第40話 結婚の挨拶 沙優編
「うぅ~~~…緊張するぅ~~~」
私は今までにない緊張状態にいた。
「ただの顔合わせだし、別にそんな緊張する必要ないよ。
親父は堅物だけど、基本口数少ないし。
おふくろは結構大雑把だし。」
私と吉田さんは、吉田さんの実家に向かっていた。
「ただいま!」
「お帰り~!
あんた、こっちから連絡しないと何も連絡寄こさないんだから!」
「お、お邪魔します…」
「あら~、あなたが沙優さん?
すっごく美人で可愛らしい人なのね~
さあ、狭い所ですがどうぞお上がり下さい。」
「そ、そんな…とんでもないです。
ありがとうございます。」
・・・
「えっと…こちら荻原沙優さん、
その半年前から結婚を前提にお付き合いをしていて、
3か月前から同棲しているんだ。
お互いの気持ちを確かめ合ったので
電話でも報告したように、近々結婚しようと思ってるんだ。」
「あら~、そうなのね。
二人で決めた事なら何も言わないわ。
ねっ、お父さん。」
吉田さんのお母さんは歓迎してくれているように見える。
「ああ…。
愚息ですが…宜しくお願い致します。」
吉田さんのお父さんも私に頭を下げてきた。
「と、とんでもないです。
私の方こそ至らない所が沢山あると思いますが、
宜しくお願い致します。」
私は緊張しつつも、ようやく安堵した。
「狭い所ですが今日は泊まっていってね。
夕飯はお祝いね。」
「あっ…よ、良ければ…私にもお手伝いさせて下さい。」
「あら、悪いわ。
お客さんなのに…」
「こう見えて、料理は得意なんです。
それに…一日でも早く家族になりたいんです。」
私は、しっかりとした意思をお義母さんに向けた。
「そう?じゃあ一緒に作ってくれる?
娘と一緒にご飯作るの憧れだったのよね~」
「は、はい♪」
・・・
『『 頂きます 』』
「あら…この魚の煮つけ本当に美味しいわ。
沙優ちゃん本当に料理上手なのね~」
「と、とんでもないです。」
「沙優ちゃんは随分若そうに見えるけど、おいくつなの?」
「えっと…20歳です。」
「え?何処で知り合ったの?」
私も吉田さんも想定していた質問だったとはいえ少し焦ってしまった。
「いや…その…異業種交流会で知り合って…
それで俺の方から交際を申し込んだんだ。」
「ふ~ん…まあこんな可愛らしい人が居たら…声掛けたくなるわよね~
そう思うでしょ?お父さんも。」
吉田さんのお父さんはじっとこちらを見て
「…そうだな」
とだけ答えた。
・・・
片付けが終わり、吉田さんの部屋に来た。
「ふぅ~緊張した。
でもお義父さんもお義母さんも良い人だね♪
へぇ~~~これが吉田さんの部屋か~~~♪
吉田さんの部屋って感じだね(笑)」
「俺の部屋って感じでどんな感じだよ。」
「何か適度に散らかってる感じ♪」
「あっ…高校の時の吉田さん?高校球児だったんだね~
丸坊主で、可愛い♪」
「ん?…この写真は…神田さん?」
「あ…こんな所に…」
吉田さんはしんみりとした顔をした。
「高校時代の神田さん…本当に美人だね…
高校生としては図抜けた存在だね…
きっとモテたんでしょう?」
「…ああ…男子生徒の憧れの的だった…」
「吉田さんの方から告白したの?」
「ああ…当時はそれで付き合う事になって俺も随分浮かれていた。
俺は初めてだったし…」
私は心が少しモヤモヤした。
「ただ付き合ってみると…色々と難しく…
よく『『 吉田は重いな~ 』』って、切ない表情をされた。
その度に…何かを間違えたんだって心が痛くなった…」
ああ…この人の事だから…すっごく悩んだんだろうな…
本当に…好きだったんだなって…
そう思うと…激しい嫉妬が心を飲み込んだ。
「交際は、先輩の卒業と共に自然消滅して終わったんだ…
先輩からの連絡は途絶え俺のメールに返信することもなくなった。
様々なものに縛られていた高校3年生の俺には…
先輩を探し出して追いかける事も出来ずに失恋した。
自分と相手の恋愛観があまりにもズレすぎていて、
その事実に彼女が居なくなるまで気がついていなかったんだ。
俺の初めての恋愛はほろ苦い思い出で終わったよ…」
吉田さんは…とても辛い顔をしていた。
きっとまだ…想う所があるのだろう…
その傷を…癒してあげたいな…
嫉妬心はいつの間にか消えて、私は母性本能が擽られた。
私は吉田さんの頭を胸に強く押し付けて抱きしめ、
背中をポンポンと赤ちゃんをあやすように優しく叩いた。
「当時は…辛かったんだね…」
「…そう…だな…」
「気持ちいい?」
「ああ…柔らかい…」
「頭ぐりぐりするともっと気持ち良いかもよ?」
吉田さんは甘えたいのか私の胸の中で頭をぐりぐりさせてきた。
「吉田さんのエッチ~♡」
「沙優が言ったんじゃないか…」
「ふふっ♡」
「もし私が同じ学校にいたら…傷ついた吉田さんをすぐに慰めに行ったのになぁ…」
「…沙優…」
「なぁに?吉田さん…」
「もう少しだけ…強く抱きしめて貰っても…良いか?」
「…うん…」
めったにない吉田さんの甘え…
私は彼の心の寂しさが消えるまでその日は強く抱きしめてあげた…
・・・
朝起きるとどうやら沙優が一人で朝食を用意していたらしい。
「沙優ちゃんは本当に料理が上手いんだね~
若いのに…尊敬するわ~
私は目玉焼き固くしかできないからね~
半熟って凄いわ~
これなら何の問題もないね~」
「そ、そんな…」
「ああ、いつも助かってるんだ。」
・・・
「じゃあそろそろ行くわ。
結婚式の日取り決まったら知らせる。
身内だけの小さい結婚式だけど。」
「そうかい。楽しみに待ってるよ。
…お前が何を隠しているかは聞かないけど…大事にするんだよ?」
「え?何の事だ?」
「馴れ初めの話も嘘なんだろ?
おまえは嘘つく時にすぐに目を泳がせるからね…
お父さんにもバレているよ?
でも…沙優ちゃんは良い子じゃないか。
お前をとても愛してる事が一目でわかる。
若いのに料理も上手いし、しっかりしてるし、お父さんもお母さんは安心したよ。
大事にしてやるんだよ?」
「ああ。勿論だ!ありがとう。」
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