-Autumn- 大会、傷、優しさ-2
意識が戻った時には、上司が一生懸命、俺に声をかけてくれていた…
痛い……え、な、なんで…痛いよっ…
「傑!聞こえる?!」
聞こえるけど…とにかく痛い、なんなの…これ…?俺は痛みのあまり、左目が開けられなかった…
とある利用者が投げたものが、猛烈な勢いで飛んできて、顔面にぶつかったまでは覚えている…でも、何がぶつかったまでは分からなくて…
介護施設には、色んな疾患を持った人がいてよく聞く認知症でも色んな種類があったり、自分の気持ちを抑制出来ないような疾患もあったりと、色々な方を毎日預かっている。
現場では、常に気を張って向き合っていかなければならなかったのに、その時の俺は、どこか浮かれ気味だったこともあって、気が抜けていたのかもしれない。
介護の現場は、楽しい半面、大切な命を預かる場所であって実は、危険がいっぱいなんだ…
俺の顔面に何かがぶつかり、左目上部に大きな損傷を受けていたようだ…
「…意識はあるわ!!…早く!救急車っ!!」
(…なにが、どうなってるの…??)
上司の他に、施設の看護師も大慌てで俺の処置をしてくれていて…顔面だから自分で見えるわけじゃないし、でも…痛いものは痛い…ズキンズキンっと痛むけれど、血は出ていないみたいだ。
少しして…とりあえず痛みはあったけど、なんとか左目を開けることは出来そうになり…そっと、開けて見たんだけれど…えっ?!な、なにこれ…?!
左目を開けると、目の前の上司が2人…いや違う…ダブって見える…?!!
「え、ええっ…え〜っ…!!」
「…傑っ?!…どうしたっ?!」
「目っ!目が、へ、変なんです!!」
パニくる俺を「傑!落ち着いて、大丈夫だから!」と
…落ち着けるわけがなかったんだ…
…だって痛いし…目もおかしいし…
俺…このまま、見えなくなるの…?
パニックと不安しか、俺を襲ってこなくて…
(…みんな、助けて…っ!)
悲しい、苦しい、痛くて、右目から溢れ出る涙とは裏腹に、左目からは、一滴も涙が出てこない…
俺…どうなっちゃうの…?!
不安とともに、救急車に乗せられ俺は、緊急病院へ運ばれて行ったんだ…
そう、忘れもしない…その日は「敬老の日」だったんだ…
◇ ◇
当番病院に運ばれ、そこには両親も駆けつけてくれていた…
一緒に乗っていってくれた上司は、両親に何度も「申し訳ありませんでした…!」と頭を下げてくれていたけれど…うちの両親も「頭を上げてください…」と涙ながらに話す上司を宥めてくれて…
この上司こそ…この後、俺の最大の心の支えになるなんて、この時は全く考えられなかった…だって…とにかく痛かったし、この先の事なんか…今は考えられなくて…
敬老の日は、祝日でもあった事から精密検査は出来なかったんだ。
レントゲンだけ撮って、当番医の先生と一緒に写真を見た瞬間…俺はやっと、痛みの真実を知ったんだ。
「ここ、わかるかい…?目頭上の骨が全部…砕けてる」
「えぇ…こ、この黒いところです…かっ…?」
そう、目頭上から鼻筋まで…俺の骨は粉々になり、無くなっていたんだ…おいおいこれは、痛くないわけ…ないじゃんかよ…
でも出来ることは、今日はここまでみたいでまた明日、精密検査をする事になったんだけれど…
俺は、もう1つだけ気になることがあったから、勇気を出して先生に聞いてみたんだ。
「先生…?俺、目…目もおかしいんです…」
「…ん?目??」
「先生が今も、ダブって見えてます…」
「…?!それほんとかい?!」
当番医の先生は、俺の言葉を聞いて、咄嗟に医療用ペンライトを手に取り「このペンを目だけで追ってみてもらえるかい?」と俺の顔の前で、左右上下に動かし出したんだ…
…ん?
…あれ…?
み、見えない…
真っ直ぐならペンライトが見えるのに…左右上下にペンライトを振られると、ダブって見えるどころかペンライトが見えない…
いや、見えてる…?右だけなら見えてる…?…ど、どうなってんの…??
見えるのに…見えない
まったく状況が掴めない俺に、先生はとんでもない事を教えてくれたんだ。
「…左目が動いていない…」
え…?せ、先生…何いってん…のっ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます