第4話 明かされる秘密

 男は去ったが、しばらくしてジェイシカを連れて帰って来た。


 今日のジェイシカは相変わらずお似合いの襟付カラーシャツと、それによく合う山高帽を被っていた。彼女は前に会ったときと比べ、口調こそ丁寧だがどこか横柄な態度で私に接してきた。


「どうもドクターカーン、このたびは私の部下がご迷惑をお掛けしたようで申し訳ない」


「お気遣いなくミスジェイシカ、医師に迷惑をかけるのは患者の権利です。ただしそれが本物の患者なら、ですが」


 ジェイシカは私に笑みを返した。

 それは爽やかな魅力にあふれ、後ろめたいことなど何もないと言いたげな顔だった。


「隠し事があるのは認めます。しかし、とてもデリケートな問題のため、知ればドクターは少し面倒なことになってしまうのです。確認ですが、解熱剤だけいただくわけにはいきませんか?」


「前回処方したものより強い薬、という意味であれば答えはNOです。強い薬は身体に負担をかけます。分量を間違えれば命に関わる問題ですから」


 しばらく重苦しい沈黙が続いた。

 私はふと、ジェイシカが演劇の一幕のように剣を抜き放ち、私を一刀両断に始末するのではないかという妄想に囚われた。

 しかし当然そんなことはなく、やがてジェイシカは降参したと言わんばかりに肩をすくませ、絞り出すように言葉を吐く。


「……であれば仕方ないですね。ただし、このことは他言無用で願います」


 そう話すジェイシカの瞳は笑っていなかった。



 ********



 ジェイシカに連れて来られた馬車は、一見どこにでもある普通の幌付き馬車だった。


「確認ですがドクター、この中で見たものは一切の他言無用でお願いしますよ」


「分かっています」


 私の答えに満足したのかどうか分からないが、ジェイシカは馬車の中へ入っていく。

 続くように中へ足を踏み入れた私を待っていたのは、鉄の檻だった。


 荷台のほとんどを占める大きく頑丈な檻。

 そのなかにいたのは、この世のものとは思えないほど美しい、一頭の白馬だった。


 正直に言うと、予想は裏切られた。

 私は漠然とだが、中に奴隷でもいるのではないかと思っていたのだ。


 馬一頭のために特別な馬車を用意し、これほど厳重に隠す必要はない。

 この馬には何か秘密があるはずだった。


 そう思ってよく見ると、白馬には大きな特徴があることに気が付く。

 それは、額から生える一本の角。


「ユニコーン……まさか本物?」


「不用意な発言は寿命を縮めますよ、ドクター」


 ジェイシカに睨まれ、私は口をつぐむ。

 内心の動揺を必死に抑えつつ檻の中に入り、ユニコーンを診察する。


 最初そのユニコーンはただ眠っているのかと思ったが、おそらく麻酔を使ったのだろう痕跡が見つかった。

 そっと首筋に触れてみると、たしかに異常な発熱がみられた。


「麻酔の打ちすぎですね。身体が弱っているから自力で病を治すこともできない。ろくに餌も食べられてないのでは?」


 無精ヒゲの男が何度も頭を下げながら答える。


「はい、ドクターのおっしゃる通りで。麻酔が切れると暴れるので、そのたびに注射していたんですが、すっかり弱ってしまって……」


「とりあえず栄養剤を注入します。次目覚めたときには無理にでも何か食べさせましょう。麻酔はそれからです」


 私がそう言うと、無精ヒゲの顔に恐怖が浮かぶ。

 しかしジェイシカがひと睨みすると、彼はしぶしぶ引き下がった。


「ではドクター、よろしくお願いします。ロランさんのことはお気になさらず。私の方でうまく言っておきますよ」


 言い捨てるようにジェイシカは馬車を出ていく。


 その瞬間から、私の軟禁生活が始まった。

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