第39話  結婚の挨拶 吉田編

「さて…やっと長期の休みがお互いに取れたな。

 この一週間でお互いの家の挨拶と…最後の夏の思い出を作ろう!」


「うん♡」


・・・


「一颯さん、ご無沙汰しております。

 実は…沙優さんと結婚させて頂きたいと思いまして

 一度ご実家でお義母さん含めてご挨拶に伺いたいと考えております。」


「そうですか。

 それはめでたいです。

 私としても嬉しく思います。

 母共々お待ちしております。」


・・・


俺と沙優は、沙優の家族の報告と親友の結子さんへの報告のために旭川へ向かった。


空港で兄さんが私達を迎えてくれた。

「お待ちしてました。吉田さん。」

「お帰り。沙優。」


「ただいま、兄さん。

 兄さん…一番最初に行って欲しい所があるの…」


・・・


「結子…この人が私の結婚する相手なの…

 『『 沙優ちゃんが笑ってくれなくなったのが一番辛かった 』』

 貴方が居なくなって、私は貴方の願いが叶えられなくなった。

 ずっとずっと暗闇にいて…苦しくて、辛くて…

 でもこの人に出会ってから少しずつ私は変わって…

 私は…笑えるようになったの。

 私は…この人といるとずっと笑っていられるの。

 結子の望みを唯一叶えられる人なの。

 どうか…天国で見守っていてください。」


「結子さん…沙優の旦那になる男です。

 これからも沙優を見守っていて下さい…」


「ありがとう…吉田さん…結子に結婚の報告を一番にしたかったの…」


「ああ。きっと喜んでくれると思うよ?」


「…うん…」


沙優の顔はスッキリしている。

この報告は一つの節目だったのだろう。

来て良かったと思えた。


・・・


「ただいま。母さん」

「ただ今帰りました。お母さん。」

「ご無沙汰しております。」


「ようこそいらっしゃいました。中へお入りください。」


・・・


「もっと前から報告できれば良かったのですが、

 実は…半年前から沙優さんとは交際があり、

 3か月前から結婚を前提に同棲をさせて頂いておりました。

 でお互いの気持ちを確認し合い、近々結婚をしたいと考えております。

 どうかお許しを頂けないでしょうか?」


「私からもお願いします。お母さん…」


「そう…もうお互いに大人なわけだし、二人が結婚したいのならば

 特に反対はしません。

 …あの…娘を…宜しくお願いします。」


『『 え!? 』』

頭を下げられるとまでは思っていなかったので3人とも顔を見合わせて驚いた。


「あ、ありがとうございます。

 必ず沙優さんを幸せにします。」


「沙優…良かったわね…」


「…お、お母さん…うぐっ…ありがとうございます。」

初めてかけられた祝福の言葉…ずっと求めていた言葉…

沙優は涙が止まらなくなった。


・・・


その日夜も遅くなったので

あの時と同じように吉田も客間で泊めてもらえる事になった。


まさか…頭を下げられるとは…あのお義母さんも…変わったんだな…

ふとそんな事を考えていた。


ガサッゴソッ…


「どうしたんだ?沙優」


「やっぱバレたか…(笑)」


「お母さんがあんな事言ってくれるなんて想像もしてなかったから…

 何だが眠れなくて…」


「俺も今それを考えていた。

 まだ蟠りはあるんだろうけど…本当に変わってくれたんだな…

 良かったな、沙優。」


「うん♡

 結子にも報告できたし…本当来て良かった。」


・・・


「ふふっ…こうやってこの客室の布団に潜り込むのほぼ3年ぶりだね♪」


「そうだな…懐かしいな…正直…あの時は切なかった…」


「吉田さん…こっち向いて?

 …吉田さんもあの時…寂しいって感じてくれていたの?…」

沙優は切ない顔で言った。


「…今だから言うが…切なくて…寂しかったよ…」


「ねえ…あの時と違って…もう私…婚約者だよ?…」


沙優は顔が火照っている感じで

「…同じ状況だからか…私…身体がキュンキュンするの…

 切ない…切ないの…」


俺もドキドキしたが…沙優が少し震えているのに気づき、

沙優を優しく抱きしめた。


「…切ないのは本当だろうが…どうせ沙優の事だ…

 少し不安も感じているんだろう?

 良いんだよ…沙優は幸せになって良いんだ!

 俺が…必ず幸せにするから…」


「…うん…ありがとう…

 吉田さんは本当に厄介な私の性格が…良く分かってるよね…

 今日はずっと抱きしめていて貰いたい…」


ふぅ…お前色っぽいから…本当はしんどいだけどな…(苦笑)


俺は3年前と同じく、何とか理性を保ちつつ、

沙優の震えや火照りが収まるまで

一晩中沙優を優しく抱きしめた。









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