第67話 名前

10ヶ月となり、もう少しで予定日となる。

いつ陣痛が来てもおかしくない時期になった。

用意周到な旦那様は出産後に必要なものは既に一通り買い揃えてある…

過剰な程に…


「もう~~~…そんなにおむつもミルクも要らないよ~?」

「そ、そうか?」


「これも買ってきたんだが…」

「可愛いのは分かるんだけど…涎拭きとかそんなに要らないよ~?」

「そ、そうか?」


「う~~~ん…」

「ど、どうした?陣痛か!?」

「違うから!も~う…今からそんなんじゃ

 産まれたらどうなっちゃんだろうって思ったの!」


全く過保護なんだから…

我が子なんだから私も可愛いんだけどちょっと嫉妬しちゃう…

ズルいぞ!…

あ、そう言えば名前どうしよう?…


「ねえ、あなた?名前どうしようか?」

「うん。実はな…考えている名前があるんだ!」

旦那様は意気揚々と答えた。


「優愛(ゆあ)って言うのはどうだろうか?

 沙優みたいに優しく、そして愛される子になって欲しいという意味で…」


…ずるい…そんな事言われたら何も言えない…


「うん。優愛ちゃんか!とっても良い名前だね♪」

「そう思ってくれるか?」

「うん♡」


私はお腹をさすりながら

「…優愛ちゃん…元気で生まれてくるんだよ♪

 お母さん…待ってるからね♪」

「お、お父さんも待ってるぞ!」


・・・


それから数日後…


ううっ!お、お腹が張っている…苦しい…

予定日より少し早いけど…産まれるんじゃないの?


「あ、あなた…ううっ…」

「沙優?沙優!!大丈夫か?」


「お、お腹が痛い!!」

「わ、分かった!すぐに病院に行こう!」


旦那様は私をお姫様抱っこして車で病院に連れて行ってくれた。


・・・


「先生!どうなんですか?」


「陣痛ですね。初めてだし、少し時間がかかるかもしれません。

 すぐ産まれる事はないと思うので、

 ご家族への連絡や入院に必要な日用品など用意してはいかがでしょうか?」


「わ、分かりました。でも少し妻に会う事は可能ですか?」


「はい。構いませんよ。苦しんでいる奥さんに励ましの言葉をかけてあげて下さい。

 ところでお父さんは出産に立ち会われますか?」


「はい!勿論です。」


「分かりました。」


・・・


「沙優!沙優!大丈夫か?」

旦那様は私の手を強く握った。

私は苦しくて苦しくて…でも旦那様の手はとても心強かった。


「だ、大丈夫…あなた…私…頑張るからね…」

「ああ!辛いだろうけど…頑張ってくれ!!」

「うん…っく・・・」


・・・


吉田視点:


俺は苦しむ沙優を少しでも楽にさせたくて

手を握ったり、水をくれたり、汗を拭いてくれたり…

ただまだまだ時間がかかるらしい…


本当に無力だな…

自分の無力さが嫌になる…


「沙優、急に来たから入院のための日用品が足りない。

 買ってくるから少し待っててくれ!」

「う…うん…早く帰ってきてね…」


余程不安なんだろう…なるべく早く戻ろうと俺は急いで売店に向かった。








 





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