-Autumn- 大会、傷、優しさ-3
先生の言っている事がよく分からない…目が動いていないって、一体どういうことなの…?
「…眼筋麻痺だな…」
(が、眼筋麻痺…???)
目の上を複雑骨折した事が原因で、目の筋肉も上手く動かない状態になっていると、先生は説明してくれたが…
「…失明したりはしないけど…術後に後遺症は、残るかもしれません…」
ダブってみえる…これが後遺症として残るかもしれないと、先生は言いたかったんだ…
それと俺は、先生の術後という単語を聴き逃してはいなかった…
「…先生!俺、手術が必要なんですか?!」
ふざけないでくれ…もう少しで待ちに待ったjubeatの大会があるんだよ…!
ここまで…みんなで切磋琢磨して、努力してきた実力を発揮する絶好の機会なんだ…!
手術なんて…いやだ…!いやっ…間に合う!大丈夫…きっと大丈夫だよっ!!!
そんな俺のちっちゃな希望は次の日、粉々に崩れ落ちることになっちゃうのだけれど…
「…手術は必要です、こんなに粉々だし、目も動いていないから…でも、今出来ることはここまでなので、明日また病院に来て、精密検査をしましょうね?」
「…わ、分かりました…」
先生の言葉と共に、俺は全身の力が抜けてしまい、ズンっと項垂れる俺を、一緒に説明を聞いていた両親は、肩をそっと抱いてくれて…
その日は、そのまま…実家に帰ることにしたんだ…
◇ ◇
自宅に着いてから、少しして、母さんから「もう、介護の仕事やめてもいいんだよ…?」と不安そうに声をかけてくれたんだ。
俺の母さんも元介護士で、腰を痛めて現場から退いてしまった。
だからこそ、介護現場の厳しさや大変さをよく分かってくれていた。
「…いやだ、辞めたくない…」
俺、
入院を繰り返す度に、将来は自分も人の心や気持ちに寄り添える仕事がしたいと思っていた時に、母さんが介護の仕事を勧めてくれたんだ。
…もしかして、母さん…自分が勧めたからって、悔やんだりさせちゃったのかな…?
それでも俺は、大好きな仕事とやりがい、生きがいを感じる仕事から、まだまだ背を向けたくなかった、諦めたくもなかったんだ!
「もう少し、頑張りたいんだ…大好きな仕事だから…!」
自分の思いを伝えた時、母さんは「分かったわ…?無理だけしないで、今はしっかり身体を休めて、また頑張りなさい?」と、そっと俺の背中を押してくれたんだ。
◇ ◇
-次の日
俺は人生で初めて、一睡も出来なかった…
痛み止めは貰ったけれど、全く効かなくて、とにかく目が痛い…ん…いや、目頭が痛い…?
胸も張り裂けそうな程痛くて…んんっ…俺…身体のどこが痛いんだろうか…
もう、涙も出てこない…しかも、やっぱり涙は、右目からしか涙が出てこなくて…すべて枯れてしまった…
ちゃんとした検査結果が出るまでは、みんなにも言えないし…もしかしたら、大会間に合うかも知れないし…
そんな小さな希望だけを胸に…俺は、両親と病院へ向かっていったんだ。
精密検査を行い、検査結果に俺は絶望した…
《目頭上部から鼻骨にかけた複雑骨折》
《眼筋麻痺》
「手術・入院も含めて全治3週間です」
終わった…大会には、どう足掻いても、どうもがいても出れない事が、先生の一言で確定したんだ…
そして先生は、俺の絶望感に追い打ちをかけるように、今後の予定を連ねていく…
「それと、2週間前後は手術が出来ません。骨折箇所からの出血が治まるまでに、1週間以上はかかりますので、それが収まってから即手術しますので、安静にしててくださいね?入院日は…」
俺は、目の前が真っ暗になりながらも、先生が指さすカレンダーに目を向ける…
入院日は、残酷にも大会前日…
先生の指がダブって見えて、指した日付がズレて見えてると思いたかった…時間をずらして欲しいとも頼みたかった…
でも、大会は夜からだったから…どんなに足掻いても…要求しても…安静第一の俺には、見に行くことすら、出来なかったんだ…
なんで…こんなことに…なるんだよっ!!神様…俺…なにか悪いことしましたか…?
◇ ◇
検査も終わり、実家に戻ってからも俺は、身も心も全てが落ち着かなくて、挙句の果てに仕事も長期の休みとなって、やる事もなくなった…気力もどっかに旅に出てしまいそうだ…
もちろん、目が動かないからjubeatだって、やりに行けない…
身体からも、心からも…色んなものが外れていく…そんな気持ちになったんだ…
なにもしたくない…けれど、信じてくれてる仲間には辛くても…行けなくなったことはちゃんと報告しよう…
俺は、震える手に…携帯を握りしめて、仲良し5人に連絡をしたんだ…
俺…みんなに会いたいよ…
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