-Autumn- 大会、傷、優しさ-6
-入院当日
楽しかった結斗の誕生日パーティーは、あっという間に終わりを迎え、俺の携帯の中には、心温まる思い出と手術に向けた1つの勇気として、色々なものがしっかりと焼き付けられていた。
【みんなの集合写真】
【結斗が無邪気にケーキを持った写真】
【愛と雄介の変顔ツーショット】
【紬がぶっ飛ばしたマヨネーズ】
そして…【翼さんと俺の笑顔】
まだこの時も…好きの感情ではなくて、仲のいい憧れの人。
本当に良くしてくれるお兄ちゃんみたいな存在だったのかもしれない。
そう…思い込もうとしていたのかな…?
携帯に彩られた温かい思い出と共に、俺は病院へと足を運んだんだ…
◇ ◇
手術前に再度、精密検査と問診を受けた。
痛みが引いていることや吐血もしなくなったことを先生に説明し、もしかしたら…?なんて、淡い期待を持ちながら検査を受けたけれど、やっぱり現実は変わらなくて…
血が止まっただけで、目と鼻の骨は、ぐちゃぐちゃのままだったんだ。
手術内容を再確認するけれど…や、やっぱり怖い…
人工チタンを置換しても良かったのかもしれないけど、寒くなると痛む可能性が高い。
ならば、骨の移植が必要で、1番育ちやすい股関節の骨を採取し、目と鼻の形に形成して置換するという大手術になるらしくて…
考えただけでも、ゾッとしたんた…
大会の当日も検査をする予定で、その次の日には、少しの間、遠い眠りにつくんだ…
不安で不安で仕方なかったけど、目を閉じれば、みんなとの思い出があったから。頑張ろうと心から思えたのかもしれない…
-そして大会当日
(はぁ…ほんとなら今頃、あそこに居たのかな…)
残酷にも病院から拠点まで目と鼻の先で、俺の病室からも拠点の看板が見えていたんだ。
俺は、綺麗に取り替えてもらった掛け布団をぎゅっと握りしめて、涙を堪えていた…
悔しい、悔しいよっ…本当はあそこに行きたかった…大会で嫁曲を投げたかった…!
みんなと…そして…
翼さんと戦いたかった…
4人部屋なのに、病室には俺1人しかいない…広い空間で、色んな感情を押し殺そうとしていたその時…
ガラガラッ…!
病室の扉が開いて、涙を堪えながら目を向けた先には…仲良し5人の姿があったんだ…
「み、みんなっ…」
「みんなでお見舞いに来たよ?傑くん?」
大会前にみんなでお見舞いに、来てくれたんだ…あれ、で、でも早く行かないと大会に参加出来ないんじゃ…
「は、早く行かないと…!」
「安心せぃ!もう、エントリーしてきた!」
「少しの時間でも、みんな君に会いたかったんだ♪」
「…傑!あたしの事、応援しててよっ?!」
「愛と2人で女子勢、頑張ってくるからねっ!」
「傑くんの分まで、僕、やりきってくるからっ!」
気持ちは大会ムードでも、俺の事を気にかけてくれて、みんなでお見舞いに来てくれたんだ…俺はそれだけでも嬉しかったのに…
ここぞというところで、雄介のイケメンぶりが炸裂して…
「傑、お前もよくここまで、頑張ってきたよな…?」
「ゆ、雄介…?」
「お前の嫁曲は、俺が大会でぶつけてやる!」
「えっ…?!」
「お前の分まで、俺たちで響かせてきてやるから、温かい応援、頼んだからな!!!」
そう言って雄介は、俺の肩を微笑みながらポンポンと叩いてくれて…
そ、そんなこと言われたら…こ、堪えても堪えきれない…泣かないわけ、ないじゃんか…ばかっ…!!……えっ?…嘘っ……?!
涙を流す俺に、みんなはニコッと微笑み返してくれたんだけど…俺は嬉しかった気持ちとは裏腹に、驚きを隠すのでやっとだったんだ。
ずっと出てこなかったはずの左目から…治るまでは出ないと言われていたはずの涙が…零れ落ちてきたんだよ…
人の感情とは…どこまで人の概念や想像を覆してくるのだろう…感情は、医学の根拠すら覆すものなのかな…?…本当に不思議なものだな…?
そんな事を考えながらも俺は、笑顔で5人の挑戦をそっと心で見守ることにしたんだ…
ここからでも、思いは届く…!絶対に!
みんな…頑張れっ…!!!
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