第14話「えっ、もしかしてリョータくんの家には自家用ヘリコプターはないの?」
「イイナズケ?」
「そ、親が決めた結婚相手がいるの。会ったこともほとんどないんだけどね。でもやり手の実業家で、性格も優しくて、誠実そうな人だったわ」
「もう令和だっていうのに、そういうのって本当にあるんだな。もしかして断れないのか?」
「んー、どうだろう? うちは古い家でシキタリとかもいっぱいあるから、断るのはちょっと難しいかもね」
「そう……なんだな」
ほとんど会ったこともない相手と結婚しないといけないなんて、正直ちょっと同情してしまう。
「大学入学にあたってこの春から一人暮らしを始めたんだけど、それもパパを説得するのが本当に大変だったんだから。うちのパパは過保護でね。あ、言ってなかったけど、こう見えて私ってかなりいいとこのお嬢さまなのよ」
「こう見えてもなにも、ちょっと話しただけで明日香がかなりのお嬢さまなのは伝わってきたけど」
それこそ何を今さらだ。
「え、嘘っ!?」
「なんでそんなに驚くんだよ?」
「だってなるべく普通の女の子に見えるように、意識して振る舞っているつもりだったのよ? なのにまさか、初対面のリョータくんに見抜かれていたなんてびっくりだわ」
「会話の内容が一般庶民とはかけ離れてるし、しゃべり方も落ち着いた感じだし、すごく姿勢が良くて背筋がピンと伸びてるし。あとなんていうか、明日香は存在の根っこのところに高級感が溢れてる感じなんだよな。育ちの良さは隠そうとしても出るもんだなってちょっと思った」
俺が明日香に抱いた第一印象は、そのものズバリお嬢さまだ。
「存在の根っこのところとか言われても、ふんわりとした指摘すぎてリョータくんが何を言っているのかイマイチ分からないわね」
「ごめん、俺もうまく言語化できてないのは自覚してる。なんとなくお嬢さまっぽいオーラがにじみ出てる気がするんだ」
「ふーん?」
「っていうかな? そもそもの話、普通の一般家庭には自家用ヘリコプターなんてものは存在しないからな? その時点でなにをどう振る舞おうが、明日香が超上級お嬢さまなのは確定しちゃってるからな?」
「えっ、もしかしてリョータくんの家には自家用ヘリコプターはないの?」
「んなもんあるわけないだろ!? ヘリコプターを自転車と一緒みたいな感覚で言ってんなよな!?」
あまり低次元なボケ過ぎて、逆に全力でツッコんでもたわ!
「そうだったのね。なるほど、勉強になったわ」
ああこれ、マジで言ってるっぽい。
マジで自家用ヘリコプターを持っているのが当たり前みたいな感性をしてるっぽい。
スゲーな上級国民。
私の上級力は530000ですってか?
その上級力を俺にも少し分けて欲しいぞ!
「だいたい明日香の高校のクラスメイトだって、みんながみんな自家用ヘリコプターを持ってたわけでもないだろ?」
「いいえ? 学校の友だちはみんな自家用ヘリコプターくらいは持っていたわよ? 自家用ジェットは持っていない子がほとんどだったけど」
「…………」
「どうしたの?」
「住んでる世界がマジで違い過ぎると分からされた」
金銭感覚という分野で本来あるはずの共通認識がないどころか、あまりに違い過ぎていて、もはやこの件に関しては会話が成立しえない……。
自家用ヘリコプター『くらい』ってなんだ、自家用ヘリコプター『くらい』って。お嬢さまの世界、スゴすぎるんだが。
俺も一度でいいからそんなハイソサイエティなセリフを言ってみたいなぁ。
「自転車といえばさ」
「なんだよ?」
「自転車ってすごく不思議な乗り物よね」
「なにがだよ? 至ってシンプルな構造だし、不思議なところなんてあるか?」
「だって自分の足でこがないといけないなんてすごく不便じゃない? 進学にあたって電動アシスト付きの自転車を買ってみたんだけど、結局ほとんど使ってなくて、駐輪場に放置しているもの。あれならハイヤーを頼んだ方が楽だし速いと思うのよね」
「みんなが羨む電動アシスト付き自転車様になんて可哀想な仕打ちを! しかも平然とハイヤーを頼んじゃうお嬢さまの金銭感覚も、マジパネェっす!」
あと使ってないんなら、一人暮らし用に安いママチャリを買った俺に譲ってくれてもいいんだよ?
防犯登録の変更費用はもちろん俺が払うからさ。
まぁでも、だ。
冷静に考えてみればそりゃそうだよな。
自家用ヘリとか車で送迎されるのが当たり前のお嬢さまからしたら、アシストがあろうがなかろうが、自分の足でこがないといけない自転車なんて『なんじゃこれ』だよな。
なるほど、勉強になるな(なりません)。
「話が逸れちゃったけど、そういうわけだから、私は大学でカレシを作る必要はないの。だからリョータくんが心配する必要もないわ」
だいぶ逸れていた話がやっとこさ戻ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます