第5話 ちょっとした思いつき
ユニコーンの治療は困難を極めた。
同時に私は馬車からの外出を一切許されなくなったので、まさにつきっきりで彼女の治療にあたることになった。
彼女は肺の病を患っているようで、定期的に咳きこむ発作を起こした。
これは熱を下げるだけではけして治らないので、彼女が寝ている隙を見つけて空気の入れ替えを実施するようにした。
あとは基本的に彼女自身の回復力に期待するほかない。
薬もあるが、用意してあるのはもちろん人間用のものなので、よほどのことが無い限り処方する気はない。
できれば日光を浴びせたいところだったが、それはジェイシカの許可が下りなかった。
まあ無理はあるまい、もしこの密輸が露呈してしまえばキャラバン全員の首が飛んでもおかしくはない。それだけの犯罪である。
「ドクター、餌の用意ができました」
「ありがとうジョージ、そこに置いておいてくれ」
無精ヒゲの男ジョージは、すっかり私の助手になってしまった。
ロレンスは名前だけの助手だったので、私にとって実質的に初めての助手と言っていい。
外に出られない私の食事や日用品なんかも彼に用意してもらっている。
どうも彼は過去に医学を志しつつ挫折してしまったようで、きちんと医学を修めライセンスを持つ私に対し敬意に近い感情を持ってくれているらしい。
頼み込めば一度くらいロレンスに接触してくれそうだが、もちろん不用意に切れる札ではなく、良い案が浮かぶまでは耐え忍ぶ日々が続きそうだ。
心配なのは私よりロレンスだ。
私がここから離れられないということは、ロレンスが代わりに医師の仕事をしているということになる。
だが、当然彼にそんな知識があるはずはないので、いくら助手という肩書とはいえ怪しまれているはずだ。
そんなある日、私は補充したい物資の話をジョージとしていた。
「絶対に必要なのは清潔な包帯と消毒液、果物類も多めに欲しい。あと滋養強壮の効果があるものを探してくれ」
「具体的にはどんなものでしょう?」
そう問われた私の頭に、すぐにいくつかの薬品の名前が浮かぶ。
だが、それと同時にちょっとした思いつきも浮かんできた。
私は考え抜いた末に、ジョージに答えた。
「デクスセリタペインがいいな」
可哀相なジョージは目をきょろきょろと泳がせる。
おそらくデクスセリタペインという聞き覚えのない薬に戸惑っているのだろう。
まあ、私が適当にでっち上げた薬なので当然である。
私は大袈裟になりすぎないよう注意しながら溜息をつき、やむなしという風に言葉を添える。
「無ければ珈琲でもいい。あれを冷まして飲むと同じような効果がある」
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