第25話「私は単にやらないだけ、面倒くさいから」

「お掃除サービスにでも登録しようかな? そういうのやってくれる業者さんがあるんだよね?」


「あのなぁ。普通の大学生をやりたいんなら、家事くらい一人でできるようになろうぜ。みんなやってることなんだから」


「えー……」


「っていうかゴミぐらい捨てろよな」

「やろうとはしたのよ、やろうとは。やろうとはしたの。でも面倒でね?」


「面倒でもやらないといけないの」

「えへへ……」


 優香が笑ってごまかすのを横目に、俺は教科書とかあれやこれや持っていた荷物を置くと、いかにも出前を頼んで食べた後にほったらかしにしてあった食事後のゴミを、燃えるゴミと容器包装プラスチックに分け、目についたゴミ袋へと投入する。


「食べ物関連はすぐに冷蔵庫に入れるか捨てる。常識だぞ」


 まったく不衛生なんだから。

 こんなことして「G」が出ても自業自得だからな?


「まさかゴミを捨てるのに分別しないといけないなんて、思いもよらなかったわ。実家ではそんなことしていなかったんだもの。誰が決めたのよ、こんな非効率的なルール」


「そこからかい……」

 超上級国民はすごいなぁ……なんでも誰かがやってくれるんだから。


「今思えば、きっと実家ではお手伝いさんが全部やってくれてたんでしょうね」


「お手伝いさんって、ほんとにいるんだな。ちなみに明日香。明日香ってまさか一人暮らしするのに料理もできないのか? さっき捨てたゴミ、1食分には見えなかったんだけど。まさか食事は全部、出前を取ってるのか?」

 

 俺は呆れたように尋ねた。

 出前は雨の日とかは便利だろうけど、毎日やるとなるとさすがに高くつきすぎる。


「失礼ね、料理くらいできるわよ」

「できないから出前に頼ってるんだろ?」


「ふふん、リョータくんにいいことを教えてあげるわ」

「いいこと?」


「人生の教訓だから心して聞くことね」

「お、おう。なんだよ」


 明日香が何が言いたいのかさっぱり予想がつかないけど、そこまで言うならしっかり聞いてやろうじゃないか。


「『できること』と『やれること』は似て非なるものなのよ。私は単にやらないだけ、面倒くさいから」


「アホなことを偉そうに語ってんじゃねぇよ、この超絶ハイパー上級国民め! 何が人生の教訓だ、ものぐさなだけじゃねーか! 真面目に聞こうとした俺がアホみたいだろ!」


「だって考えても見てよ? 毎日ご飯を作るなんてすごく大変じゃない? 面倒くさすぎて、一人暮らし1日目にして即やる気がなくなってしまったわ」


「おいこら」


「それに駅前に行けばまぁまぁいい感じのお店もあるし? 最近はなんでも出前してもらえるし? だったらここは専門家に任せようと私は思ったわけ」


「くっ、これだからお嬢さまって奴はよ……!? 外食は高いし、出前代だって余計にかかるってのに」


「お金持ちがパーッとお金を使わないと経済が回らないでしょ? 金は天下の回り物。お金持ちがお金を使うのは一種の社会貢献だって、パパが言ってたわよ?」


「金持ち自慢をしているだけなのに、絶妙に正論なのが妙にムカつくぞぉぉぉ……。それ間違っても外では言わないようにな。絶対に反感を買うからな?」


「わ、わかったわ」


 ――と。


 ぐ~~。

 食事の話をしたからか、俺の腹が小さく鳴った。

 お腹を軽く抑えながらリビングにあった掛け時計に視線を向けると、時刻は18時。

 そろそろ晩ご飯の時間だった。

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