-Autumn- 大会、傷、優しさ-7
-大会中
俺の携帯には、大会の様子を皆が、代わりばんこに報告してくれていた。
拠点だけのメンバーだけではなく、他の拠点からも強者が集まっていて、雄介は約束通り嫁曲を投げてくれたけれど、惜敗だったみたいで…愛も紬も強者には、敵わなかったみたい…
結斗はjubeatのセンスが、ずば抜けて良かったから、準決勝まで行ったけど、翼さんとマッチになって負けてしまったらしい。
ん…?!!と…言うことは、決勝進出は…翼さん…?!…やっぱり強い…強すぎる!俺は、心の底から翼さんに優勝して欲しい…と心から願っていた。
その願いが力強く籠っていたのか、さっきとは違う気持ちで俺は、掛け布団をギュッと握りしめていたんだ…
◇ ◇
-大会終了後
俺は、ちょっと悲しい気持ちが滲み出ていた…そして。なんだか言葉にもならなかった。
ガラガラっ…
えっ…?こんな時間に誰…?…もう、面会時間は遠に過ぎていたのに…急に病室の扉が開き、そこにいたのは…
「…つ、翼さん…?!」
「ごめんね、もう面会時間過ぎてるのに…」
そう、翼さんだったんだ…。
しかも1人…?!な、なんて声掛けたら、いいのだろうか…
「い、いえっ…!あ、あのっ…つ、翼さん…準優勝、おめでとうございます…」
そう…翼さん、決勝で敗れちゃったんだ…
いや、翼さんに申し訳ないけど勝てっこなかったって言った方がいい。
決勝の相手は、全曲を満点で染め上げる【ランカー】という、日本でも数十人しかいない化け物が拠点に来たんだもの…はぁ、空気読めよな…くそっ…!
そんなことを思いながらも、俺自身も、やっぱり悔しかった…だって心の底から、翼さんに優勝して欲しかったから…
俺らなんかより翼さんの方が、絶対に悔しかったはずなのに…
「傑くん、ありがとう…こればかりは仕方ないよね?だってさ、どう足掻いても勝てっこないもん…!」
負け戦に突っ込んで行ったのと一緒…それでも翼さんは、どことなく清々しくて…
「俺さ、jubeatやってて良かったな…傑くん?今度は絶対、一緒に出ようね?」と俺にニコッと返してくれたんだ…
俺は「…は、はいっ…///」と憧れの人から言われた言葉に気が動転してしまって…今までに無いほど、気持ちが複雑に絡まってしまったんだ…
好きって気持ちではない…
好き…じゃ…ないんだよね…?
だめだ、だめだ!!!!
好きになるなっ!!!
好きになった瞬間に…届かない想いで、もう…自分を苦しませるな…!
憧れの人…それだけで十分だろっ…!
俺は、心に言い聞かせることで、手一杯になっていたんだ。
「あっ!そうだ、傑くんに渡すものがあって…」
翼さんは、ゴソゴソとカバンを漁り、1つの箱を俺に渡してくれて…
「…な、なんですか…これ…?」
「お見舞いにこんな物、良くないのは分かってるんだけど…」
俺はそっと、その箱を開けてみたんだ…
「…うわぁ…綺麗…かっこいい…」
そこには、クリスタルのグラスが入っていて、俺の手元でキラキラと光り輝いていた…
「…ど、どうしたんですか、これ…?」
「ほら、この前のパーティーで、グラス1個割っちゃったでしょ…?」
(あ〜っ…ありましたね、そんなこと…俺、手、滑らせて割ったんだった…)
「…良かったら、傑くんに使って欲しいなと思って、買ってきたんだっ///」
「…そ、そんな、気使わなくても…で、でも…嬉しいです…っ!///」
俺は、心の底から嬉しかったんだ…
きっと…翼さんはそんな思いでこのグラスを送ったんじゃないと思ったけれど…
俺には一生の宝物になるぐらい…嬉しい物となったんだよ…?
「もう…割らないようにしますっ!」
「ははっ!喜んでもらえてよかった!今日、君から貰った心の応援を、今度は俺たちが返す番だよ?明日…頑張ってね…?」
そう、明日は手術の日…もう、目の前まで来ていた。
だけど、その不安を跳ね除けるような宝物を貰った俺は、翼さんからの力強い勇気までも受け取った気持ちだったんだ。
みんなも、翼さんも無事を祈ってくれてる…!ちゃんと直して、あの場所に戻ろう…!
その気持ちを込めて俺は翼さんに「はいっ!頑張ります!」と満面の笑みで返したんだ。
◇ ◇
その日の夜…
俺は、少しだけ外の空気に当たりたくて、ナースステーションの看護師の目を盗み、外へ出た。
外は、秋の心地よい風が吹く。
俺の手には、翼さんがくれたグラスが、街頭の光と交わり、綺麗に輝いていて…
明日頑張ろうと、意を決した気持ちとは、別の感情も織り交じっていて…
紬が聖地の喫煙所で発した言葉が、今になって脳を過ぎったんだ…
『…翼さんって、いっつも傑のこと見てるよねっ?』
その瞬間、少し秋風が強く吹いて…
木枯らしが身体に染み渡る…そう、もうすぐ俺らの町にも、冬がやってくるんだ…
翼さん、俺は貴方を…
好きになってもいいんでしょうか…
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