ。ここら辺に、なにかやばい物がある」
エレナは微笑み、空のジャム瓶を見つけ蓋を開けて、指をつけて口に運ぶ。
「まあ、勝手にするがいいさ」
みんなエレナに、呆れて去って行く。
そして誰もいない中、奥に進んでいくエレナ。
みんなが途中で帰ったので、結構、食べ物が転がっているのでうれしい。。
エレナ拾いながら食べて、進んでいくと、さらに奥で何か光るものを見る。
「星?」
エレナ、急いで近寄ってみると、金色の輝く装飾を施された綺麗な箱を発見する。
「これか、光ったのは。・・・綺麗。今まで見たこともない綺麗な箱」」
エレナ、蓋を開いてみると、中央に5センチもある大きな青いダイヤがあり、それをダイヤたちがつなぎ、5連のダイヤのネックレスになっている。そして恐ろしい程に光り輝く。
「あ、星だ」
エレナ、そのネックレスを出すと空に掲げる。
キラキラ光るダイヤ。星より輝く。
エレナ、満足してしまおうとするが、入れるものは何もなく、お尻についた熊のぬいぐるみに気が付く。
エレナはぬいぐるみの背中についているチャックをあけ、中の綿を抜き出し、その空いた隙間にダイヤのネックレスを捻じ込んで、チャックを閉じる。
そして残ったのは箱。
「箱・・・」
箱に太陽の装飾がある。あまりにも派手。エレナ、ゴミの中に押し込み、隠して見えなくする。
「太陽は沈むから。今は沈んでいい」
埋めてしまうエレナ。満足してまた、食べ物を探す。
ちょうどその頃、帰っていくラットたちと入れ違いで、ゴミ島に入ってくるポリスカー。
ゴミの島に到着すると、後部座先のドアが開かれ、中から手錠をかけられた男が警官に引き摺り出される。
「おまえを捕まえたのは、この辺だったよな」
「掴まる前にお前は盗んだものをここから投げたと言ってたが、どこへ投げた?」
頷く盗人。
警察が現場検証を始め、盗人を歩かせる。
「どうだ?どの辺に投げたんだ?」
「分からない。全て同じ風景に見える」
「目印はあるんだろ?」
「あれ」
指差すごみ山の一つ。避雷針が突き刺さり特徴的なゴミ山である。
「あれが右側で、これぐらいで見えた。その下の崖に投げた。」
「じゃここか?」
手錠をされた盗人は、まわりを見ると、首をかしげる。
「でも・・あんなところにゴミ山はなかった。こっちにもあんな山はなかった。」
指をさして戸惑っている。
「毎日、ゴミが来るんだ。山もできる」
警官がそんな意見で打ち消すが、
「まったく、わかんなくなった」
と盗人は首をかしげる。
警察、なおも盗人を連れ回すが、どの場所も実感がなく、良く判らない様子で首を振る。
そして日が暮れる。
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