第21話 悪意

ある日、沙優は不意にゾクッとする感覚を覚えた。

振り向くと去年のクラスメート悠月がいた。

悠月は沙優の親友であった結子をいじめていた実質のリーダーである。


「留年して・・・惨めね!どの面下げて、学校に戻ったわけ?」

沙優が戻ったことを聞きつけ、わざわざ下の学年の教室に降りてきて、悠月は冷たく言い放った。

「あんたなんか誰も戻って欲しくなかったんだよ!」


沙優は、何も言わず立ち去ろうとした。


「何無視してるんだよ!勝手に去ろうとすんじゃねーよ!この人殺し!」


「あんたが結子を!!!」

沙優は目をぎらつかせて睨んだ。


「何こいつ・・・頭おかしいんじゃないの?」

「噂じゃ・・・援交もしてたって・・・」

「薬もやってたって・・・」

悠月の取り巻きが悪意ある言葉をこそこそと言ってくる。

何やら不穏な空気を察したクラスメイトが注目している。


バン!!!

「いい加減にしろよ!!違う学年の教室に入って何勝手なことを言ってるんだ!!」

学級委員の後藤が怒鳴った。


「この学級は僕がまとめている学級だ!

 いくら先輩と言えども勝手なことを言って風紀を乱さないでくれ!」


「はあ?私は何も知らない後輩にこいつの怖さを善意で教えてあげてるんだよ!」


「うるさい!!そんな事誰が頼んだ!!何が善意だ!!

 寄ってたかって何の根拠もない噂を基にした悪口ばかり!!

 それの何処が善意だ!!

 悪意の塊じゃないか!!

 去年何があったかは知らないが、今ここにいる荻原が全てだ!!

 少し冷たい感じするけど、実は優しくて、

 ちょっとお茶目な一面もあるのが僕の知っている荻原だ!!」


「そ、そうだ・・・勝手なこと言うな。荻原は優しい!」


「私もお弁当のおかず交換してもらったもん!」


「私も掃除当番で手伝ってもったし!」


え?皆が…私を…庇って?…

独りで戦わなきゃいけないと思い込んでいた沙優はクラスメートの反応にびっくりした。


「援交?むしろあんたらやってるんじゃないの?」


「出でけよ!部外者は教室から出てけよ!

 俺らは噂なんかじゃなく、クラスメートを信じるよ!!」


「無責任な噂なんて信じるものか!!」


「お前らに荻原の何が分かるってんだ!」


「私聞いた事ある…自分が好きな男子が荻原さんに告白したって…」


「沙優ちゃんの可愛さに嫉妬してるんじゃないの?」


「何だよ…八つ当たりかよ…だっせぇ!!」


「おいおい…身の程を知れよ!荻原はアイドル並みの可愛さなんだぜ!

 あんたなんか相手になるかよ!!」


「そんなんだから本命に相手にされねーんだよ!!」


「な、何ですって!!」

悠月は図星を突かれて顔を真っ赤にして教室を去っていった。


「沙優ちゃん、大丈夫?」

「荻原…あんなの気にするなよ!」

「そうだよ。沙優ちゃんの可愛さを妬んでるだけなんだよ。」

沙優が勇気をだして積み重ねていた行動により、

沙優はすっかりクラスメートの信頼を勝ち取っていた。


沙優は涙ぐんで

「皆…ありがとう…」


それ以来・・・悠月や悠月の取り巻きが沙優に絡んでくることはなくなった。

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