第12話「じ、自家用ヘリコプター……???? 執事が忘れ物を届ける……????」

「え? なにが?」

 明日香がキョトンとした顔を向けてくる。


「いやいや、ちょっと待ってくれよ。なんか今、『車で送り迎え』なる超上級ワードがさらっと聞こえたんだが?」


「うちの学校だと車での送迎は割と普通だったわよ? 私は経験ないけど、自家用ヘリコプターで執事が忘れ物を届けに来た子もいたし。忘れたのは家庭科の裁縫キットだったかな」


「じ、自家用ヘリコプター???? 執事が忘れ物を届ける???? しかも家庭科の裁縫キットを届けるためだけに??????????????」


 お前は何を言っているんだ?

 ドゥーユースピークジャパニーズ?

 ここは日本なんだから、日本語でしゃべってくれないかな?


「道は混まないし、校舎の屋上にヘリポートがあったから、最短ルートではあるわよね」

「そういうのを飛ばすのって、事前に飛行許可とかがいるんじゃないのか?」


「私はそういうことは詳しくないんだけど、その子のお父さんが国会議員だから、ある程度は融通が利くんじゃないかな?」


「……」


「でもでも知ってる? ヘリコプターってすごくうるさいのよ。バタバタバタバタ! って。うちにもあるけど、狭いし、降りられる場所も限られているし、あんまり乗りたいとは思わないわね」


「なぁ明日香?」

「どうしたのリョータくん?」


「さっきから明日香は何を言っているんだ? とりあえず日本語でしゃべってくれないかな? 俺、英語は全科目で一番の苦手科目なんだよな」


 英語は受験の中でも人一倍、足を引っ張った科目だった。

 英検も準2級止まりだったし。

 だからいきなり英語で話された困るんだよな


「なに言ってるのよ? 私、ずっと日本語でしゃべっているわよ? あ、もしかしてヘリコプターが分からない感じ? でもあれって日本語でなんて訳せばいいのかな? ほらあの、上で羽がグルグルーって回る小型の航空機のことなんだけど。大きなドローンっぽいけど、でもドローンじゃなくて」


 明日香が自分の頭の上で、右の手の平をくるくると円運動で回してみせた。

 コミカルな動作がすごく可愛い。

 クール美人だけど、結構お茶目なところもあるよな、明日香って。


 って、それはおいといて。


「いやいや、さすがにヘリコプターがどんなものかは知っているから」


「あれ? そうなの? なのに通じてないんだよね? なんでだろ? 私ってもしかして説明が下手だったりする? ディベートの授業は結構得意だったんだけど」


 明日香が右手の人さし指を口元に当てながら、優雅な所作で首を傾げる。

 ディベートの授業とかまたもやツッコミどころ満載なんだが、事細かにツッコむと話が進まないので、俺は沸き上がる好奇心を必死に押さえつけてスルーした。


「ごめん、そうじゃなくて。今のは俺が庶民すぎてハイソな会話がすぐには理解できなかっただけだから、特に気にしないでくれ。今はもうちゃんと理解できてるよ」


「あら、そう?」


 オッケーちゃんと理解したよ。

 明日香の家が、ヘリコプターを自己所有――いくらぐらいするんだ?――できるような超がつく上級国民だってことをさ。


「話の腰を折って悪かったな。続けてくれないか」


「それでね。大学が始まっても『こういうこと』が続くのかって思ったら、初日からちょっとげんなりしちゃったのよね」


 明日香がはぁ、と大きなため息をついた。


「美人過ぎるってのも大変だな」

 顔面凶器でもS級美少女でもなんでも、行き過ぎは良くないってことか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る