-Winter 後編-タイムリミット、温もり、本当の気持ち-6
喫煙室を後にした俺の気持ちは…もう、翼さんにしか向いていなかった。
好きだっ…好きなんだ…!もう、憧れじゃない…!
それでも俺は、翼さんにどう伝えていいのか…分からなかった…
好きです、でいいのか…
彼とは別れます、でいいのか…
どちらにしても、俺の都合のいいことばかりじゃないか…だから分からなかったんだ…
俺は、手を震わしながら咄嗟に、メールを打ち込んだ。
《…今から家に行ってもいいかな…?》
俺は、その人からの返信を待つことも無く、ただひたすら車を走らせたんだ…
◇ ◇
ガチャ…
「…おじゃまします…」
「おう!おかえりっ!そしてお疲れ様♪」
俺は、無我夢中で車を走らせて、愛の家に来ていた。
もう…翼さんの事が好きだという気持ちに、嘘はつけなくて…
翼さんの言葉が、忘れられなくて…
話だけでも聞いて、助言が欲しくて…
そんな気持ちのまま、俺は身体を震わせながら愛に気持ちを伝えたんだ。
「…愛っ…俺っ…もう無理だよ…翼さんのこと…好きなんだ…でも、どうしたら…」
その言葉に愛は「…ちょっと、待ってて…」と携帯をカチャカチャと動かしていて…
何だか、俺の話はそっちのけの様に感じたんだけれど…
「…愛…?」
「…あたし、今…誰と連絡取ってると思う?」
「…えっ…」
「…翼さんだよ…?」
そう、翼さんは俺の事で、ずっと愛に相談をしていたらしいんだ。
全ての気持ちを吐き出せた今…翼さんも俺に対する気持ちに整理がつかない状態で…1番、俺に近しい愛に…相談をしていたらしい。
「…翼さんは、ずっと…傑のことが好きだったんだと思うよ…?」
「…っ…!」
「…それでも…」
…ピリリリッ!!!
話の途中で、愛の携帯に着信が来て…その相手は、まさかの翼さんだったんだ…
愛の着信音と共に俺の心臓と思いは、居場所を無くしていた…もう、翼さんへの好きという感情しかなくて…
「…もしもし?翼さん、愛です」
気持ちの整理がつかないまま、2人の会話が始まってしまったんだ…
「…はい…はい、うん、そうですよね…それでも…うん、はい…」
愛の隣で待つ俺は、愛の相槌でさえ、相手が翼さんと分かっていたから…
怖くて怖くて、たまらなかったんだ…
「…翼さん?傑の気持ち…聞いてあげられませんか?…今、偶然にもあたしの隣に傑がいるんです…」
愛への相談は、やっぱり俺のことで…
で、でも、待って…!ちゃ、ちゃんと、しゃ、喋れるのか…俺…?
俺は気持ちの準備なんか、全く出来てないまま…「傑…?翼さんが電話…代わって欲しいって…」
愛は俺に、翼さんと繋がった携帯を差し出してきたんだ…
「…お、俺…何、話したら…」
「思ったまま話せばいいよ…?」
思ったまま…それが、とっても難しかった…それでも、愛の顔は本気だったんだ。
「ちゃんと話してダメでも、1人じゃない…」
愛の一言を胸に俺は、意を決して携帯を手に取ったんだ、もう…逃げない…!!
「…もしもし…」
「…傑くんかい…?」
「…はい…」
「…この間はごめんね…?無理なお願いしちゃって…」
「…なんで、なんでいつもそうやって謝るんですか…?」
「…えっ…」
「…俺が、翼さんにギュッてされた時…俺が嫌だったと思いましたか…?」
「…そ、それはっ…」
この時…固く結んであった感情の鎖が全て、バリンバリンと解けていく音がしたんだ…
「…あんなに温かくてドキドキして…その分、辛くなって…もう…気持ちの整理なんて出来ないんですよっ…」
「…す、傑くん…」
「…つ、翼さん…お、おれ、俺…!翼さんの事が…好きすぎて、もうおかしくなりそうなんです…!」
「憧れの好きではありません…一人の男性として…翼さんの事が大好きなんです…」
流れに任せて、気持ちをそのまま吐き出してしまった…
彼という存在が、まだありながら、ありのまま…翼さんのことが好きな事を、俺は率直に伝えたんだ…
でも、翼さんは…
「…傑くん……ごめん……その気持ちには…答えられない……」
そう言葉を詰まらせながら、返してきたんだ…
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