第10話 悪夢

翌々週末沙優は東京に再びやってきた。

原宿で買い物をすることになり

「じゃあ、13:00にここで再開ってことで♪」

「ああ。」


お互いに買い物に行き、原宿駅の近くで比較的人通りの少ない所で

再度待ち合わせをした。

そこで不意に悪夢が襲ってきた。

一台の車が急に止まり、男が降りてきた。


「おお~、君はゆきちゃんじゃないかい?久しぶりだね~。

 あの頃はまだあどけさがあったけどすっかり美人になっちゃって…

 これなら…まだ家出中なの?」

私ははっとしてしまった。


この男は覚えている…ヤドカリ援交中、追い出されて出て行ったのではなく

私が唯一自らの意思で出て行った相手だ…

外見からは全く感じないが、体を重ねて、内面を少し知って初めて分かった…

まともな人じゃなく…薬をやっていた…


私は少し動揺してしまい、顔を強張らせて

「誰?…ですか?分かりません。人違いではないですか?」


「冷たいね~、一晩共にした仲じゃない~。

 急にいなくなったからびっくりしたんだよ。

 絶対に家にいるって約束してたのにね~。

 君はとびっきり可愛かったし、

 それにね、僕は約束破る人って忘れないタイプなんだよね~。

 現役JKってブランドは非常に価値が高くてね~。

 あの後、君にアルバイトして貰おうと思っていたのに…」


作り笑いが冷たい瞳に変わり

「本当にあの時は大損したんだよね…どうしてくれるの?

 まあとにかくここで何だから静かな所に行こうか?」


「い、嫌です…私に構わないで下さい!」

「あれ?騒ぐの?皆が見ちゃうよ?

 言っちゃおうか?君が援交してたって大声で。

 今の生活も…周りの人も…困っちゃうんじゃない?

 なに、少し補填したいだけさ。少し我慢すれば…もう二度と関わらないよ♪」


私ははっとした。

この男は危険すぎる。かつての矢口さんなんてレベルじゃない。

絶対に吉田さんに関わらせてはいけない。

私の過去のせいで絶対に吉田さんに迷惑をかけたくない。


私は怯えながらも・・・強く覚悟を決めた目で

「分かりました…でも…もしも、約束を破ろうとしたら…

 貴方と刺し違えても私は私の大事な人を守ります!!」


「おお~、怖いね~、オケオケ僕は約束は守るよ~。

 前回だって僕は約束は破ってないんだよ?勝手に約束破ったのは君なんだから。

 責任はちゃんと取らないとね~」


私は車に乗ろうとしたときに・・・


「沙優!どうしたんだ!」

吉田が息を切らせながら鬼気迫る顔で大声を上げた。


「あ?あんた誰?せっかく目立たないようにしてたのに」

「お前こそ誰だ。沙優に何の用だ?」

「あ?沙優?はーーーん…なるほど。あの時は偽名だったのか…」

「ぎ、偽名?じゃあ、あんたは!」

吉田が険しい顔になった。


「あんたさ…この子が過去に何してたか知ってるの?

 高校生の援交…俺だけじゃなく何十人も…一時の宿のために…犯罪者だよ?」

「分かっている。お前もその時の糞野郎の一人ってわけだ!今更何の用だ!」


「一夜泊めた後に…この子で商売しようと思っていたら、

 この子勝手に出て行っちゃったわけ。

 大損こいてさ。

 その時の責任を取らせようと思ってね。

 あんたもこんな子に関わらない方が身のためだよ?」


「あんたが勝手にろくでもない事に

 沙優を巻き込もうとしただけで責任なんてないはずだ!」


男の顔が強張って

「あ?てめーには関係ねーだろ?」


「関係ならある!俺は沙優の恋人だ!!誰にも渡さない!!」

「だったらあんたが補填してくれるのかよ?」

「補填なんてする必要もない!」


男の顔が鋭い目つきになり

「素人がいきってんじゃねーぞ!」


男は吉田に殴りかかってきた。

ガツン、ゴツン、ドカッ

吉田は一切手を出さすずっと丸まってガードしていた。


「やめて!吉田さん逃げて~!!」

「嫌だ!絶対にこんな奴に沙優を渡さない!!」

「てめー、いい加減にしろよ!!マジでぶっ殺すぞ!!」

「お前なんかに沙優を渡すくらいなら死んだ方がマシだ!!」


ガツン、ゴツン、ドカッ

「辞めて~!誰か助けて~」

ピーーーー

「おい、何やっている!」誰かが通報した警官がこちらに向かってきた。


「ち、覚えてろよ!」男は急いで車に乗り、その場を去っていった。


「よ、吉田さん!吉田さん!大丈夫?大丈夫!?」

「俺は…大丈夫だ。沙優こそ大丈夫か?何かされなかったか?」

「何で私なんかのために…全部私のせいなのに…ごめんなさい。ごめんなさい!」

「そんなこと言わないでくれ。お前が無事で…良かった」

「帰ろう…俺たちの家に…」


どうやって帰ったか覚えていないが、家に帰ってベッドに横になると、

気を失うかのように俺は寝てしまった。

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