第3話 ナンパされていたS級美少女を助けたら……

 絶望的な孤独を味わった入学式からの帰り道。


 アパートのある石橋阪大前駅で降りて早々、俺は女の子がナンパされているのを見かけてしまった。


 綺麗な長い黒髪が印象的な、とても美人な女の子だ。

 女の子にしては背が高く、出るところは出ていて、女の子が苦手な俺ですら思わず『おっ』と思ってしまうほど。


 服装は上品な感じの真新しいスーツで、腰から太ももにかけて絶妙にフィットしたタイトスカートがすごくオシャレに決まっている。


 年齢は俺とそう変わらなさそうだし、大人びているし、察するに新卒の社会人さんかな?


 そんなS級美少女な女の子は、金色のピアスとかネックレスをいつくもつけたチャラそうな金髪の男2人組に、バッグを掴まれていた。

 そのせいでどうにも逃げるに逃げられないでいるようだ。


「――ったく。女の子が嫌がってるのくらい分かるだろうにさ。はぁ……今日は本当に最悪な日だな」


 ハレの日だってのに朝から思い出したくもない昔の夢を見るし。

 何度も職質はされるし。

 入学式では完全に浮いていて友だちはできないし。

 そして最後にこれだ。


 俺はため息をつきながら女の子のところへと向かった。


 俺は女の子が苦手だ。

 挨拶や事務的な短いやりとりくらいならまだしも、女の子とは少し長めに話すだけで胸がシクシクして気分が滅入ってくる。

 必要がないなら、なるべく女の子とは関わりにはなりたくない。


「だけどそれとこれとは話は別だよな」


 女の子は苦手だし、女の子ってだけでまた笑われてしまいそうで、どうしても心が身構えてしまう。

 だけどそれとは別に、人としてこの状況を放っておくことはできなかった。


 なにより俺には『こういう状況』を打破するための強力な武器があった。

 それを有効活用しない手はない。


「おーい、あんたら。俺のツレになにか用か?」

 俺は3人に近づくと、特に気負うでもなくナンパ男に声をかけた。


 ナンパを邪魔されたチャラ男Aがイラっとした顔で振り向いた後、頭上にある俺の顔を見上げる。


「あ? ツレだと? なんだてめぇは、引っ込んで――ひぃぃぃぃぃっ!? し、失礼しやっしたぁっ!!」


 そして『笑顔』で話しかけた俺の顔を見た途端に、チャラ男Aはそれはもう一目で分かるほどに両目を大きく見開くと、相方のチャラ男Bを置き去りにして一目散に商店街の中へと逃げ去っていった。


「えっ、おい、急にどうした――ひぃぃぃぃっ!? こ、ここここれはその! な、なんでもないんです! ごめんなさいもうしません! だから殺さないでっ!」


 チャラ男Aに見捨て置かれたチャラ男Bも、俺の顔を見るなり速攻で逃げ出していく。


 顔を覚えられたくないからだろう。

 チャラ男2人はどちらも一度たりとも俺の方を振り返ることなく、商店街の人込みの中にマッハで消え失せていった。

 見事なまでの逃げ足の速さだった。


「まったく、人の顔を見ただけで逃げるなよな。何が殺さないでだよ。出会い頭に人なんて殺さねぇっつーの。日本だぞ、ここ。世界一平和で安全な国を舐めるなよ?」


 それにヤクザな顔だって分かっていても、心はしっかり傷つくんだぞ?

 こんな顔だけどまだ10代なんだからな?

 10代の多感で壊れやすいガラスのハートを舐めんなよ?


『笑顔で人を殺しそう』と数少ない友人からすら言われる凶悪な顔面は、今日も朝から大活躍だった。


 さすが俺の顔面だな。

 もはや顔の怖さで、俺にかなうものはいないだろうよ。


 はぁ、分かっていてもやっぱり凹むわ……。


 自分の顔の凶悪さを改めて確認できた俺は、若干ダウナー気味にその場を後にしようとしたんだけど、


「あ、待って」


 ナンパから助けた女の子――間近で見ると本当に綺麗な子だ――が少し慌てた様子で、俺の行く手を阻むように立ち塞がり、じっと俺の顔を見つめてきた。

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