-Winter 後編-タイムリミット、温もり、本当の気持ち-9
-次の日
こんなに仕事が早く終わって欲しいと思ったのは、いつ振りだろうか…
そんな事を考えながらも、ミスはしないようにしっかりといつもの業務をこなしていった。
周りのスタッフからも「傑〜?またなんかいい事あったの?」なんて言われるぐらい、気持ちは清々しく、そして幸せでいっぱいだったんだ。
憧れの人は今…俺の大切な恋人になった…
それだけで嬉しくて…たまらない…幸せだ!
って思ったっていいよね…??
気付けば仕事も終わりの時間が来て、帰る前に俺は喫煙室に足を運んだ。
そこにはお決まりのように小森さんがタバコを吸っていたんだ。
「…おう、傑、お疲れ様!」
「小森さん、お疲れ様です!」
「…いい事あったな?お前~♪」
「…ええっ?!な、なんでですかっ…?!」
「顔に僕、幸せですって書いてますけど?」
ニヤニヤと話す小森さんに、俺の頬はポッと紅潮してしまった…
「…ちゃ、ちゃんと色々話すことが出来ました…」
「そうか、よかったね、傑…?」
「小森さん、本当にありがとうございました…」
俺は、小森さんに深々く頭を下げたんだ。
今日の小森さんは、しっかりとタバコを吸っていて、タバコは短いところまで燃やされていたんだ。
「…傑…?幸せになりなさいよ…?そして、翼くんを大切にしなさいね?」
ニコッと話してくれる小森さんの言葉に俺も「…はい!ずっと大切にします…!」と笑顔で返して…俺は、喫煙室を後にした。
今度…ちゃんと小森さんに、翼さんを紹介させて下さいね…?
◇ ◇
-帰り道…
なんだろう、こんなに帰り道が恋しくて、緊張したことも今まで無かった…
いつも走っている1本道が、やけに長くて、そして遠く感じたんだ…
もう少し…もう少しで…とそんな少し焦る気持ちで車を走らせ、気付けば俺の目には、スーツ姿のカッコイイ翼さんが飛び込んできて…
俺の車に気付いた翼さんも、車に向かって軽く手を挙げ、俺は車をゆっくりと停めたんだ。
「…翼さん、お待たせしました…!」
「…そんな待ってないよ?」
「そうですか?いつもならもう歩道を歩いてる時間じゃないですか?」
「…えっ…?」
「…帰る姿、何回も送迎中に見てました…///」
「…傑くん…///」
隠していたって、ずっと目で追っていたんだ…そりゃ…憧れで大好きな人だから…
「…あ!そうだ、翼さん?少しだけ時間ありますか?」
「うん?大丈夫だけど…?」
「…にしっ!実は、見せたいところがあるんです…!」
「みせたいところ?」
「…はい!…ずっと、翼さんと行きたいと思っていたところなんです…!」
「…ふふっ!分かった、付き合うよ?」
俺は「…やった!」と、その一言を翼さんに残して車を走らせ始めた。
翼さんと行きたかったところは、俺たちの想いのように道のりは、険しいかったけど…
その場所に到着して、見えた景色は、想像を遥かに超える程、圧巻なものだったんだ…
「…うわぁ、綺麗だ…」
「…送迎中に見つけたんです、ここ…」
「…この町にも…こんな綺麗に町全てを、一望出来るところがあったんだね…」
俺らの目に映ったのは、俺が働いていて翼さんと雄介が住む町並みの綺麗な景色…
雪が積もった町並みは…雪が光に反射して、なお一層、綺麗な色彩を描き出す…
色んな色が、俺たちの目を彩っていたんだ。
「…翼さん…?」
「…うん?」
「…ちゃんと自分の口から…タイムリミットのことを言えなくて、ごめんなさい…」
「…そうだね、本当は君の口から…聞きたかったかな?…でも君は優しいから、彼の事も俺の事も傷つけたくなくて…気持ちを押し殺すことで手一杯だったんだろうとも思った」
「俺も、傑くんに自分の願望を叶えて貰って…その分、お互いに好きという気持ちも強くなってしまってさ…?好きだという感情がお互いの気持ちの全てを覆い隠して…」
「…君も尚更、俺に事実を伝えられなくなってしまったんだとも思ったんだ…俺の方こそ、君の気持ちにちゃんと気付けていなくて…本当にごめんな…」
「…俺の方こそ、本当にごめんなさい…」
お互い何らかの【罪悪感】や【劣等感】をあの一夜以降から、感じていたのかも知れない…
それでも翼さんは、俺の想いを骨の髄まで考えてくれて…
jubeatに向き合う時もこの人は、いつもこうだから…伝え方、話し方なんかも全て研究して俺に話してくれたんだと感じたんだ…
「…俺…ちゃんと彼とピリオドを打ちました…ちゃんとお互い…幸せになろうって…」
まだちゃんと、面と向かって翼さんに話せていなかったから…
今度こそ…しっかり伝えたい…もう、隠すことは必要ないと、心からそう思ったんだ。
「…傑くん…いや…傑?…よく頑張ったね?」
「…え…翼さ…」
「…翼でいいよ…?」
「…っ…!///」
「…もう、敬語もいらない…」
誰も来ない…2人だけの秘密の場所。
俺らは初めて、そっと手を繋いだんだ…
「…傑…俺ね?電話でも話したけど…ずっと君を…待っていようと思ったんだ…」
「…翼さ…翼…それ、どういうこと…?」
「いつからかは覚えてない…けれど、いつの間にか俺は…君の事が愛情としての好きになったんだ…」
「…っ…」
「…でもさ…?好きになってはいけない…その気持ちだけが俺をずっと襲い続けていたから…言葉にも行動にも出来なかった…」
「…それは俺も…同じだよ…憧れの翼を…いつの間にか好きと感じてしまった時に、この関係が壊れてしまうことが、とにかく怖かった…翼が離れてしまうと思えば思うほど…自分の気持ちを殺すことで手一杯だった…必死に心の穴を埋めようともした…」
同性愛の難しさ…
好きになってしまった罪悪感や葛藤…
普通じゃないと思われてしまう切なさ…
事実を知った時に、脆く全てが壊れてしまうのでは無いかと…
もう、傍には居てくれなくなってしまうのではないかという焦燥感だけが、俺たちの心をずっと蝕んでいたのかもしれない…
それでも、お互いの気持ちに向き合えた時…俺たちは俺ららしい…普通の恋に出会えたんだと、心から思えた瞬間だったんだ…
「…傑…?」
「…はい?」
「…勇気を出して、俺にカミングアウトしてくれて…そして俺の本当の気持ちを呼び起こしてくれて…本当にありがとう…」
「…お、俺は…受け入れてくれただけでも…うれし……!!」
繋がれていた手は、いつの間にか解けていて…俺が喋り終わる前に…俺は、翼の温もりに抱きしめられていた…
「…もう離さない…俺が引き取ったからには…絶対に…」
「…つ、翼…」
「…傑…?…大好きだよ…?」
その言葉を翼さんは俺に残して…光り輝く景色に彩られながら…
俺たちは、初めてキスを交わしたんだ…
俺も…心からあなたの事が大好きです…
あなたにこの思いを伝えられて…
本当に良かった…
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