第16話 新たな旅立ちに向けて・・・ 吉田回想 その1

吉田は緊張しつつも晴れやかな表情で一颯(沙優のお兄さん)に会いに行った。

「一颯さん、お久しぶりです。実は報告があり伺わせて頂きました。

 沙優さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂くことになりました。

 宜しくお願い致します!」


「そうですか。それは私としても嬉しい事です。

 沙優を任せられるのは貴方しかいないって思ってましたから。」

一颯はにっこりと笑った。


「それから改めて、先日は沙優が危ない所を救ってくださったそうで…

 吉田さんには何とお礼を申し上げたらよいか…本当にありがとうございました。」


「え?沙優から聞いたのですか?そうですか…

 お礼なんて辞めてください。

 俺は…沙優の恋人なんです。命かけて守るのは当然です。

 ただ逃げて行ったのでまた遭遇しないかが心配です。

 沙優もショックを受けるでしょうし…」


「その点なら心配ありません。

 その男は二度と吉田さんと沙優の前に現れる事はないでしょう…」


「え?な、何でそんな事が分かるんですか?」


一颯は冷たい表情で

「吉田さんは知らなくても良いことだと思いますよ。」

・・・吉田は深く考えるのを辞めて頭を下げた。


「それから…沙優の仙台支社転勤の手続きは終わりました。」

「ありがとうございます。」


・・・


「しかし…貴方と沙優が出会えたのは…本当に運命としか言えないですね…

 吉田さんはいつから沙優の事が好きだったのですか?」


俺は・・・(吉田回想)


5年間想っていた後藤さんに勇気を出して告白したけど…振られてしまった。

はぁ…後藤さん…一度で良いから後藤さんのおっぱい…触りたかったな…

ヤケ酒ですっかり酔っていた俺は…電柱に疲れている?であろう女子高生と会った…


「おじさん!やらせてあげるから泊めてよ♪」


…最近の女子高生は皆こうなのか?

いや…そんなわけがない…こいつがおかしいんだ…


顔を見て…どこか陰がありそうで…無理やり笑顔を作って…でも儚そうで…可愛い…


酔っていて正常な判断も出来てない俺は自分でもよく分からないが

一晩くらいならと泊めても良いかと思った。


翌日酔いが冷めて色々と話を聞いてみると…感情がぐちゃぐちゃになった。


家に帰りたくないから身体を代償に男に宿を提供してもらう?


大変だろうが、好きでもない男に身体を差し出すよりはマシな健全な生き方もあったはずだ…


いや…もうそういう考えが浮かばない位、価値観が歪んでしまっている。


どうしてこいつはこんなに可愛いのに…まっとうに青春して…まっとうに恋して…

普通の高校生が送るような生活が出来なかったのだろう?

どうしてこんな歪んだ価値観になってしまったのだろう?


数分話して分かったが本質的にこいつは甘ったれだ。


でもそれ以外にもここまで価値観を歪めてしまった大人の存在と環境が確実にある…


ああ…もう…何でそんな切ない顔するんだよ…全てを諦めているような…

これが高校生のする顔か?こんな顔されちゃ…ほっとけない。

安心できる環境があれば…こいつを救ってやれるかもしれない。

いきなり価値観を変えることはできないが…少しずつ普通の価値観に戻すことはできるかもしれない…


「働け。ここに住めばいい。」

「お金がない!住む場所もない!じゃあ身体を使おう!

 とかいう馬鹿極まりないお前の思考を叩きなおしてやる」

色々な感情がぐちゃぐちゃになって無償に腹が立った。


こんなふざけた価値観を植え付けた大人に対しての怒り…

自分は大人だが決してそんな大人ばかりではないという事を示したい自己正義感…

同じ大人としてそんな事をさせた悲しみと申し訳なさ…

それに慣れてしまった沙優の弱さと慣れさせてしまった切なさ…


「お前の、甘ったれな根性がマシになるまでは置いといてやる」

別に俺の勝手な正義感だから何もいらないんだが…対価がないとこいつは納得できないようだ…

家事を対価に俺は沙優と暮らし、歪んだ価値観を叩き直す決心をした。


数日一緒に暮らして認識した…こいつ…めちゃくちゃ家事力高ぇ!!

家出少女だから正直もっとチャランポランだと思っていたが…

料理が上手い!アイロンもしっかりかけるし、掃除も洗濯も一切手を抜かない!

お金を取るとかそういう事も一切しない!

めちゃくちゃ真面目で素直で良い子じゃねーか!

何だって家出なんかしたんだ?


・・・


最近は家に帰るのが楽しいと感じている自分に気づく。

帰ると「お帰り」と言ってくれて、旨いご飯もすぐ出してくれる。

不謹慎だがこんな可愛い女の子と他愛のない話をしながら食事できるって…正直楽しい。

味気ない食事が楽しい食事になっている。

洗い物もやってくれている。お風呂も沸いている。洗濯やアイロンも…

朝起きると…「おはよう」って…

生活が本当に楽になったし、家に帰るのが楽しくなったんだ…


だからお礼がしたいんだ。

服とか布団とかスマホとか日用品とか…

遠慮するな…負担なんかじゃない。

純粋に助かっているんだ…俺はお前に頼って貰いたい…

俺はお前に…喜んで貰いたいんだ…


相変らず本心が見えない…

いつも作り笑いで…何かを隠している…

常に俺に遠慮する…何かに怯えている?

俺が信用できないから?それとも世間そのものを信じてない?

まずは信頼してもらわないとな…

「ここはお前の家ではないが、お前が居ていい場所だ!無理に作り笑いなんてしなくて良いんだ!」

少しは安心して貰えただろうか?

「私これからは吉田さんがこいつが居てくれて良かったと思えるように頑張ろうかな…」

いつも俺を優しいって言うけど…お前も大概優しいよ…


後藤さんと久しぶりの食事はやたらと三島との事を聞かれた…

どうして振った男の事を気にするんだろう?

どういうつもりなんだろう?モヤモヤする…

沙優が気にしている…顔に出ちゃったかな…

沙優がハグしてきた…

うっ…お、おっぱいの感触が…や、柔らかい…大きい…ヤ、ヤバイ!

「元気でた?単純だな~♪」

情けない…高校生に気を使われるとは…それに…ドキドキしてしまった…

意外と元気出たな…実は俺単純なのかも…


三島と映画に行って抱き着かれた…

ちょっと嬉しいような恥ずかしいような…

俺が運命の人?バカ言ってんじゃねーよ。揶揄うなよ。

…沙優と出会えたのは偶然だった…俺が振られなければ…酔ってなければ…

沙優にとって俺との出会いは…運命だったんだろうか…


沙優がいない!誰かに連れ去られた?

どこだ?どこだ?

心配だ…そして…不安だ…

はぁはぁ・・・「沙優!沙優~!」

三島と一緒にいる…どういうことだ?


「吉田さん・・・あのね・・・私、一応女の子なんだ。

 私・・・高校生にしては・・・胸大きいと思うんだ。

 他の男の人はね!皆・・・私とエッチしたがったよ?

 吉田さんは私とエッチしたくない?何も興奮しないの?」

「家事なんて誰でもできるよ。

 吉田さんが優しすぎて・・・どうしたら良いかわかんなくなっちゃった・・・

 吉田さんさえ良かったら・・・私を抱いてよ!!そうすれば少しは・・・」


沙優が不安そうな目で訴えてくる…

俺が他の男達と同様に見捨てると思って不安に思っているのか?…

そんな事しない…そんな事しないよ。

何であんなに一生懸命に探したのか?何であんなに不安だったのか?

そうか…心の何処かで…俺はお前が必要と感じ始めていたんだ…

「お前のお陰で俺の生活は随分楽しくなったよ。

 ただ居てくれるだけで良いよ。俺はみじめで寂しいおっさんだから。」


そうか…こいつは健気で、自分の存在価値を求めていて、自己評価が低い。

だからちゃんと言葉で言わなくちゃいけなかったんだ。

お前は何も俺に返してないなんて勘違いをしているが、そんな事は決してないんだ!

お前は俺にちゃんと与えてくれている…俺だけでは出来なかった生活に潤いを与えてくれている…

いつしか俺は沙優と一緒にいる生活が楽しいと感じていたんだ…

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