第21話 同棲の提案
「『は?』ってなによ? 付き合ってるんだからお泊りくらいはするでしょ? そもそもこの状況って、カノジョとして以前に人として助けるのが当然だと思うし」
「いや、それはどうだろうな? っていうか明日香も一人暮らしなんだろ? さすがにお邪魔は出来ないよ」
「私のマンションにはリョータくんを受け入れるスペースくらいは十分あるわよ?」
「うわ、マジかよ? そんなに広いのか?」
「広さに関しては申し分ないから、そこは気にしなくても大丈夫よ」
明日香はにっこり笑って言うんだけれど。
「うーん、でもなぁ……」
「さっきからあんまり乗り気じゃないみたいだけど、なにか問題でもある?」
「問題もなにも、だって俺たち男と女だろ? それだと同棲になるし、優香の許嫁に対してもさすがにちょっとまずくないか?」
いくら誠実でいい人でも、若い男とお泊りするのはさすがに許嫁としては許せないだろ。
「今回は緊急事態だし、それにリョータくんは女性恐怖症だからそこは大丈夫じゃないかな?」
「いやいや俺の女性恐怖症が、嘘だったらどうするんだよ? 人の言うことをなんでもホイホイ信じるのは良くないぞ? 世の中悪い奴が多いからな」
最近は詐欺の手口が多様化し、被害額も右肩上がりなのは周知の事実だ。
どれだけ警戒しても警戒しすぎることはない。
「ふふっ、リョータくんに限ってそれはないわね」
「なんで言い切れるんだよ? 特に男相手はもっと警戒した方がいいぞ。あ、これマジな話な」
今日会ったばかりの俺をこんなに信じてしまう明日香のことが、俺はちょっと心配になってしまう。
お嬢さまは世間知らずだもんな。
「だってあんなに嫌そうな顔して接してくる男の人は、生まれて初めてだったもの。もうあの瞬間に私は運命を感じちゃったんだから。これはもう偽カレシになってもらうしかないってね」
「運命ってなにを大げさな――ってこともないのか、明日香の場合は」
事あるごとに男から好意以上の視線を向けられたり声をかけられていた明日香にとって、俺のよそよそしい態度はなるほど、よほど新鮮だったに違いない。
「まぁね。あ、別に自慢してるわけじゃないんだけどね?」
「分かってるっての。明日香の異次元のモテっぷりと、それに困ってるってのは既に実感してるから」
「あらそう?」
「けど、さっきも言ったんだけど、なるべくそういう感情は顔には出さないようにしてるんだけどな」
「顔には出さないようにしていても、視線は全然合わせてくれないし、やたらとそっけないし。気づいちゃったらなんでだろうって気にはなる――くらいには態度に出ちゃってたわよ?」
「マジか……」
顔には出さないようにしていても、もろもろ態物語ってしまっていたというわけか。
「けど最初と比べて少し態度が穏やかになったかも? 相変わらず視線はなかなか合わせてくれないけどね。蒼太くんって目を見てるようで、実はちょっと下を見てるよね?」
「女の子と視線が合うと背中から嫌な汗が出てくるんだ……」
だから俺は女の子と話す時は、目ではなくちょっと下の鼻の辺りを見て話している。
でもそっか、これもバレてるのか。
ってかほんとダメダメじゃん俺。
「そういうわけだから早速、私のマンションに行きましょう。ここから少し行ったところなんだけど、そこまで遠いわけでもないから」
「……じゃあとりあえず落ち着くまでの間だけお邪魔させてもらおうかな?」
俺は警察の人にお願いして貴重品や勉強道具、着替え、その他当面の大学生活に必要になりそうな諸々を手早く取ってくると、友達の家にしばらく止まると親に連絡を入れてから。
カノジョ(偽)である明日香の家へと転がり込んだ――んだけど!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます