第19話 学校初日

「私は担任の立花愛だ。宜しく。」

君の事は学校から聞いている。


「社会人1年目の私がいきなり担任を持っているのは、

 正直君の担任をやりたがる先生が居なかったからだ。」

立花先生はオブラートに包むことなくはっきりと言った。


「学校内で色々な噂があるそうだ。

 良くも悪くも君は注目されているし、奇怪な目で見られるだろう。

 ただ少なくとも私は自分で見て感じた事しか信じない!

 だから私は君を色眼鏡で見たりしない。

 君も遠慮なく相談事があるならば相談して欲しい。

 これからよろしく頼む。」


良くも悪くも正直な先生だなと思った。

ただ、陰でコソコソ思われるよりはよっぽどマシ。

私は運が良かったのかもしれない。


・・・


自己紹介の時が来た。

趣味は何にしよう?

そうだ!吉田さんに褒められた事にしよう。

「荻原沙優です。趣味は…創作料理です。宜しくお願いします。」

無難に答えたけど…色々な視線が突き刺さる…

まあ噂もあるし…初日だしね…


・・・


「荻原沙優さん…だよね?」

「はい…」

「私副学級委員の鈴木美穂って言います。こっちは親友の細川さくら。

 良かったら私達と一緒にお弁当食べない?」

「え…私なんかと一緒に?」

「噂があるのは聞いてるけど…そんなの自分で確認しなくちゃ分からないし。

 私、貴方の事が知りたいの。」

「うん。私なんかと一緒で良ければ」


「君が荻原君か!

 僕は学級委員の後藤だ!今日から一緒に頑張ろう!よろしく!」

少し熱血漢で暑苦しい男の子だ。

沙優は少し圧倒されつつも

「は、はい。宜しくお願いします。」


大体の人が様子見って感じなんだけど

初日から意外と声をかけてくれる人が多い…

意外…


・・・


お昼時

「あ、この卵焼き美味しそうだね♪」

「私のウインナーと交換しない?」

…よく結子とこうやってお弁当のおかずを交換してたな…

「荻原さん?…どうしたの?」

「あ…うん。ごめん。ちょっと昔を思い出しちゃって…勿論良いよ。」

「ありがと。あ、凄く美味しい!」

「え?この卵焼き、沙優ちゃんが作ったの?凄~い!

 では一口…本当美味しいわ!

 ちょっとしたレストランの料理よりも美味しんじゃない?

 創作料理が趣味ってだけはあるわね!

 何かコツがあるの?」

他愛無い会話がお昼の時間を楽しくする…

これが…普通の高校生活なんだ…沙優はこの雰囲気を楽しんだ。


・・・


放課後

私はウエイトレスのアルバイト

「沙優ちゃん、こっちAテーブルにお願い」

「はい。マスター」

・・・

「お待たせしました。ご注文のホットケーキでございます。」

「ありがとう。あの~・・・沙優ちゃん、写真1枚取っても良いかな?」

「はい。大丈夫ですよ。」

「ありがとう。いや~沙優ちゃん可愛いから毎日来ちゃうんだよね~」

「…ありがとうございます。」

・・・

「いや~、助かる!沙優ちゃんは神様からの贈り物だね~」

「そんな事ないですよ。マスターこそ私を雇ってくださってありがとうございます。」

「う~~~ん…これは給料アップも考えないといけないね~」

「本当ですか?宜しくお願いします。」


実はこの喫茶店、人があまり来なくて経営状態が良くなかったのだが、

最近、沙優の可愛らしいウエイトレス姿を目的に男性客が増えていて

マスターもホクホク顔だったのである。


・・・


あ~・・・疲れたな。

でも、思っていたよりも無難な初日だったな…

トルルルル~

「もしもし~、沙優チャソ?初日どうだった?」

「うん。思っていたよりも無難な一日で…クラスの何人かにも声かけられて…お昼も食べて…」


ライン通話の相手はあさみだった。

北海道に戻ってから定期的にあさみとは連絡を取っていた。


「良かったじゃん!明日も頑張れ!」

「あさみ…吉田さん…どうしているか分かる?」

「もち分かるよ~♪実は小説感想会と称して吉田っちの家に度々行ってるんよ。」

「え?そうなの?…あさみ…吉田さん…取らないでね…」

「取るわけないじゃ~ん(爆笑)」

「沙優チャソ居なくなってから暫く吉田っち元気なかったみたいだよ?

 休んでいたからって言うのもあるみたいだけど、

 どうも残業しまくって仕事で寂しさを埋めている感じみたいよ?」

「そうなんだ…私も寂しい…体無理しないで欲しいな…」

「そんなに寂しいなら電話すれば良いじゃん!」

「でも…大人になったら会うって約束なのに…電話したら約束を破ってしまう感じがして…だから我慢するの…」

「ふ~…律儀だね~」


・・・


「うん。長電話ごめんね。あさみと喋ると心が楽になる…ありがとね。

 あさみも頑張ってね。」


吉田さんも元気そうで安心した…

私も上手くやれるかな…明日も頑張ろう…沙優はぐっすりと眠れた。

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