第24話「俺だって言いたかないよ」
「すげえ、エレベーターを出たらすぐに玄関がある……っていうか玄関しかなくて、廊下がないんだけど……?」
マンションは普通、エレベーターを出ると廊下があって、等間隔に玄関が並んでいるものだ。
「なに言ってるのよ。この階は私一人しか住んでないから当然でしょ?」
「た、たしかに」
明日香はさらりとすごいことを言ってのけると、カードキーを通して扉を開ける。
ゴクリ、と俺の喉が鳴った。
なにせこの先に待ち受けているのは、超ウルトラ高級マンションの最上階の、スペシャルでゴージャスなお部屋なのだ。
ど、どんな部屋なんだろうな?
緊張感とともに、始めて見る上級ルームへのワクワクを抑え切れない俺の目に映ったのは――、
「なんていうか、片付いてないな……。つーか、きったねぇ……」
俺は目の前の状況を、正直に感想にしてつぶやいた。
たしかに広いリビングだった。
しかもお洒落だ。
そういうのに全然詳しくない俺が見ても、
「ワオッ! おっしゃれ~!」
って思うくらいに超絶お洒落だ。
白と茶色を基調とした内装は、シックで高級感に溢れていて、フローリングはつやつや。
ソファはむやみやたらとでかくて高そうだし、加えて100インチくらいありそうな大きなテレビ&シアターセットが置いてあるのに、全然狭さを感じない圧倒的な間取りの広さときた。
小さめの体育館くらいはある。
さらにはテレビの前にはふかふかの高そうなカーペットが敷いてあるし、天井照明はシャンデリアかよってくらいに装飾過多な高級品で、窓からは大阪の夜景がキラキラと垣間見える。
ベランダの先にある空中庭園に出れば、さぞかし綺麗な夜景が見えることだろう。
まさに選ばれし上級国民だけが住むことを許される、スペシャルVIPルームだった。
だがしかし、だ。
見るからに高そうなブランドものの服があちこちに脱ぎ散らかされているし、ファッション誌や漫画がソファの脇に無造作に落ちていたり、食べかけのお菓子の袋が封もされずに放置されていたりと、明らかに管理が行き届いていないんだが?
チラリとキッチンに目を向けると、何枚もの食器がシンクに突っ込まれたままだった。
「ちょっとリョータくん。人の家にあがって早々いきなり失礼ね。片付けがちょろーっと行き届いていないだけじゃない」
「いや片付けろよ。俺だって言いたかないよ。っていうか、これはちょろーっとじゃないからな? ガチでダメな感じだからな?」
「えー……」
「ここに引っ越してきたばかりなんだろ?」
「そうよ。高校を卒業してからだし」
「なのにこの散らかしよう……せっかくのいい部屋が台無しじゃないか」
「だって片付けって面倒くさいんだもん。お手伝いさんもいないし」
「面倒くさいって、そりゃ一人暮らしなんだから、全部自分でやらないといけないに決まってるだろ」
「うーん。これはものすごく盲点だったわね。恐るべし、一人暮らし」
「盲点どころか、一人暮らしをしようと思ったら、まず一番最初に思うことだっての」
面倒な家事をどう効率的にこなすかは、一人暮らしにおける最重要課題だ。
俺だって母さんに家事のコツを色々と教えて貰ってもらってから、一人暮らしをしている。
「お手伝いさんを付けてくれるようにパパに頼もうかしら」
「頼めるなら頼んだほうがいいんじゃないか?」
「でもそうしたら、パパは絶対スパイを送り込んでくるだろうし、悩ましいわね」
「スパイって……親子だろ?」
「さっきも言ったと思うけど、パパってすごく過保護なのよね。これ幸いと自分に忠実なお手伝いさんを送り込んで来て、アレコレ報告させるのは間違いないわ」
「そ、そうか……。お金持ちの親子関係って、結構大変なんだな……」
「そうなのよ。もうパパにはほんと困っちゃうわ」
「お、おう……」
明日香は美人だし、世間知らずだし。
多分マジのガチに過保護なんだろうな。
というか過保護すぎて、世間知らずに育ったんだろうけど。
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