第17話 新たな旅立ちに向けて・・・ 吉田回想 その2

「バイトさせて下さい!」

改まって何かと思ったら沙優がバイトの許可を頼んできた。

最近沙優は何の曇りもなく真っ直ぐ俺を見るようになった。

頼み事もするようになった。

何だか嬉しい…少しは俺の事も信頼してくれたのかな…

そうか…それが素の沙優なのか…可愛いな…

同年代の良い友達が出来れば良いな…


げ!同年代の友達が出来たのは良かったが、いきなり遊びに?

沙優との関係性がバレない様にしないと…

思いっきりギャルだった…大丈夫かな?…

こいつ勘が良いな…俺を疑うような目…沙優のために?

…案外良い奴な気がする…

「沙優チャソ、笑顔の使い分けが上手いから、気を付けて」

良い奴だな…沙優と仲良くしてやって欲しいな…

笑顔の使い分け…か…気を付けないと…


再び後藤さんと会ったが…沙優との事を気づかれてしまった…

会ってみたい?沙優と?…大丈夫だろうか?

沙優から買い物を頼まれた…二人きりで話したいって事か…

買い物に行くと三島と遭遇した。遭遇率高いな…

「先輩後藤さん家にいるんでしょ?」

何でそんな事知ってるんだ?

「沙優ちゃん家にいるんですか?」

「お人よしも大概にして…優先順位を考えないと大事なものなくなっちゃいますよ?」

大事なもの?…

確かに普通に考えたら、憧れの後藤さんに沙優を合わせるのは普通じゃない…

でもあいつはあそこしか家がないんだ。出て行かせる選択肢なんてないさ…

…そうなのか?そんな理由で俺は沙優に出ていけと言わなかったのか?

俺にとっての優先順位は…後藤さんなのか?

俺の心の中で沙優の占める割合が…大きくなっている気がする…

沙優が居なくなる…いつかはそんな日が来るはずだが…

だんだん考えられなくなってきた…そんな日が来たら…俺は耐えられるのだろうか?


沙優から連絡が…バイトの男友達?心配しないで?

沙優がおかしい?

…嫌な予感がする…まさか…

「沙優!沙優!!こいつはお前の彼氏なのか?じゃあ追い出すぞ?」


・・・


「あんた彼女を救ってやっているつもりでいい気になっているみたいだが

 やっていることは俺らと変わらない。犯罪者だよ!」


五月蠅い!五月蠅い!傷ついた女の子を更に傷つけた上に捨てやがって!!

俺はこれ以上あいつにおかしな価値観を持たせたくねーんだよ!

「二度と沙優に近づくな!!」


沙優が泣いている…未然に防げたが、嫌な記憶を思い出させてしまった…

「以前は全然抵抗なかったのに…私怖くなっちゃった…」

「良いんだ!それで良いんだ!よく耐えたな!偉いぞ!それが普通の感覚だ!」

「頼むから自分を責めないでくれ!そんなんじゃ…お前を救えないだろう!!」

沙優が泣く姿に死ぬほど切なくなった…

どれだけ怖い思いをしただろう…

絶対に思い出したくない過去を強制的に思い出してしまい…どんなに辛かっただろう…

ごめんな…沙優…泣かないでくれ…お前が泣くと…俺もどうしようもなく切なくなる…

「俺にももうお前と暮らす事が、お前の為なのか、俺自身のためなのか…分からねぇよ!」

「でも俺は、お前に自分自身をもっと大切に思って欲しいと本気で思ってるんだ!」

もっと沙優をよく見てやらなくちゃ…


・・・


「吉田さんとなら夏祭り行きたいな…」

最近本当によく自分の意思を俺に伝えるようになってきた…嬉しい…

それが普通の高校生だよ…


夏祭りでは沙優の艶やかな浴衣姿にドキドキした。

嘘だろ?何でこんなに色っぽいんだ?こいつ本当に高校生か?

まともに見れない…

…あれ?俺…沙優に惚れてないよな?…


危ない…転んじゃう!あ、思わず…手を繋いでしまった…柔らかい手…心臓が煩い…何となく手を放したくない…

ガキか?俺は…

花火を見る沙優の顔にドキドキする…


沙優がいなかったら…こんな花火大会気づかなかったな…

花火大会だけじゃない…毎日の美味しいご飯…他愛無い会話…

朝起きた時に沙優がいる安心感…

沙優がいてくれるから…毎日充実している…楽しいと思っている…幸せを感じている…

もし沙優が居なくなったら…


え?手の感触がない!沙優がいない!?何処だ?何処だ?

「沙優!沙優~!」

どうしようもない不安感が俺を激しく襲った…


・・・


「どうしたの?吉田さん?さっきゴミ捨てに行くって言ったよね?」

「吉田さん…私が居なくなったと思ったの?

 私が居なくなると…そんなに焦っちゃうんだ?」

沙優が揶揄う様に言った…


俺は否定できなかった…不安だった…寂しかった…子供かよ!

思わず口にしてしまった…

「なあ…お前…本当に…帰っちゃうのか?…」


・・・


「何であんなこと言ったの?吉田さんは…私に帰って欲しくないの?」

沙優が潤んだ瞳で…切なそうに苦しそうに聞いてくる…

俺も切ない…苦しい…寂しい…本当は沙優と…離れたくない!

でも…「やっぱ…帰るべきだ…」

それがあるべき姿だ…でも…苦しい…本当は…離れたくない…

よく言えた…俺…


・・・


遂に沙優の肉親が…

もう俺が口を出せる立場にない…

1週間か…俺も…覚悟を決めなくちゃ…

お兄さん…良い人だな…沙優の事を本当に心配してくれている…

心配してくれる肉親もいて良かった…

「どうして沙優を保護してくれたのですか?」

…どうして?…可愛かった…から?…自然にそんな単純な答えが出てきた…

そうか…俺は…


・・・


「この最悪な逃避行の最後で吉田さんに出会えたよ!

