第13話「だって私には許嫁がいるから、本命のカレシなんて作る必要はないんだもの」

「だけどもし、だよ? リョータくんがカレシになってくれたら、声をかけてくる男の人はいなくなると思うの」


「それはつまり俺の顔が怖いからだよな?」


「ありていに言えばそういうことね。さっきのチャラい2人組がリョータくんを見た瞬間に態度を豹変させるのを見て確信したわ。リョータくんの見た目は世界トップクラスよ、間違いなくね」


「その評価は死ぬほど嬉しくないんだが……むしろ俺の心をザックリえぐってくるんだが」


「そう? なんでも一番なのはいいことだと思うけど」

「この見た目のせいで無駄に苦労してきたからなぁ……」


「私は男らしくて悪くないと思うけど。それに男はやっぱり中身じゃない? ナンパ男から女の子を助けるリョータくんは、すごく素敵だったもの」


 明日香が満面の笑みを向けてくる。

 その頬は少し赤くなっていて、上っ面だけの言葉じゃないってことがしっかりと伝わってきた。


「明日香はイイヤツだよな。マジで」


 初対面の相手にしっかりと面と向かってコミュニケーションを取ってもらえるなんて、いつ以来だろうか。

 俺もうこの時点で、心の涙腺が決壊しちゃいそうだった。


「そういうわけで、ね? これなら私たちWin-Winの関係でしょ? リョータくんは私とのお付き合いを通じて、女性恐怖症を治すトレーニングができる。ついでに友達や恋人づくりも手伝ってもらえる」


「明日香は明日香で、俺と契約カップルになることで、やっかいなナンパを全部シャットアウトできると」


「そういうことね」

「なるほど、筋は通っているな。お互いにWin-Winなのも間違いない」

「でしょう?」


 俺のプチ女性恐怖症は、大学の4年間だけでは治らないかもしれない。

 だけど明日香といれば、きっとよくなるはず。


 加えて、おそらく大学でも人気者になるであろう明日香が、俺の人間関係作りに力を貸してくれるっていうのなら、俺としては断る理由はなかった。

 どころか、こちらから土下座をしても頼みたいくらいだ。


 でも、それはやっぱり俺の視点からの話なわけで。


 これだと明日香のメリットがあまりにも少なすぎる気がするんだよな。

 俺だけが一方的に世話を焼かれて得をする状況に思えてしまう。


 そんな風に思っていたこともあって、俺はどうしても確認しておかなければならないことを尋ねることにした。


「言いたいことは分かったけどさ。でも明日香はそれでいいのか?」

「いいって、なにが?」


 明日香がまた右手の人差し指を唇に軽く触れさせながら、上品に首を傾げた。

 これ、さっきからちょこちょこ見せるけど、明日香のちょっとした癖っぽいな。

 S級美人ってこともあって、ハリウッド女優みたいにすごく様になっている。


「だって俺と付き合ってるってアピールしたら、それこそ明日香に本命のカレシができないだろ? 大学の時の交友関係ってのはすごく大事だと思うんだ」


 これが俺の一番の懸念事項だった。


 大学生活というのは、この先の数十年の人生を決めるといっても過言ではない程に、非常に大きな意味を持っている――らしい(ソースはインターネット)。


 大学の時の知り合いと結婚する人もかなり多い――らしい(もちろんソースはインターネット)。


 だっていうのに俺がいるせいで、明日香が本命カレシを作れないなんてことになってしまったら、仮にナンパをシャットアウトできたとしても、失うものが大きすぎるだろう。


 しかし明日香はあっけらかんとした様子で言った。


「それなら問題ないわよ。だって私には許嫁がいるから、本命のカレシなんて作る必要はないんだもの」

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