第47話 初めての感情 その2

はぁはぁはぁ…逃げた…俺はいたたまれなくなって逃げてしまった。

気づけば俺は近くの公園のベンチに座っていた。


沙優が俺を裏切るなんて事はない!

そんな事は分かっている…

電話で誕生日プレゼントって言っていたから

きっと男性視点の意見が欲しくて

そのアドバイスか何かを貰っていただけなのだろう…


でも、俺の心の中では

『『 嫌だ!!! 』』と感じてしまった…


俺が居ない知らない所で沙優が他の男と会ってた事も…

嬉しそうな顔をしていた事も…

沙優が隠したそうだったことも…


何で涙が出たんだろう?…


この感情は…何だろう?…


・・・


沙優視点:


え?吉田さん…どうしよう?…サプライズが…

いやそれよりも他の男性と一緒にいる所を見られた…

誤解を招く…よね?…

何て言おう…どうしよう…頭真っ白…


え?吉田さん?泣いて…え?え?…

走って…え?え?え?…


「荻原さん!荻原さん!!」


「あっ…」


「多分彼何か誤解してるよ!急いで追いかけないと!」


「あ…はい。柏木さん。本日はありがとうございました。」


「そんなの良いから…早く!」


「はい。失礼します。」


・・・


何処?吉田さん…何処??

兎に角…会って誤解を解かなくちゃ…


はぁはぁはぁ…何処だろう?

公園…とか?…

見つけた!


「吉田さん!」


吉田さんがビクッと反応した。


「ごめん。ごめんなさい。私間違えた。

 本当に大事なのは吉田さんの気持ちなのに…

 特別なプレゼントを用意するのに、他の男性の意見を求めて内緒で会った事

 それにうしろめたさを少しだけ感じてしまって

 吉田さんの涙にびっくりしてしまって…」


「でも…どうしたの?

 吉田さんらしくない…

 何で…何も言わずに走っちゃったの?

 私…吉田さんの事しか考えてないよ?

 私が…信用できないの?」


「同棲以降初めて沙優のいない生活を半年間続けた…

 住居は仮寝するだけの場所でしかなく、俺の生活はあまりにも独りだった…

 夜無理ない程度のビデオ通話…

 それがなかったらきっと耐えられなかったと思う…


 沙優が俺を裏切るわけがない…そんな事分かっている…

 でも今の俺は余裕がなくて…

 本当はずっと会いたかったのに…触れたかったのに…

 それができない切なさや寂しさや不安が俺の余裕をなくし、自信を削ぎ取り…


 信じる云々というより単純に嫌だと思ってしまった…


 俺が居ない知らない所で沙優が他の男と会ってた事も…

 嬉しそうな顔をしていた事も…

 沙優が隠したそうだったことも…


 いたたまれなくなって…こんな風に逃げ出してしまった…

 年上なのに…何も言い訳すらさせずに…

 30のおっさんが何やってるんだよ…ガキかよ…情けねぇ…ごめんな…」


「ううん。ありがとう…信じてくれて…

 嫌な思いをさせてしまったのはごめんなさい。

 でも…少しだけ嬉しい…

 いつも余裕ある吉田さんが…初めて私に嫉妬してくれたんだね…

 不謹慎だけど…それが少しだけ嬉しい…」


「嫉妬?

 …そうか俺は嫉妬したのか…

 これが…嫉妬…か…」


「帰ろう…沙優…俺たちの家に…」


「…うん…」


・・・


吉田視点:


家に着くと沙優は後ろから俺を抱きしめた。


「吉田さん…

 何度でも言うよ。私は貴方しか見てないよ。

 貴方の事だけ考えているよ。」


「ああ…すまない…年甲斐もなく動揺してしまって…

 嫉妬って多分初めてで…

 自分の気持ちをコントロール出来なかった…」


・・・


「改めて…ただいま…沙優!」


「お帰りなさい!吉田さん♪」


「じゃあ、吉田さんの誕生会しよう♪

 急いで料理を出すね。

 ほとんどもう仕上げてあるんだ♪」


「ああ!ありがとう!」


テーブルの上には豪華な料理と一凛の向日葵が飾られていた。


向日葵?…向日葵の花言葉は…


「私はあなただけを見つめる」


そうか…

ほっとするのと同時に

沙優のひたむきな想い や 先程の自分のガキっぽい感情を思い出し

何だか恥ずかしくなってきた。


「もう過ぎちゃったけど…30歳の誕生日おめでとう♪

 これ…プレゼント…」


プレゼントを空けてみると

淡藍のシルクのネクタイと手編みの手袋・マフラーが入っていた。


「やっぱり、昇進するのだから良いネクタイが良いかなって…

 手袋とマフラーはもうすぐ使わなくなるけど、

 大阪行った時に寒そうだったから…少しずつ準備してたの…」


「…ありがとう…とても嬉しいよ。」


「さあ!食べて食べて♪」


「おう!」


久しぶりの沙優の手料理は…本当に美味しくて温かくて…

俺は嚙みしめがら味わった。


「明日は休み?」


「ああ。そうだよ。」


「明日はゆっくりしようね♪

 あと…私も…久しぶりに可愛がって欲しいな♡」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る