第17話『世界の深淵を偶然垣間見てしまった真理の探究者』明日香
「なんの話をしてるんだよ? 1階も2階も入居者は普通に全部埋まっていたぞ。多分全員が学生だ」
契約の時に俺が最後の一人で部屋を選べなかったから、それは間違いない。
「え? まさかあの小さな建物に何人も住んでいるの? ただでさえ小さな建物なのに、それを何人もで分割するだなんて、いったい全体どうやって生活するのよ?」
「どうやっても何も、大学生の一人暮らしなんて1Kとかワンルームがデフォだっての」
「1K……? ワンルーム……? まさか1人につき部屋が1つってこと? 冗談……じゃないのよね? そんな狭い住居スペースで人間が生活するなんて、とても信じられないわ」
明日香はあまりに衝撃だったのか、目を見開いて『世界の深淵を偶然垣間見てしまった真理の探究者』みたいな驚愕の表情をしていた。
マジのガチで本気で驚いていた。
「普通の一般的で平凡な学生は、みんなそういう場所で生活してるんだよ。俺も仕送り額と生活費を考えたら、これでも結構カツカツだし」
そういうこともあって、生活費の足しにするために時間に融通が利いて比較的楽そうな家庭教師のバイトでもしようかなと思っていたんだけど。
なにせこの辺りは俺も含めて国立大学生がうようよと存在している、極めて特別な地域。
いわゆるカテキョー激戦区。
教える側があまりに供給過剰すぎて、生徒を探すのも一苦労なんだと聞いて速攻で諦めました。
「それは知らなかったわね。ありがとうリョータくん、教えてくれて。とても勉強になったわ。なるほど、これが庶民感覚というものなのね」
「これって嫌みでもなんでもなくて、本気で言ってるんだよなぁ……」
お嬢さまの金銭感覚って本っっっ当にすごい。
「でも、それならパパが私のことを心配していたのも納得がいくわね。私の常識は世間の非常識みたいだから。リョータくんと契約カップルをしている間に、私も庶民の常識を学んでいかないと」
「それに関しては、もうちょい学んだ方がいいんじゃないかって、俺も思うかな。さっきの自家用ヘリコプターの会話といい、俺の目から見ても明日香は庶民感覚からかけ離れているからさ」
「後出しになっちゃうんだけど、契約カップルのついでにそういった庶民感覚もついでに教えてくれるとありがたいわね」
明日香が少し申し訳なさそうにお願いを切り出してくる。
「それくらいはお安いご用だよ。契約カップルうんぬんの前に、俺たち同じ大学に通う同級生なんだし。そんなところまで契約とか条件とか言うつもりはないから安心してくれ。だって友達だろ、俺たち」
俺と明日香は『カップル』としては『偽物』だけど、もう『本物』の『友達』にはなっているんだから。
「ありがとうリョータくん。じゃあそこについては頼りにさせてもらうからね?」
「了解。ま、そのことはとりあえず置いておいてだ。ちょうど大家さんがいるから、何があったのか確認してくるよ」
俺は大家さんが警察官と話し終えて、ペットボトル片手に疲れた顔で一息ついているのを見つけていた。
「あ、待ってちょうだい。だったら私も一緒に行くわ。待っている間にまた変な輩に声をかけられちゃいそうだから」
明日香に言われて少し視線を野次馬に向けて見ると、既に明日香にちらほらと視線を向けている男が幾人もいた。
「……ほんと大変だな、美人ってのは。さすがにこれは同情する」
「でしょ?」
明日香はうんざりしたように言うと、はぁ、と大きなため息をついた。
どうやら俺に科された契約カレシって役目は、想像以上に大役のようだ。
自分の果たすべき役割の大きさを改めて認識した俺は、しかし何はともあれ、明日香と連れだって大家さんに何があったのかを聞きに行くことにした。
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