第68話 誕生

必要な日用品を買ってすぐに戻ると病室に沙優は居なかった。

「え?か、看護婦さん!家内は??」


「あ、旦那さんですか?

 奥さんが急に産気づいちゃって分娩室に運ばれました。

 とは言え初出産ですし、多分これから何時間もかかると思います。」


肝心な時に俺は…

「あの…少しでも寄り添いたいのですが…」


「分かりました。先は長いですが…先生の許可を頂きますね。」


「お願いします。」


・・・


「あっ…あなた…ううっ」

少し安堵したような表情を一瞬見せたが

それから数時間沙優はずっと苦しんでいた。

俺は何度も汗を拭いたり、ペットボトルを口に当てて水を少し飲ませたり…

でも気休め程度。

本当に手を握って、励ますくらいしか出来なかった。


そして…

「良いですか!お母さん!!呼吸を整えて一気に力んでください!」

「ううっ…!」

「ふーーふーーはーー」

「ふーーふーーはーー」


「あ、頭が出てきましたよ!もう少しです。

 もうひと踏ん張り頑張って下さい!!」

「うううっ~ううっ!!!」


本当に痛いだろう…苦しんでいるし…

でも一生懸命頑張っていて、顔は真っ赤で血管も浮き出ていて…

その姿に俺は涙して感動せずにいられなかった…


「が…頑張れ…頑張ってくれ~沙優!!」


下からは望んでいた愛しい娘の髪の毛が見えて…


「ううっ!うーーー!!!」


優愛が完全に出てくる所をはっきりと見届けた。

泣かなかったので看護婦さんが優愛のお尻を叩いた。

「ほら、お母さんに元気な泣き声聴かせて上げなさい!」


「お、おぎゃあああ~~~」


優愛はそれで元気に泣き出した。

体重は3200g…

ぬるま湯で体を拭きとってもらい、すぐに沙優の腕の中に置かれた。


「あ…優愛ちゃん…お母さんだよ…」

沙優は疲れながらも泣きながら優愛に話しかけていた。

「優愛…お父さんだよ…」


優愛は初期検査のため看護婦さんに連れて行かれた。

30分後に病室のベッドに運ばれてくるらしい。


沙優も産後の処置が終わったので

俺は沙優をお姫様抱っこして病室に運んだ。

「パパ…私…頑張ったよ…」

「沙優…本当に良く頑張ってくれた…優愛を産んでくれてありがとう!!」

俺は泣きながら沙優に感謝の気持ちを伝えた。

「うん…」


病室で待っていると、沙優が寝ているベッドの横に優愛が運ばれてきた。

初期検査は問題なかったらしい。


「優愛ちゃん…」

疲れているだろうに、でもそんな事を感じさせない程

沙優はかなり嬉しそうに愛おしく優愛を見つめていた。


俺も優愛の柔らかいほっぺに指をプニプニさせると、

優愛は俺の指をまだ小さい手で握り返した。


産まれたばかりなのに…こんなに…力強く握れるんだ…

俺が待ち望んだ新しい絆…

この暖かい力強い感触を俺は生涯忘れないだろう…


「ふふっ…お父さん大好きになっちゃったかな?優愛ちゃん♪

 でもね…お父さんは簡単には渡さないよ(笑)」








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