第46話 初めての感情 その1


それから俺たちはお互いに無理をしすぎない約束をして

週末と水曜日にビデオ通話することにした。


流石にそこからは仕事も軌道に乗り、

相変らずの終電帰りのものの予定通りスケジュールを消化していった。


もうこれ以上出張期間が延びる事はないだろう。


それを伝えた時の沙優の表情は本当に嬉しそうで

俺も胸に来るものがあった。


沙優の存在が大きくなりすぎていて

一緒にいれない寂しさや辛さ、不安、切なさが何度も込み上げてきたが

もうすぐ沙優に会える…その希望が俺の支えとなっていた。


そして遂に!!


『『 お疲れ様でした~!! 』』


プロジェクトは無事終わった。

後は引継ぎ作業の1週間のみ。

その日俺は意気揚々と沙優にビデオ通話した。


「沙優!やっと終わった!

 やっと帰れるよ!」


沙優は涙ぐみながら

「本当に…本当に…お疲れ様でした。

 1週間後に会えるかと思うと…本当に…ぐすん…」


遂に堪え切れなくなって泣いてしまっている。


久しぶりに他愛のない話を沢山した。

それがたまらなく心地よかった。


・・・


「あっ、吉田さん30歳になっちゃったね…

 傍でお祝いしたかったなぁ~」


そう俺は出張中に30代に突入してしまった。

いよいよもって本格的なおっさんに突入である…


「帰ってきたらお祝いしようね♪」


「いやもう過ぎてしまったし…」


「こういうのは直接お祝いするのが大事なの!

 プレゼントどうしようかなぁ~~~♪」


「いや特には…その…沙優が傍にいてくれるのが…

 最高のプレゼント…ごにょごにょ」


俺も沙優も顔が真っ赤になっていた。


「ありがとぅ…でも…やっぱり私があげたいの♡」


・・・


男性の30歳ってやっぱり特別なのかなぁ…

同じ職場には30代の男性社員柏木さんがいたので直接聞いてみた。


「やっぱり男性って30歳になると気分が変わるものですか?」


「う~ん…人にもよると思うけど…やっぱり、多少は意識しちゃうよね。

 20代とはやっぱり体力的にも心情的にも変わる感じは僕はしたし…

 服とかももうちょっと大人し目の色にしようかなとかも考えたな…」


「そっか~…プレゼントどうしようかな?」


「荻原さん同棲している婚約者がいるんだっけ?

 30歳なんだ!」


「はい。出張中で暫く会えてないんですけど、もう誕生日は過ぎていて…

 でも30歳って節目だし、しっかりお祝いしてあげたいなって…

 でも何をプレゼントすれば良いのか分からなくて…」


「凄いラブラブだね~

 荻原さんのような美人に愛されているその婚約者さんが羨ましいよ。」

(実際兄である荻原社長の無言のプレッシャーがなければ

 男性社員からアタックされまくりなんだろうな…)


「あはは…(苦笑)」


「プレゼントは…30代で喜ばれる定番のプレゼントで良いんじゃないの?」


「色々調べたんですが…何か違うなって思ってまして…

 きっと彼は私が何をプレゼントしても喜んでくれる。

 でも…例えそうだとしても…私は30歳という節目の記念に

 私の気持ちが届く何かを選びたいんです。」


「愛してるんだね(笑)。ん~~~…その彼はいつ帰ってくるの?」


「今週末土曜日の21:00くらいって言ってました。」


「じゃあ、健気な荻原さんのために買い物付き合おうか?

 男性目線でどういうのが良いのかを実際に物を見ながらアドバイスするよ。

 丁度僕も18:00くらいに仙台駅の繁華街に用があるから

 それまでなら大丈夫だよ?」


「本当ですか?是非お願いしたいです。

 では仙台駅に17:00に待ち合わせでお願いします。」


「分かりました。良いプレゼント見つかると良いね。」


「はい!」 


・・・


吉田視点:


予定よりも引き継ぎ作業が早く終わった。

今日は21:00くらいに仙台到着の予定だったが、

予定を早めて17:30に着く電車に乗ることにした。


連絡を入れるべきだったが、俺の悪戯心に火が付いた。

いつもいつも沙優にはビックリさせられるから偶にはこちらがビックリさせてやる。


お互いにこんなに待ち遠しい事はなかった。

お互いの存在が想像以上に大きくなりすぎて

傍にいられない寂しさや辛さ、苦しさ、切なさを十二分に感じた半年だった。

約半年ぶりの再開…

想いを胸に俺は仙台駅に到着した。


さあ帰ろう…沙優の元に…

俺は急いで歩いた。


「…ありがとうございました。」


懐かしい声を聴き、ふと雑貨屋に目を向けた。


俺は目を疑った。

沙優が嬉しそうな顔で知らない男と話していた。


「え?沙…優…?」


沙優は俺に気づき

「え?よ、吉田さん!?

 あ…これ…は…」


沙優は俺を見て何かを焦って隠しているように見えた…


それを感じて…俺は目から涙が溢れていた。

そしてその場を逃げ出すように走り出した…


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