第26話「俺の言ったこと、実は全然分かってないなお前!?」
「そういえば晩ご飯を買ってくるの忘れちゃったわね。今日はもう遅いし、出前にしましょう」
「なぁ明日香」
「なに?」
「明日香に足りないものが分かった気がする」
「藪から棒にどうしたのよ?」
「もし明日香が一般的で庶民的な学生生活を送りたいのなら、まずはそんな風になんでもお金で解決しようとするところを、改善するべきだと俺は思う。普通の大学生はそんなにホイホイ出前を頼んだりするお金は持ってないから。間違いなくそれだけで周りから浮く」
浮くだけならまだしも、妬まれたり反感でも買ったりしたら普通の学園生活なんて送りようがなくなってしまうだろう。
「なるほどね。一理あるわ」
「そういうわけだから、まず今日の晩ご飯は自炊にしよう」
「えー、今日はいいんじゃない? 今から作るなんてしんどすぎるもの。これは明日からの課題ってことで、ね? ほら、食材もないし、今日は特別にちゃちゃっと出前にしましょうよ?」
「俺の言ったこと、実は全然分かってないなお前!?」
「そ、そんなことはないわよ」
「普通の大学生はしんどくても忙しくても、自炊するもんなんだ。なぜなら金がないから。わかるよな?」
「わ、わかったわ」
明日香は超お金持ちのお嬢さまなので、多分本質的にはわかってないんだろうけど、そこはおいおい実感していってもらうしかない。
「でも、そうだな……そういうことならしばらくは俺がご飯を作るよ」
「え? いいの?」
「泊めてくれるお礼に、俺は明日香に庶民の学生の自炊がどんなもんかを教える。ギブ・アンド・テイクってやつだ。その方が俺も気が楽だし」
「そんなの気にしなくていいのに。私たち一応カップルなんだし」
「偽のな。っていうか、2人きりの時まで、カップルの振りをする必要はないだろ? 他に誰もいないんだし」
ここは絶対に誰にも見られない100%安全な場所だ。
「しいて言うならリョータくんが女慣れするようにかな? その方が早く慣れるんじゃないかしら?」
「そりゃどうも。でも先に言っておくけど、毎日は無理だし、難しいのは作れないからな? 学食とかスーパーの総菜とかは併用必須だ。それでも全部出前か外食よりは、はるかに経済的だ。これが普通の一人暮らしだ」
っていうか全て自炊までいくと、逆にちょっと効率が悪いと思うんだよな。
主食の米や、簡単な料理は自炊して、豚の生姜焼きとか魚の煮つけとか難しくて手間がかかる料理は、出来合いのものを買った方がコスパとタイパのバランスがいいと思う。
ついでに俺の超適当な一人暮らし料理を見ることで、手間のかからない簡単な料理を覚えていけば、明日香も料理をしたくなるかもしれないし。
多分だけど、明日香は最初ガチの「料理」をしたと思うんだ。
だから手間暇かかって面倒くさくなってやらなくなった。
俺だって毎日ガチで料理しろって言われたら、さすがに面倒くさく感じるし。
大学生という貴重な時間は、料理だけでなく様々なことに有意義に使われなければならないはずだ。
「リョータくん、あなたはとてもいい人ね! やっぱり私の目に狂いはなかったわ」
「これも先に言っておくけど、口に合わなくても文句言わないでくれよな? 俺は三ツ星レストランのシェフじゃないんだから」
「大丈夫よ、食べ物は割と何でも食べられる方だから」
そういえば、さっき捨てた食べかけのお菓子の中にポテチがあったけか。
お嬢さまもポテチ食べるんだなと思ったけど、そういう意味では少し安心だ。
「そっか、なら安心だ。じゃあちょっと冷蔵庫を見てみるな」
「どうぞ」
明日香の了解を貰うと、俺はリビングの奥にあるキッチンへと向かった。
俺が何をどうするのか興味があるのか、明日香はカルガモのヒナのごとく俺の後をついてきた。
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