第6話 コーヒーブレイクと再会

「ドクター、こちらが頼まれた物資になります」


 私はジョージに礼を言い、渡された品を一つずつ手にとる。

 やがて私の手は珈琲を探り当て、思わず笑みを浮かべてしまう。


「よしジョージ、早速珈琲を淹れよう。お湯を沸かしてきてくれ」


「はいドクター」


 ジョージが湯を用意している間に、私は珈琲の豆を乳鉢で細かく砕くと、切って二つ折りに重ねた包帯の上に載せる。

 簡易的だが、ネルドリップの代わりとして使うつもりだ。


 そこにジョージが運んできたお湯を注いでいくと、珈琲の香りが馬車の中に広がる。

 私はそれを心ゆくまで吸い込み、つかの間のコーヒーブレイクを楽しんだ。


「いい香りだな。久しぶりに一杯どうだ?」


「いやドクター、それはユニコーンのために買った薬じゃないですか。俺なんかが飲むわけにゃいかないですよ。それに珈琲なんて今まで飲んだこともないです」


 お前に言ったわけじゃないよ、と口にするより早く馬車の中に男が飛び込む。


「お誘いありがとうマイフレンド。涙が出てくるほど嬉しいよ」


 ロレンスは口上を終えるや否や、ジョージに飛び掛かりあっという間に彼を昏倒させる。

 心配になったので一応診てみるが、命に別状はなく気絶しているだけなので放っておくことにした。


「ああうまい。これぞ文明の味だ。夢に見るほど恋しかった味だ」


 いつの間にか私が淹れた珈琲を手にし、ロレンスが満足そうに言葉を吐く。

 重度の珈琲愛好者コーヒージャンキーである彼にとって、その香りの元をたどるのは赤子の手をひねるように簡単だったに違いない。

 私の試みはなんとかうまくいったようだった。


「しかしユニコーンで商売とはな。頭おかしいんじゃないか、あの女」


 言いながらロレンスが不安そうに私に目を向ける。

 ユニコーンの容態が気になっているのだろう。

 我々にとって不利な事実ばかりだが、隠したところで意味はないので正直に告げる。


「もともとの状態を考えれば多少持ち直したが、置いて逃げるなら彼女が助かるかどうかは博打になる」


 ジョージがいれば何とかなるような気もするが、我々が逃げれば多分彼は責任をとらされるだろう。

 そうなると今までの処置を継続することも難しくなり、ユニコーンの体力が持つかどうかは神のみぞ知るというやつだ。


「こいつは全然走れないのかい?」


 ロレンスからの思わぬ問いに、私は考えながら答える。


「もうじき麻酔が切れるから走れないことはないと思う。ただし長距離は走れないし、人を乗せるのも無理だな」


「……そうか、とにかく迷っている時間は無さそうだな。すぐに出よう」


 私はすぐにユニコーンを起こし、檻から解放する。

 ちょうど夕暮れ時だったこともあり、人の気配は少ない。

 巡回の隙をついて逃げ出せば、うまく行く可能性は大いにあった。


 だが、ここで肝心のユニコーンが問題になった。

 彼女が、どうしてもキャラバンから離れようとしないのだ。


 しかたなく、私とロレンスの2人がかりで引っ張り森の中に隠すも、ふと力が緩んだときを狙ってユニコーンは我々を振りほどき、キャラバンの方へ駆けていく。


 またたく間に人間が集まり、我々は捕まってしまった。

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