第12話 立ち直り

目が覚めた吉田は部屋の当たりを見回した。

あれ?沙優が…いない?

「沙優?…沙優?…」


そしてテーブルの上に一枚の紙がある事に気づいた。

「さようなら。私なんかを恋人にしてくれて…ありがとう」…その一言だけ…


吉田は一瞬で血の気が引いていた。

どうしようもない孤独感が吉田を一気に襲った。

一気に吐き気を催し、吉田はトイレで吐いてしまった。


吉田はパジャマのままで靴も履かずに急いでアパートを飛び出した。


沙優が何処かに居なくなってしまったら…どうしよう?…

今まで経験したことのないとてつもない恐怖感が吉田を襲い

走って、走って…体を動かさないと耐えられなかった。


「沙優!沙優~!!!」


沙優は近くの公園のベンチでボーとしていた。


これから…どうしよう…何処に行こう?…

いくら考えても…答えは見つからず…ずっと暗闇の中にいるような感覚だった。


悲痛な吉田の声が遠くから聞こえてきた。

急に光が差し込むような錯覚を覚え

「吉田さん?吉田さん!」

隠れるつもりだったのに、思わず沙優は叫んでしまった。


吉田は靴も履き忘れて裸足で探していて、沙優の声に気づきこちらに走ってきた。

「はぁはぁはぁ…

 行かないで…くれ…俺を置いて行かないでくれ!!

 お前がいない生活は…もう嫌なんだ!!

 俺から離れないでくれ!!」


俺は…まるで母親から離れて迷子になってしまった子供のように

自分でも驚くくらい大声を上げて泣いてしまった。


「怖いんだ!!お前が居なくなるって考えると怖いんだ!!

 どうしようもく寂しいんだ!!

 お前の過去は…俺も一生、一緒に背負って行くから…

 だから…だから…ずっと俺の傍にいてくれ!!

 お願いだから!!」


沙優は顔をぐしゃぐしゃにして

「でも私…吉田さんに迷惑ばかり…

 考えが甘すぎた…私は過去に辛い思いをして…乗り越えた…

 でもそれは決して美談なんかじゃなくて…

 私はまだまだ甘すぎた!

 悲劇のヒロインを気取っていたのかもしれない!

 本当に大切な人をこんなに傷つけて…

 こんな私が吉田さんの傍にいて良いのか…分からなくなって…」


「確かに過去の事は決して許される行為ではない!美談では決してない!

 けど当時の沙優は生きのびるに必死だったはずだし、まともな感覚がなかった。

 正常な判断も薄れていた…

 終わったことなんだ!

 前にも言ったけど…もう自分自身を許してやってくれ!

 謝らないでくれ!

 勿論過去は消えたりはしない。こういう事も今後起こらないとは限らない…

 でも…お前は…前を向く権利がある。

 俺にもそれを手伝わせてくれ。

 いや…手伝わせてくれなんて言っておきながら…本当は…

 俺がお前と離れたくないんだ!!

 どうしようもなく愛おしいんだ!!

 お前のためと言っておきながら自己中で…本当に…本当に申し訳ないけど・・・

 情けないんだけど…俺と一緒に居てくれ~ううぅ~」

俺は再び泣いてしまった。


「泣かないで!泣かないで!私…もう何処にも行かないから…泣かないで!!」

二人して大声を上げて泣いた。


・・・


時間が立ち・・・漸く二人とも落ち着いてきた。

「いつかも言った事あるけど…お互い…みっともなくて…みじめだね…」

沙優は涙をぬぐいつつ笑った。


吉田の頬に手を当てて

「可哀そうな…おっさんだ…だから…ずっとずっと…傍にいてあげる…」


吉田は頬に当てている沙優の手に触れながら

「…ああ…ありがとう…」

と呟いた。


・・・


その後、二人はアパートに戻り・・・

お互いがお互いの心を埋めるように抱き合い・・・

初めて結ばれた・・・

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