第3話 それぞれの反応(後藤愛依梨)

その夜、吉田は沙優の匂いのしみ込んだハンカチを鼻に置いて

沙優を感じながら眠った。

前回よりも寂しさが紛れてた感じがして・・・自分でも驚くほどぐっすり眠れた。


翌日、朝起きて吉田はいつもより少し軽い足取りで会社に行き

ランチを後藤、神田、三島、橋本と共にした。


後藤、神田、三島は会社の男性社員から人気があった。

後藤は、高嶺の花

神田は、さっぱりした美人

三島は、アイドル的な存在

その3人と気軽に食事できる吉田は、良い意味でも悪い意味でも注目されていた。


「え?沙優ちゃんと会ったんですか!」

三島は大きな声をあげてびっくりした。


「ああ、すっかり…大人になっていたよ…

 もう会う事もないかもと思っていたから…

 会いに来てくれて…少し嬉しかったよ。」


「学校生活は楽しかったって?」橋本が口を挟んだ。


「最初は色々ぎくしゃくしたみたいだが…

 それなりに楽しんで生活できたみたいだ…」

「それは良かったね」


「吉田君はある意味沙優ちゃんの保護者って感覚もあっただろうから…

 無事卒業の報告を聞いて一安心って心境かしら?」

後藤はゆっくりとした口調で尋ねた。


「それはその通りですね。ほっとしました。」

「彼女は卒業後どうしたの?」

「お兄さんの会社に就職したとの事です。」


後藤は少し難しい顔をして呟いた。

「そう。ではもう社会人…か…」


「沙優ちゃんは…また吉田さんの家に?」

三島は恐る恐る訪ねた。


「いや週末会いに来ただけだ。

 もう特殊な事情もないし…そんな簡単に家におけないよ。」


「吉田は、その娘の事好きなの?」

神田がはっきりとした口調で直球質問した。


「いや、まだ何とも…久しぶりにあったから嬉しいという感情の方が強くて」

「吉田は皆に優しいからね…

 それは吉田の良さでもあるんだけど、その気がないなら辞めなよ。」


ただ、三島、神田、後藤は・・・吉田の表情を見て、危機感を覚えた。


「これは…まずいわね…」

後藤は心の中で呟いた。

沙優が吉田の元を離れてから2年間・・・慎重な二人は少しずつ、

距離を縮めていた。

もう少しで・・・そのタイミングで沙優が現れ、

今日の吉田の雰囲気は明らかに違う。

後藤は直観で2年間の積み上げが一気になくなったことを感じた。


昼食後に

「吉田君、ちょっと」

吉田をデスクに呼び寄せてWordで

「吉田君…今夜付き合ってくれない?」

「え?今日ですか。はい。」

後藤はにっこり笑って

「じゃあそういうことで」

吉田を帰した。


定時後、吉田と後藤はいつもの焼き肉屋に行った。

ジュージュー・・・焼肉が香ばしい匂いを出す。


「で、2年ぶりに会った沙優ちゃんは…どう感じた?」

内心穏やかではなかったが、努めて冷静に余裕のある口ぶりで後藤は尋ねた。


「ランチの時に言ったように、久しぶりに会えて嬉しいってまず思いました。

 高校生活どうだったのか…凄く気になっていたし…

 勝手ながら保護者のような感覚もあったので

 それなりに楽しかったって聞けて良かったって思ってます。」

吉田は嬉しそうに答えた。


「本当嬉しそうな顔しているわね。」

後藤はちょっと膨れて話した。


「え?後藤さん…ちょっと何か怒ってます?」

「心配してたのは分かるけど…

 好きな人が他の女の人のことでそんな嬉しそうな顔したら…

 流石の私もムッとするわ。」

「いや…はは…」


後藤にしては珍しく緊張しながら・・・でも決意を込めた目で言った。

「私…吉田君と付き合いたいわ!まだあの約束…有効かしら?」


吉田はびっくりした。

いつも奥手の後藤がいくら沙優が会いに来たと言っても

こんな強引に進展させるなんて・・・


「え?えっと…」

吉田はそんな展開にいきなりなると思っていなかったので頭が追い付かなくなった。


「そんなに驚くこと?

 沙優ちゃんがいなくなってから…暫く貴方は心あらずの状態だった…

 それもあって私は少しずつ絆を結んできたつもりよ。」


後藤は艶やかな表情で、頬を赤らめながら

「今日なら…この後も…いいわ。私も…覚悟を決めたから!」


吉田はドキドキして・・・言葉が出てこなかった。

憧れの後藤さんと遂に!!…でも…沙優は?


頭の中で以前沙優に言われた言葉の数数をふと思い出した

『『吉田さんにとって…私は何?』』

『『吉田さんは…私に帰って欲しくないの?』』

『『私…吉田さんが好きです。

  吉田さんが待ってなくても必ず会いに行きます。』』


お、俺は・・・


「ごめんなさい。後藤さん。後藤さんの想いに俺は応える事ができません!!!」


後藤は悲しそうに、けどある程度予想がついていたかのように

「そう…」

とだけ答えた。


ジュージュー焼肉の焼ける音が煩く響く。


「ちょ、後藤さん!そのカルビまだ少し早いですって!」

後藤は顔を膨らませて

「いいの!これからは少し早めに食べるようにしたいの!!」

後藤はぐびぐびとビールのジョッキを飲み干す。

吉田は戸惑いながらも次のカルビを並べる


後藤は涙ぐみながらぽつりと囁いた。

「あ~あ…少し…焼きすぎちゃったな…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る