 吉田さんに出会えたというただそれだけを…私は持って帰るよ。

 だから…応援してよ!」

泣きながら強い目で…沙優は訴えてきた…

勿論だよ…決まってるだろう?…応援するよ…

でも…切ない…切ないな…


・・・


最後の夜…沙優が後ろから抱きついてきた…

柔らかい…暖かい…良い匂い…でも…少し震えてる?…

「じゃあ最高の宿から最後のアフターサービスだ。

 俺も北海道についてって、お前のかーちゃんに会ってやるよ」

「本当?」

勿論だ…俺も色々と理由をつけるのを辞めた…今はお前が一番大事だ…

最後まで全力でお前を守ってやる…

なんてかっこつけているが…俺がまだ…離れたくないのかも…


・・・


「私が間違っていたんだ…一緒に戦う事が正しいことだと…

 結子を追い詰めたのは…私なんだ…

 私の事を想っていてくれたのならば…私と一緒に…生きて欲しかった!」

沙優の泣く姿は胸が張り裂けそうに痛くなった…

こんな苦悩…高校生が背負うものじゃない…もう…自分を責めないでくれ…

「お互いに想いあった結果なんだ

 取り返しのつかない結果になったが、仕方がなかった。

 もう終わったことなんだ。

 沙優が自分のことを許してやらなきゃ、一生ここから動けないんだよ」

苦しんでいる沙優を少しでも楽にさせたくて…懸命に叫んだ…


・・・


「あんたなんか産まなきゃよかった」

沙優…どんなに切なかったか…涙がでた…これまで沙優がどんなに苦しかったのか思うと…

あの小さい体にどれほどの悲しみを溜め込んだかと思うと…俺の方が苦しくなった…

俺は土下座したり…一緒に泣いてやるしかできないけど…どうか…どうか…


・・・


高校卒業まで実家にいることを認めて貰えた…

良かった…

ん?沙優?…

「後ろ見ないで…えい!」

沙優の大きな膨らみが…柔らかい…

ドキドキドキ…心臓の鼓動が煩い…

「最後だからさ…あの…さ…その…一回くらいエッチしとく?

 …その…お互いに忘れないように…思い出を刻むというか…」

沙優の顔が艶やかで…色っぽくて…俺は…頭がぼ~っとなり…一線を越えそうになる…

俺は…沙優に惚れている?…でも…

「家族でもないのに半年もいたんだ…そんなことしなくても…多分一生忘れない!」

感情に任せたら…いけない…これで良いんだ…

沙優にはきっと輝かしい未来がある…おっさんの感情なんて呑み込め!

「でも…せっかくだからさ…おっぱいくらい揉んどく?」

いたずらっぽい笑顔で聞いてきた。

…くそっ…可愛いな…揉めるものなら揉みたいわ…


・・・


「私…吉田さんが好き!本気だよ!」

「お前は可愛い。でもそういう目で見る事はできない!」

…嘘だ…俺はお前に惚れている…でも沙優には沙優の人生がある…

これから高校生活の中で同年代で恋する事も…あるかもしれない…

おじさんである俺が…その足枷になってはいけない…


「じゃあさ、ガキじゃなかったらワンチャンある?」

「良い大人になったら…ワンチャンあるかもな」

「じゃあ待ってて!」

「待たねーよ。お前を待ってたら俺はおっさん通り越してじじいになっちまう」


切ない!…耐えろ…耐えろ…抱きしめたくなる衝動を抑えつけろ!

言うんだ!辛くても…沙優に幸せになって欲しいんだろう?


「俺との出会いは思い出としてしまっておいてくれよ。」

「そんなの無理だよ。こんな大きな思い出…しまえるわけがないよ!!

 吉田さんが待たなくても…絶対に会いに行く!!」


涙を流しながらも…強い決意に満ちた目…

…そうか…俺は…また独りよがりの判断をしていた…

俺では沙優を幸せにはできない…勝手に同級生の方が沙優を幸せにできるはずと決めつけていた…

「…わかった…」


・・・


家で味噌汁作った時

沙優がいない虚しさが…どれだけ悲しかったか…

どれだけ自分が沙優に依存していたか思い知らされた。

北海道に一緒に行ったのは沙優が心配だったからだけじゃない。

俺が1秒でも長く…沙優と一緒にいたかったんだ…


待っているとは約束しなかった…

沙優が新しい道を進みたいと思えた時に、その言葉で沙優を束縛したくはなかったから…

俺は沙優が大人になるまで…勝手に待っていよう…

そう思った…


俺はいつからこんなに沙優の事好きになったんだろう?…

…そうだ…俺は…初めて会った時に…

自分でも自覚がなかったけど…きっと沙優に一目惚れしてたんだ。


そして沙優の甘ったれな根性を叩きなおすと言いながら…

保護者の役割というだけでなく…

実はずっと俺自身を男として見てもらえるように…

きっと無意識に少しずつ口説いてたんだ…


一颯はじっと吉田を見つめて

「すっきりした顔をしてますね。考えがまとまりましたか?」

そして笑って

「沙優を宜しくお願いします。」

吉田は

「はい!」

とすぐに立ち上がり、立ち去ろうとした。

一颯はきょとんとして

「沙優に早く会いたいんです!」

と言った吉田に対して

「ふ…2年前空港で貴方に沙優に惚れてますねと言ったが…間違いだった…

 貴方は沙優に…べた惚れなんですね(笑)」 

一颯は心の中で呟いた。


・・・


二人は希望を胸に新天地で新生活を始める…

が、物語は一旦時計の針を逆回りして…2年前に遡る…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る